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    りんご飴

    快新(広義)と3/4組メインでssを書いています
    大体書きかけをここで供養。
    完成したものは基本支部の方に置いてます!

    支部 りんご飴 https://www.pixiv.net/users/94698855
    (支部の方にはあん🌟のお話があります)

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    りんご飴

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    ※なんでも許せる人向け
    ※とても頑張って書いた

    プロットこちら
    https://poipiku.com/9159548/9785144.html
    pixivにも投稿しています
    https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=21402481

    #快新
    fastNew
    #K新
    k-new
    #死ネタ
    newsOfADeath
    #まじコナ腐向け
    forRealKonaRot

    【快新】「この先も、運命」----この先も、運命となっております。----
    ----ご自身を見失うこと無きよう、ご注意くださいませ。----

    ◇◆◇

    <Attention>
    ・キッド/快斗が死にます。
    ・新一の体は戻っていますが、キッドの正体等は知りません。
    ・K新/快新、付き合ってないです。
    ・独自設定がかなり多めです。

    ◇◆◇

    『工藤君。久々の休暇中にすまないね、都合が良ければ杯戸町まで来て欲しい。事件が起きたんだよ』

     雨が降りやまない梅雨のある日。いつもより遅く朝日を浴びて、スマホの通知を確認すると、20分前に目暮警部からのメールが来ていた。
     杯戸町といえば、昨夜キッドが犯行を予告していた場所だ。アイツまたハメられたのか?、少し心配しながら身支度を済ませ、犯行現場に向かった。

    ◇◆◇

    「おはようございます、目暮警部」
    「頼りっきりですまないね工藤君、案内するよ」

     案内されたのは杯戸シティホテル裏の路地裏だった。

    「困ったことがあったら近くの警備員たちに聞いてくれ、ワシはちょっと別のところに行かなきゃならないからね」

     そう言って去る目暮警部に一礼し、現場検証を始める。
     地面には複数の血痕、壁には凭れ掛かっていたことを想像させる人型の黒い影のようなものがこびりついていた。

    「すみません、遺体の方は……?」

     通常なら遺体が横たわっていたり、壁と背中をくっつけるようにして座り込んでいたりすることが多い。だが、案内された場所の周辺には遺体のようなものは無かった。
     もしかしてもう回収されてる?それならその回収場所を教えて欲しい。現場主義のオレはそう思い、近くの警備員に尋ねた。

    「中森警部が預かっていると聞いています、警部は、あちらに」

     中森警部はキッド専任で、殺人とは縁遠いはず。妙な胸騒ぎがして、自然と体が動いた。

    「中森警部、お世話になってます。工藤新一です。今少しお時間よろしいでしょうか」
    「あぁ目暮の……聞きたいことはなんだ?」
    「今回の事件の遺体って、もう解剖の方に回しました?見当たらなくて」

     警部は少し黙り込んで、来い、と手を引っ張られた。着いていかない訳にもいかず、されるがままに足を前へ前へと動かした。

    「あ、あの」

     5分ほど歩いて小さな公園に着くと、警部が恐ろしいことを口にした。

    「無いんだよ、遺体が」
    「へ?」
    「現場にあったのは、さっき見てた血痕と黒いアレと、これだ」

     中森警部のスマホに映った写真、それは、先ほど見ていた事件現場と同じ場所に、ぐちゃぐちゃに投げ捨てられたキッドの正装が残された画像だった。いつものネクタイや、モノクル、白の靴までご丁寧に写されている。
     写真が撮られたのは明け方らしく、自分が来た頃には検証に回されていたんだろう。

    「キッドの衣装で間違いないだろう、だが遺体そのものが見つからない」
    「でもそれって、いつもみたいに逃走しただけなんじゃ……」
    「じゃあどうやって逃げるって言うんだ、こんな手負いで」

     他の写真も確認すると、ズボンの裏地に灰色のインクのようなものが染み込んでいたり、手袋が所々黒く染まってたりして、彩りを失った色味に疑問を抱きながらも、妙に納得してしまう。

