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    ltochiri

    二次創作いろいろ

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    ltochiri

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    英智のバースデー後の『英智デー』にあんずちゃんが呼ばれなかった世界線の英あんです。健全です。

    ##小説
    ##英あん
    #英あん
    britishPlan

    バラの香りを味方につけて 朝の気配に、英智は目を覚ました。
     白い光が、顔を照らす。その眩しさに顔を顰め、思わず寝返りを打っていた。
     できることなら、もう少し眠っていたい。
     上掛けを肩まで引っ張ると、バラの花の香りに包まれて、ますます心地いい気分になる。
     時間的な余裕を欲しがるだなんて、贅沢な話だ。それだけ、穏やかな朝ということだろう。
     まるで、夢みたいな世界だ。
     横たわるベッドの隣には、温かな、自分以外の存在がある。
     手を伸ばしたら触れられる距離に——同じベッドの中に、あの子が……。
     ふと、英智は疑問を抱く。昨夜は何をしていたっけ。
    ——思い出せない。
     英智が薄く目を開くと、横たわっているあんずの顔が間近に迫っていた。顔を覗き込むようにして英智の様子を伺っている。
     その瞳は朝の空の色みたいに澄んでいて、眩しいはずなのになぜか見入ってしまう。気を抜いたら瞳の中へと吸い込まれそうだ。その目がゆっくりと柔らかく形を変える。微笑みかけられたのだと遅れて理解した。そうして英智はあんずの表情に焦点を当てた。

    「起こしちゃいました?」

     色素の薄い唇から透き通るような声で訊ねられ、英智はぱちぱちと瞬きを繰り返す。
     やがて意識がクリアになっていく。脳が働き始めると、英智は真剣に辺りを観察した。
    これはいったいどういう状況か。

    「ここは……」

     知らない部屋だが、室内の調度品には厳かな、けれど無駄のない装飾があしらわれていることから、ホテルの上層階にある一室と思われる。

    「……覚えてないんですか? 昨夜のこと」

     余裕の笑みを見せるあんずに、英智は内心で焦っていた。
     何もしていない、はずだ。でも何もしていないのも、まずいのではないか。
     焦りを悟らせないように、英智は素直な反応を返す。

    「ちょっと、待ってくれないかな」

     上半身を起こし、左手で頭を抱えた。体調を気遣われてしまうかもしれないが、この際そのほうが都合がいい。
     状況を整理しよう、と英智は冷静に己に言い聞かせた。


     昨日は、日曜日だった。
     毎週日曜日はfineのメンバーで集まることになっている。英智のオーバーワークを軽減するためだ。みんなとは家族のように、休みの日を過ごすことにしている。
     誕生日の直後ということもあり、英智はたくさん労われていた。紅茶とお菓子を前に会話を弾ませ、肩が凝っているだろうからとマッサージを受け、絵本の朗読で和んだ。
     途中であくびが出てしまうほど、リラックスしていた。
     せっかくいろいろ用意してくれているのに申し訳ないと思いながら、うつらうつらしはじめて、子どもでもないのに毛布をかけられ、寝てしまいそうだ、と思って目を閉じたのが、英智が思い出せる最後の記憶だった。


     さて、現実に目を向けよう。
     ベッドの上で、男女が二人。することといったらひとつ——そのはずだが、肝心のその行為の記憶がない。
     にも関わらず、あんずは隣で眠っていた。

    「昨日の英智さん、かわいかった」

     甘い声で囁かれた。
     脳が痺れたような感覚。

    「僕をからかうのはよしてほしいな」

     英智は本気で自分の記憶喪失を疑った。
     だがそれはすぐに否定される。

    「ほんとうのことなのに。もう食べれないよ、なんて、子どもみたいな寝言」

     ふふっと笑う無邪気な姿に嘘はなさそうだ。
     寝言ということは、英智はただあんずの隣で寝ていただけということになる。よく確かめてみると、ふたりとも寝る時のパジャマ姿だ。
     やはりそれも問題が、と思う。しかし今は言わない方がいいだろう。あんずの笑顔を見て英智はそう判断した。

    「夢の中の僕が羨ましいよ。出されたものをある食べきれないほど、お腹いっぱいに食べられるなんて。僕の人生で食事は制限されてばかりだから」

     そもそも昨日、あんずは英智デーに参加していなかったはずだ。
     行けないのだと、残念そうに肩を落としていたのを覚えている。

    「たくさん労われて、心が満たされていたんじゃないですか?」
    「それだよ、あんずちゃん」

     なぜ君がいるのか、と、そう質問しかけて、止めた。
     どうしていっしょに一晩過ごしたのか、と、そこまで考えて、それが答え以外の何物でもないと、気づいたからだ。
     おそらく、英智デーも終わる頃に恋人であるあんずと合流させて、最後に最大の労いをしようと、英智の知らないところで計画されていたのだろう。
     実際は、運ばれたことすら気づかないほど眠ってしまっていたが。