    「逃走中に宝石を目当てに誰かに攻撃され、遺体はどこかで処分されたのかもしれない。だがヤツは、誰にどんな目的で狙われてたんだか、サッパリでな」
    「……とりあえず、状況は分かりました。オレも色々調べてみます」

    ◇◆◇

     殺人事件をこれまで何十、何百、何千と解決してきたけれど、ここまで意味の分からない事件は初めてだった。中森警部が転送してくれた資料に何回も目を通したり、キッドの過去の事件を時系列順にまとめたりしてみたが、手掛かりとなりそうなものは見つからなかった。

     キッドが死ぬだなんて考えられない、そう思った時点で殺人事件を解決しようなんてやる気や根気は潰れていくだけだ。そう、キッドは、どれだけ生命の危機に瀕しても、そんな試練軽々と乗り越えていくような、そんな男。アイツの真の目的なんて知ったこっちゃねぇけど、目標を達成するまでは絶対死なないって思ってた。
     結局、オレの脳内に存在していたアイツは、想像上のものでしか無かった、そういうこと。命の恩人のこと、何も知らなかったんだな、オレ。

     俯きがちな背中をぐっと伸ばし、新しい書類に手を伸ばす。時計の針は25時を指していた。あと2時間は起きていられる。この工藤新一に解けない事件は無い、そう自分を鼓舞して机に向き直った。

    ◇◆◇

    「あれ?新ちゃん、寝落ちしてるわよ。せっかく夜食作ったのに!」
    「仕方ないさ。どうやら、身近な人の事件を任されているようだし。新一にとっては、縁遠い人かもしれないけどね」
    「縁遠いように見えて身近な人?誰なのその人は」

     時刻は丑三つ時。ここ数日まともな睡眠を取れていなかったがために、机に突っ伏してうたた寝していると、部屋に灯りが付いていることに気づいたのか母さんたちが部屋に入ってきた。
     完全に起きるタイミングを見失った。今反応したら質問攻めだ。ただ腹が減ってることも事実なのでどうしたものか。

    「親子揃って、似た者同士なんだよ…彼らも、私たちもね」
    「分かりやすく教えてちょうだいよ!」

     ……父さんが言ってる「親子揃って」ってなんだ。オレには知らないことを知っているのか。

    「起きてるんだろ?新一」

    「え、あ、バレてた?」
    「それより、新一宛てにお届け物だよ。好敵手からの最後の予告状…手紙に近いようだが」

     最後の予告状…いい予感と悪い予感、どっちもが混ざったような緊張感。期待するなと自信に言い聞かせても無駄で、きっと今の自分の顔は、いつにも増して輝いているだろう。
     いつものカードじゃなく、数枚の便箋が入ったような封筒を受け取り、一人で読むから!と母さんたちを追い出した。

    ◇◆◇

     dear:工藤新一 様

     『名探偵へ』
     『かの有名な工藤新一様宛てに手紙を書くなんて初めてだから、緊張するんだけど。ちゃんと名探偵の元に届いてるかな』
     『単刀直入に言うと、実はオレ、もうちょっとで怪盗を引退するんだ。名探偵にとっては現行犯逮捕が出来なくなるってことだから、悲しいお知らせかもしんねぇな』
     『それで、一つ名探偵に頼みがある。怪盗を辞めるって書いたけど、そのときまでオレが生きてられる可能性はほぼ無いんだ。深い事情は言えないけど、呪いみたいなもんだと思ってくれ。その呪いに殺されちゃうかもしれない』
     『だから、オレが死んだときは。名探偵がオレの最後の謎を解いてほしい。オレを“墓場という監獄に入れる”のは、名探偵なんだろ?』

     from:    

    ◇◆◇

     時間が無かったのか、所々インクが飛び散った、書き殴りの遺言。ご丁寧に暗号付きで送ってきやがった。しかも一目見ただけで分かる、いつも通りの作り方で。いつもの犯行のように、オレの心を見透かして誘導するかのように。
     恐らくその、オレに対していつまでも舐めた態度をとる大怪盗の正体は、江古田在住、学生、クロバ カイト。なんとなく番地も分かったような気がする。
     なんでコイツは急に個人情報を開示してんだ?と思うが、本当に死んだのなら隠す必要もないんだろう。
     キッドの行動によって、信憑性が増していく、悪寒がする。現実を受け止めたくない、このまま時間が止まって欲しい、あわよくば、前会ったあの日に戻りたい。

     叶わぬ願いを脳内でかき混ぜて、結局眠りについたのは、朝日が時の流れを知らせる明け方頃だった。

    ◇◆◇

    「黒羽家、黒羽、黒羽、あ」

     真っ白な外観が良く目立つ、立派な一戸建て。ここが、キッドの家。こんな綺麗な家、コイツの実家は相当な金持ちなんだろう。確か、怪盗淑女が母親だとか、なんだとか、そういう話を前にした気がする。
     玄関の灯りは確かに付いていて中に人が居るのは確かだけど、高校生探偵、警察と手を組んでいるオレが訪問しちゃ身構えるだろうか、と思いインターホンに手を伸ばせない。キッドの家族だと思えば手荒な真似はしないだろうが、スタンガンで気絶ぐらいは有り得るかも。

     そんな杞憂は無駄だったのか、ガチャリと目の前の扉が開き、30代ぐらいの主婦に見える女性が「いらっしゃい!」と中に入れてくれた。
     誰?キッドの母親?マジ?若くね?戸惑いつつも、リビングの方に案内された。周りを見渡しても、本当に普通の高校生が暮らしているような家でしかなくて、シンガポールのときに何となく感じた「いいとこのお坊ちゃま感」の答え合わせをされているようだった。

     2階の居間でお高そうな紅茶とお菓子を出され、一度はお断わりしたものの、「聞きたいことがあるんでしょ?」と言われ、ぐうの音も出ず腰を下ろした。

    ◇◆◇

    「ウワサの名探偵さんよね?いつも快斗がお世話になってる」
    「初めまして、工藤新一です、えーっと。カイトってキッドの……」
    「そうそう、快斗って名探偵さんにどれぐらい話してたのかしら?生憎そこら辺詳しくなくてね」

     色々話を聞いてみるものの、黒羽家はかなりの放任主義で息子の怪盗業にもほとんど口を突っ込んでいなかったらしい。一度止めたらしいが、キッドの決意は簡単には揺るがないことを察し、また海外で暮らし始めたそう。
     また、キッドの父親は8年前に死んでいるらしい。そこら辺の詳細はオレには話せないらしく、キッド本人も深く知らないんだとか。

    「新一くんなら簡単に推理出来そうな内容まで話しちゃったわね、謎解きの楽しみ奪っちゃったかしら?」
    「いえいえ、オレはキッドのこと全然知らないので、本当に助かります」

     そもそも、この場所を知ったのだってつい昨日なので。苦笑いでそう付け足すと、凄く驚かれた。

    「新一くんの話を聞く限り、快斗は新一くんのことかなり信頼してるはずなのに、全然教えて無かったのね。快斗は昔から話が合う子がいなくてね。新一くん頭良いし、気に入ってたんじゃないかしら。」
    「そうですかね?」
    「新一くん鈍感なところあるし!快斗から手厚く色々されてたんじゃないの?」

     思い当たる節なんて無……ありすぎる。イースターエッグのときの完全御厚意でオレに変装したことから始まり、一番ヤバかったのはシンガポール。それ以外だと、スタンガンで気絶させた後、お持ち帰りしようとしてたのも結構酷い。オレの正体について、知り合ってすぐ気づいてるのも普通に怖かったし。

    「とにかく、2人がそういうことなら!快斗の部屋に案内するわ。調べに来たのよね」
    「ありがとうございます」

     2人がそういうことなら!が引っかかる。何だと思われてるんだ。
     でもキッドの部屋を覗けるなんて貴重な機会だし、何もツッコまず席を立った。

    ◇◆◇

     キッドの部屋は、まあ予想通りと言ったような部屋だった。男子高校生らしく、警察を小馬鹿にする大怪盗らしく。
     キッドが失踪してから今の今まで誰も入ってないようで、部屋は散らかっていた。好きに触って良いと許可してくれたので、常に携帯している白手袋を付け捜査を開始する。