    「……まぁ、細かいことは置いておきましょう。起きちゃいますか? それとも、もう少し横になります?」

     英智が逡巡したのを見て、あんずは悟ったのか、はぐらかすように微笑んだ。
     さすがの観察眼だ。英智は心を読まれている気がした。

    「あんずちゃんは、よく眠れた?」

    質問に質問で返したせいか、怪訝そうにあんずは答える。

    「えぇ、気持ちよさそうに寝ている人を見てたら自然に瞼が落ちてきて……よく眠れました」

     だが次第に恥ずかしそうに、声が尻すぼみに小さくなっていく。しかし不満そうではない表情が見られるので、嫌味を言ったわけではなさそうだ。もしかしたら、そのつもりだったのかもしれないけれど。
     はにかんだ笑顔をかわいいと思う反面、付け入る隙ができたと、英智は笑う。
     こうしているだけでも幸せだけれど、もう少し近くに寄りたいと思ったせいもあるだろう。

    「じゃあもう少し横になろうか」
    「え?」

     ぱちくり、と大きな瞳で瞬きをした、その瞬間、上掛けを背負った状態で、英智はあんずを抱きしめた。

    「せっかくの労いを無碍にしちゃいけないよね」

     抱きしめた勢いそのままに押し倒すと、あんずは驚きで目を見開いていた。目は口ほどにものを言うとはあるけれど、あんずほどころころと表情が変わる人間もあまりいないのではないか。少なくとも英智の周りにはいなかった。
     物珍しさが先行しているとはいえ、それは彼女らしさを感じる瞬間でもあり、英智があんずを好きになる要因でもあった。

    「あ、朝ですけど……」

     戸惑うあんずに、英智は不敵に笑う。そして、お茶目な調子で告げた。今にも歌い出しそうなほど、楽しげに。

    「おや、知らないのかい? 男が一番その気になるのは朝なんだよ」
    「……それは、服を着ていない時の話ですよね」

     文句を言いつつその腕は首にまわされる。
     期待のこもった眼差しに変わるあんずの瞳。一時の驚きこそあれ、動揺は見られない。
     その慣れた仕草に、変えがたい優越感と、少しのつまらなさが込み上げてくる。

    「知ってるならなおのこと。そうだ、今日は僕が君を労ってあげよう」

     英智はあんずの小さな耳に向けて囁くと、愛おしげにあんずの髪に触れる。その手は流れるように耳の裏を通り、顎の下をくすぐった。反対側の手は寝巻きの裾から内側へと侵入しようとしている。
     普段は冷たい指先が、今はあたたかい。いつもなら冷たさに反射で硬直するあんずの身体が、くすぐったそうに震えている。きっとあんずの体温を分けてくれているのだと思う。それをまた英智があんずに返して、まるで循環しているみたいだと思った。

    「あ。いや、ちょっ」

     口では抵抗しているが、首の後ろに回された腕がしがみつくように力が入っており、あっという間にキスしてしまいそうなくらい近づいた。

    「顔が真っ赤だよ。いったいどんな想像をしたのか言ってごらん、そのとおりに実際に僕がしてあげる」
    「か、覚悟してください……っ、ん」

     意外な返事を期待して、お互いに減らず口を叩くのもきっとここまでだ。
     静かに口づけを交わしていると、バラの花の香りが鼻腔をくすぐるので、英智は胸がいっぱいになった。あんずの身体から漂っているものだと気づいて、所有欲が満たされたのもそうだけれど、バラの香りが味方をしてくれていると、勝ち誇れる気がしたからだ。
     夢みたいな世界で、あんずといっしょにいられることを嬉しく思っていた。


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    ろじーにゃ

    MOURNINGけっこう前の英あん。続き書かないけどなんかもったいないから供養
    英智くん長期戦のチェスみたいにじわじわあんずちゃんを絡めとる感じがすきだな〜ってのと、あんずちゃん何気にちゃんと気づいてるよね〜っていう。英智くん絶対ズ!の時から権力行使してお茶会してるよね!英あんの不思議な距離感すき
    「あんずちゃん」



    ESビルの廊下を歩いていると、ふいに背後から”あの人”の声がした。反射で振り返れば、天祥院先輩がいつものように品のある柔らかい笑みをうかべてこちらへと近寄ってきた。気のせいか、かすかに穏やかな春の匂いがして、久しぶりに会う先輩の顔色が良さそうだった。...うん、すこし安心した。

    「こんにちは、天祥院先輩。何かご用でしょうか?」
    「こんにちは、あんずちゃん。今は急ぎの用事はあるかい?もし時間があれば、お茶に付き合ってくれないかな」

    小首をかしげて私に尋ねる先輩は、少しいたずらっぽくてあどけない。以前は学院でよく見せてくれていた表情だけれど、今ではあまり見ることがない気がする。生徒会長よりも大きな立場に就いているからだと思う。

    「春の紅茶と苺のミルフィーユを用意したんだ。マカロンもあるよ」

    私を誘うように先輩が告げたラインナップに心がときめいた。先輩が用意してくれる紅茶とスイーツは感動するほど美味しくて大好きだから、ついつい頬がゆるんでしまう。そんな私の様子を見て、先輩がくすりと微笑んだ。...すこし恥ずかしい。

    「ちょうど1時間ほど余裕があるので、ぜひお 1931

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