     高校のテキスト、青を基調としたジャージ、床に散らばった満点の解答用紙とか。大体大学生かオレと同い年ぐらいには思っていたが、こうやって目の当たりにしても実感が無い。あ、ベッドの下にエロ本あんじゃん、マジで高校生だ。
     戸棚を覗くと、マジックの小道具、怪盗業について調べたノートが片付けられていて、仕事に関するものはちゃんとしてるんだなと少し感心する。奥の方には、危なそうな栄養剤や残り少なくなった鎮痛剤の小瓶、その他にも目を覆いたくなるようなものが沢山詰まっていた。
     それだけでなく、ごみ箱にはオレ宛てにキッドが書いた手紙が何枚か捨てられていて、文字を流し目で見ると『助けてくれ』だとか『死にたくないな』だとか。全部黒く塗りつぶして捨てられていたけど、まあなんとなく読めてしまう。

     ここまで目を向けずにいたが、キッドの机の上は酷いことになっていた。ビックジュエルを破壊したとしか考えられないような、1cm未満の宝石のカケラが机いっぱいに散らばっている。元の宝石はおそらく透き通った青系統の色合いをしていて、カケラは空や海を想像させる色味。事件解決の手がかりになるか?そうじゃなくとも、少しだけもらっていこうかと、カケラを2つほど小袋に収めた。
     机の上を覆っていたカケラを端に寄せると、隠されて見えなくなっていたノートが目に入る。

    「『Pandora note』……?」

     ごく普通のB5ノートで、表紙に『Pandora note』と記されている。
     パンドラってなんだ?ただ単に開けちゃダメって意味の、秘密のノートってことか?散々部屋を荒らした後になんだとは思うが、他人の秘密を暴くことに関して後ろめたい気持ちは確かにある。後ろめたさだけじゃなく、迫り来る不安感もあった。

     もしとんでもない内容だったら、どうしよう。

     今のオレの脳は、1日に受け入れられる情報量のキャパシティの限界と戦っている。キッドの個人情報、家族関係、そしてこの部屋の有様。色んな事件を見てきて、他者の感情や行動に介入しないよう努力してきたが、キッドは、こう、何か、別で。どうしてか、寄り添いたくなってしまう。こんなの本人の前で言ったら軽く煽られてしまいそうだが。
     だから、直感的に今、中を覗くのは避けた方がいいと感じた。でも捜査の手がかりになるような予感はあったので持ち帰るのを忘れないよう、そっとベッドの上に乗せておく。

    ◇◆◇

     その後、体感30分ぐらい部屋の中を探してみたが大したものは見つからなかったため、先程のノートと宝石のカケラの2つだけを持ち帰ることにした。

    ◇◆◇

    「意味分かんねー」

     広々とした書斎にオレの声が響き渡る。
     遡ること数時間前。夕食を終えて調子が戻ってきたオレは、試しにノートの1ページ目を覗いてみた。そこには現実的に有り得ない事象、『不老不死』の効果を持った宝石について述べられていた。不老不死?……べ、別に信じてなんかない。信じるわけがない。だけど、書かれている内容はオカルト的で、他人事のオレからしたら面白かった。いや、事件任されてっから他人事じゃないんだけど。
     んじゃキッドは不老不死になりたかったのか?そんな馬鹿げた夢を叶えようと犯罪者になったのか?嫌な推理が脳を覆ったが、そんなわけないだろう。そう答え合わせをするように次へ次へとページをめくった。
     自分用のノートに自分が分かっているようなことは大抵書かないし、キッド自身の明確な目的も書かれていなかった。でも、これだけ記録があればすぐ分かるだろう。

     ところが、現実は甘くなかった。

    「どこにも詳しいことは書いてねぇし、こんなの全部スピリチュアル本じゃねーか」

     ノートを手がかりに、その『パンドラ』なるものを調べ始めた、それはもう隅から隅まで本を漁った。父さんと母さんは付き合いの飲みがあるらしく夕方から家を空けていたから、優雅に1人きりで。
     でも、都市伝説まとめみたいな本にしか不老不死なんて載ってないし、さすがに都市伝説なんて信じたくない……。他にもキッドの父親である『黒羽盗一』について探してもみたが、大した記録は残っておらず、キッドのノートに記されていること、キッドの母親に聞いたこと、それ以上のことは分からない。

     完全に推理が行き詰っていることは明白。そもそもキッドは本当に死んだのかってとこから考えるべきなのかもしれない。オレがキッドのことを勝手に信用してるだけで、あの手紙もウソな可能性だって十分にある、捜査を錯乱させるためにはオレに偽の証拠を預けるのが一番手っ取り早いのだから。
     だけどそれだけは考えたくなかった。コナンの頃からずっとアイツに振り回されてばっかり、せっかく元の姿に戻ってちょっとは対等になれたと思ったのに。家が近かったら仲のいい幼馴染だったかもしれねーな、学校が同じだったらテストの点数で張り合ってたかも、負けそうだからヤダな、そんなことを想像する日が確かにあったよ、オレは。犯罪者に夢を抱くなんて馬鹿みてぇだけど、キッドは観客に夢を与え続けてたなら、この感情は別に間違いじゃない、なんて思うんだ。

    「……また会いてぇなぁ、一目でいいからさ」

    ◇◆◇

     長い1日だったなぁなんてぼやきつつ、何周も回って原点回帰しかしてない。焦る焦る、そんな思いを抱きつつ自室に戻る。無視を貫き通していたが、キッドの部屋を覗いてから、やけに体が怠い。きっと寝不足や、あの惨状を見たせいだろうと決めつけていたが、意識せずにはいられないぐらいに悪くなってきていた。今日はもう寝てやる!キッドが言ってた呪いのせいとかだったらマジで許さねーから!

     そうだ、すっかり忘れてたけど、宝石のカケラ持って帰ってたんだった。洗濯機で回しちまうとこだった、危ない危ない。
     ベッドに寝転がりながらズボンのポッケの中をかき回す。体勢を変えようと起き上がると、お目当てのものが手に触れた。あ、ちゃんとあった、よかった。確認するようにそっと取り出した。

     窓から漏れる月光。その輝きとオレの手の中にあるカケラが重なった、刹那。バチバチと火花を散らし、そのカケラは溶けるように消滅した。

    「は?」

     火花を散らした、それは幻覚じゃなかったのかもしれない。オレの目の前には、火が消えた後のような煙が立ち上がる。
     アイツがよく使う煙幕が頭に浮かぶ、その煙幕の数秒後にあるものは。待ち兼ねた、待ちくたびれた、イリュージョン。

    「……めいたんてー……」

     いつもの声に、感情の何もかもを乗せて、ふっと吐かれた儚い言葉。その台詞が示すものは。

    ◇◆◇

     いつもならマントで見えない背中から真っ白の羽を生やした、キッドが、キッドなんだよな、幻影のようにオレの虹彩に映った。

    「手こずっちゃって、名探偵ならこれぐらいの謎、指先でちょちょいのちょいだろ」
    「っ!?」

     手を伸ばせば届く距離だった、だから手を伸ばした、でも、届かない。
     勢い任せのオレの手は、水の中に手を入れたみたいに、少しの圧力を感じながらキッドの体を貫通した。貫通、したのだ。

    「オレの、手、なんで」
    「だってオレ死んでるんだもん、幽霊みてーな?そんな感じ」

     いつも通りの笑顔を魅せるキッドが、今だけは少し怖かった。なんで笑ってんだよ、心残りとかねーのかよ、なんで、そんな。

    「えーっと、名探偵はどこまで分かってるんだっけ?オレがパンドラを破壊したのは知ってる?」

     今にも泣きそうなオレが求めていた、ただ一つの真実。それを明かすようにキッドは一連のタネを話し始めた。

    ◇◆◇

    「まず、オレは『パンドラ』っつー宝石を探してた、それが、杯戸シティホテルで期間限定展示されてたビックジュエル。1週間前にホテルに潜入したとき、偶然月明かりが宝石に当たってさ、宝石の中心が赤くなったから、盗って確認する前から分かってたんだよ。オレの目的は、知っての通り『パンドラを破壊すること』。盗んですぐ壊しちまおうと思ったんだが、ずっと手で持ってたら全身潰れるぐらいの痛みに襲われて。多分不老不死とかの力が凄すぎて、そういう仕様になってんだろうな。だからどっかの本で読んだように、その効果をいくつかの宝石に分散させて破壊した。その宝石は、前々からこっそり集めてたんだけど。んで、元のビックジュエルだけでも返しておこうと思って、家から杯戸シティホテルに戻ろうとしたときに、な?」

    ◇◆◇

    <快斗side 回想>

     なんだ、これ。
     パンドラはもう破壊したはずなのに、全身焼けるように痛い、息が苦しい、足が痺れて思うように動かない。いつも最善の方法を導き出してくれる自慢の頭脳も、チカチカ点滅して何も分からなくなっている。
     どうしよう、オレ死んじゃう?キッドとしての役目は果たしたけど、オレ自身の夢とかは全部無かったことにされんの?ヤバい、意識ぐちゃぐちゃになってきた。ここで死んだら、オレ、可哀想な犯罪者って観客に認識されておしまいってことだよな、キッドの名を最後の最後に穢して、おしまいなんて、それだけは。

     そうだ、名探偵なら。名探偵なら、オレの謎、解いてくれるはず。
     杯戸シティホテルに戻る途中、名探偵の家に寄ろう。ポストに一通の手紙を残せば、名探偵が困った顔をしながら事件解決へ流れを持って行ってくれるだろう。

     今から考えたら馬鹿な話だ。オレは名探偵のことを知っているが、名探偵はオレのことを全然知らないのだから。名前と住所を教えたぐらいで、真相に辿り着くなど無茶なこと。
     だけど、そんなことはなかった。結果論に過ぎないとはいえ、オレは今、名探偵の部屋にいる。宝石を返す道中、何回も血を吐いて意識を手放し、気づいたら空の上に居た、このオレが。名探偵がオレの部屋に入り、宝石を盗んで月にかざしてくれたおかげで。
     
    ◇◆◇

    「人の部屋から勝手に宝石を盗み出して、月にかざすだなんて、名探偵もオレとやってること同じじゃん」
    「一緒にすんな、馬鹿野郎」

     本当にキッドは死んでいたらしい。
     全部オレに丸投げして死ぬつもりで、まあ一応ビックジュエル返しとくか、そんな感じだったと。んで途中で死んだ。激痛の原因は、『パンドラ』を破壊したことによる効果を1人で背負ったことによるもの。『パンドラ』の効果は分散したのに、それを受け取る物は1人だなんて、危ないに決まっている。現場の壁に付いた黒い影や、衣装に付いた無彩色の何かしらも、同様に『パンドラ』のせいだと断言していいだろう。

    「死んだ後、オレぜってー地獄行くと思ってたんだけどさ、なんか天国とか地獄とか、そんなの無かったよ。不思議で、幸せなとこだった」
    「幸せなとこなら、なんで帰ってきたんだよ」
    「だーかーらーそれは、名探偵が宝石使ってオレを呼んだんだよ」
    「呼んだぁ?」

     自らこんな厄介者、呼ぶなんて一生無いが。

    「なんでかは分かんないんだけど、ここがオレの第二の居住地?みたいになっちゃったらしい。オレ遺体とか無かったでしょ?だから完全に死んだんじゃなくて、生と死の狭間で生きてんだよ。微妙な不老不死みてえな感じでな」
    「ちょっと待て、第二の居住地って」
    「そ!空の上とこの部屋、いつでも往来が可能ってコト!さすが理解が早くて助かるよ」

     なんも良くねえよこっちは……。
     我が家かのように絨毯の上にくつろいでるキッドは、少し笑顔を崩して、こう言った。

    「それにさ、ちょっとだけ、心残りだったんだよね」
    「何が」
    「名探偵のことが、だよ、言わなくても分かるだろ?」
    「心残りにされるような、そんな親密な関係じゃねーだろ、オレたちは」

    「……でも名探偵言ってたじゃん『……また会いてぇなぁ、一目でいいからさ』って。空の上からだと丸聞こえなんだぜ」

     は!?聞かれて……

    「あとさ、名探偵はちっとも考えてないと思うけど。オレは、もっと別の場所で、どうでもいいときに出会えてたら、親友とかだったんじゃないかなって、想像するときがあるん、だよね」
    「親友?」
    「例えばさ、休み時間に一緒にサッカーしたりさ、放課後アイス食べに行ったりさ、テスト期間は、どっちが高得点か競ったりとかさ。いつかは周りから『二人で一つ』なんて認知されたりさ。そういうの、オレにとっちゃ、ずっと夢見てたことなんだよ。」

     オレには、そんなヤツ、居なかったから。小さな声で付け足したキッドの顔を、覗くことは出来なかった。
     昼間言われた『快斗は昔から話が合う子がいなくてね。新一くん頭良いし、気に入ってたんじゃないかしら。』、声が鮮明に脳内再生された。

     キッドがオレに固執する理由、オレがキッドのことを大事にしたい理由、ずっとずっと分かんなかったけど、もしかしてそれって一緒なんじゃ。

    「ちょっと重くなりすぎたかな、こんなの、いつものキッドらしくねえな」

     ぐーっと伸びをして、また笑う。心は何も笑ってないのに。
     やっと気づいた、自分の思いを、伝えなきゃ。

    「オレはさ」
    「ん?」
    「オレはさ、らしくないキッドでも、いいと思うよ。そのままの、等身大の黒羽快斗も、キッドと同じぐらい好きだから」

     キッドは目を大きく開けて、ぽかんと空いた口は息を吐いた。
     それに対しオレは、ずっと目がグルグルしている。何言ってんだ、鼓動が早くなる。

     数秒の沈黙、先に破ったのはキッドだった。まるで花でも咲いてるような、ふわっとした笑顔で告げる。

    「ありがとう、工藤新一くん」

    ◇◆◇

    「生きてその言葉聞きたかったな」

     初めて見る、寂し気な表情。

    「来世があれば、こんな遠回りしないで、ちゃんと伝えるから」
    「あはは、ありがと。オレも、もっと早く迎えに行く。絶対」

     子供みたいに約束した。キッドなんだから子供でいいだろ、コナンだから子供でいいだろ?なんて言い訳は、もう通じないのに。
     でもオレらは、来世も来来世もその先も、無意識に惹かれて、当たり前のように出会う。

    「大丈夫、絶対会えるよ」
    「大層な自信だな?だけど、オレも同じ意見」

     だって、オレたちは、

    「「そういう運命、だもんな」」

    To be continue...

    ◇◆◇

    <p.s. (補足説明)>
    ・快斗が今にも空の上に帰りそう!な終わり方をしていますが、快斗の心残りはこんなものじゃないのでいつまでも新一の部屋に入り浸っています。
    ・快斗の状況ですが、厳密には、新一が快斗の部屋に入ったことにより、新一もパンドラの呪いを受けたので、新一が肉体的に死ぬまでの連動的な不老不死です(快斗は遺体ごと空の上に行っちゃったので、新一の遺体が快斗の遺体の役割もする、みたいなことです。新一が死ぬときは遺体ちゃんと残ります。)。もし新一が快斗の部屋に入っていなかったら、快斗は不老不死のまま生と死を行き来していたかもしれないですね。まあそこら辺は快斗なりに器用にやると思いますが。新一の体調が悪くなったのは、お察しの通り、パンドラの呪いが快斗の部屋に少し残っていたからです。
    ・快斗はゆっくりですが、体がちゃんと新一の手で触れられるようになったり、新一の部屋だけでなく色んな場所に出向けるようになったりします。ですが、カケラを月に照らし、現実世界に呼び寄せたのは新一なので、新一にしかその姿は見えません。それを利用し、新一が困っている事件の証拠を少々危険な方法で掴みに行くこともあります。
    ・『空の上とこの部屋、いつでも往来が可能』なので、新一に呼ばれるまで快斗は空の上に居ました。そこで親父さんにも会っています。
    ・パンドラ周りの設定が難しすぎてズレている部分いくつかありますが、見ないふりをしてやってください。

    ◇◆◇

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