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    QQaL5FoqTa

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    QQaL5FoqTa

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    キス止まりの花流が、お互いを大事にしたかったり我慢できなかったりしながら初夜を迎える話です。

    #花流
    flowerFlow

    ビーマイベイベー「触ってもいいか」
     その一言を口にするために、桜木は深呼吸をして、手の平を握り締めて、震える唇を引き結んで、迷い子のように瞳を揺らして流川を見詰める。
     すっかり己専用になった来客用布団に身を委ねていた流川は、少し言葉を詰まらせた桜木の声を聞いて、顔を上げた。緊張した面持ちの桜木と目が合う。暗闇の中見えた紅潮した頬の色は、錯覚ではないと思った。
    「……いーけど」
     流川の返答は、目の前の不安気な表情を一変させた。受け入れられた喜びを満面に浮かべた桜木は落ち着かない様子で、緊張のためぎこちなく体を起こし流川との距離を詰めると、恋人の布団へ潜り込んだ。流川は、桜木のために少しだけ体をずらして場所を作ってやる。桜木がすぐ己に触れられるよう、距離を生まないための必要最低限の移動だった。桜木は興奮のあまり何も言えず、生唾を飲み込んだ。迷い子のようだった瞳を、明確な意志を持つ男のそれに変えて、ゆっくりと手を伸ばす。震える指先を心の中で叱咤しながら、恐る恐る肩を撫で、優しく腕に触れ、思い切って背中へ回して、桜木は、そうしてようやく流川を抱き締めた。寝間着越しにも分かる硬く引き締まった男の体を強く拘束して、玩具を取られまいとする子供のように身を寄せた。

     二人が意地を張り合うチームメイトから恋人という関係に至り、一緒に登下校し、週末は桜木宅へ泊まることが増えて、約三ヶ月が経とうとしていた。季節は冬、冷たく刺さるような風が頬を張り、稀に雪も予報される日々である。
     コート上の流川に対する対抗心は相変わらずだったが、恋人として流川と接する時、桜木は不器用な優しさを見せて流川を驚かせた。桜木の良き理解者である友人曰く、「初めての恋人を大事にしたいんだろう、ああ見えて根は優しい奴だからさ」とのことだ。
     「好きな子と一緒に登下校する」という桜木の夢を果たしたのは、付き合い始めて間もなくのことだった。問題はその後である。手を繋ぐまでに一ヶ月、キスをするまでに更にもう一ヶ月を要した。桜木のペースに合わせていたら何年かかるか分からないと焦れた流川が、度々桜木を煽ったことで関係が進んだのは間違いなかった。それでもまだ、肌を合わせたことはない。桜木は、欲求が疼く度流川に許可を求めて、良しと言われなければ動かない。尊大で粗暴ないつもの態度と打って変わって、流川に無理強いするようなことは決してなかった。しかしその一方で、桜木がキスのその先を意識していることは明白で、互いに不慣れな口付けを交わしながら熱のこもった眼差しを向けてくることはあっても、いつも最後は決まって流川をきつく抱き締めて、己の体に燻る熱をやり過ごそうとしているようだった。

     今夜も桜木は流川にいつものように問いかけて、流川はそれに頷いた。付き合い始めてからこの三ヶ月、桜木から求められて、流川が受け入れなかったことはない。それなのに、桜木は何度問いかけようといつも不安そうに、叱られる前の子供のように緊張している。
     布団の中という二人きりの閉じた小さな世界で、桜木から与えられる熱は流川を昂らせていく。力強い腕も、首筋に触れる吐息も、流川が欲しいと素直に白状しているのに、当の本人は自らに重い枷を掛けている。流川は、桜木がいつものように胸を張って、受け入れられることを当然だと笑っていればいいのに、と思う。弱気な顔なんてしなくていい。堂々と全部欲しがったらいい。キスもハグもその先も、触れたいという欲求を我慢せずぶつけてほしい。ただ、それをしない桜木の優しさも、臆病になってしまう気持ちも、今の流川には分かる。流川もこの三ヶ月間、男として桜木に対するそれなりの欲求があり、時に持て余し、何度もこちらから強引に迫ってしまおうと考えた。今日までそれができなかったのは、流川もまた、桜木花道という初めての恋人を大切にしたいと思ったからだ。大切だから意思を尊重したいし、嫌がることはしたくない。しかし臆病になるあまり、桜木が自分に触れることに負い目を感じているような気がして、流川はずっとそれが引っかかっていた。
     互いに甘えるのが下手な子供のままだから、欲しいものがずっと手に入らない。
     
     全てが沈黙する真夜中の室内に、秒針の音だけが響いていた。永遠を錯覚させる均等な音を聞きながら、溜めた息をゆっくり吐いて、流川は口を開いた。
    「……どあほう」
     ずっと大人しかった流川がもう寝る体勢に入ったとばかり思っていた桜木は、小さな声にも大袈裟に驚いてしまう。
    「な、なんだよ」
     顔を上げた流川に至近距離でじっと見詰められ、桜木はぐっと押し黙る。その後数秒間、続く言葉がない流川に怪訝な顔をした桜木は、いよいよ何か言ってやろうと開きかけた唇をそのまま奪われた。
    「!」
     唇が触れては離れ、離れては触れを繰り返し、啄むような口付けに桜木はくすぐったそうに目を細める。
    「っ、ルカワ……」
     どうしたんだ、と聞きたかった言葉はキスの合間に飲み込まれ音にならない。優しい口付けは繰り返されるうちに触れ合う時間が長くなり、徐々に湿っぽさを増していく。流川が桜木の頬に手を添え、いよいよ深いキスを仕掛けようとした時、桜木が焦り上擦った声で「待て」と流川の胸を押した。
    「ってめー、急にどうした」
    「……急じゃねー」
     二人とも唇を触れ合わせただけで息が上がっている。不慣れな口付けに必死で、興奮で早鐘を打つ鼓動が全身に響いていることには、唇が離れて相手の目を見るまで気付かなかった。桜木は、呼吸が乱れて薄く開いたままの流川の唇から覗く赤い舌を見て、心臓が一際大きく跳ねた。このまま直視していてはいけない気がして、咄嗟に俯いた。
    「これ以上はやべえから、ちょっと離れろ……」
     明らかに自分から目を逸らしたこと、そこへ続く言葉に流川はムッとして、桜木の寝間着を掴む指に、離さないと力を込める。
    「なんで」
    「な、なんでって、おめーな……」
    「……いつまでもガチガチキンチョーしまくり男」
    「んだとコラ……うおっ!?」
     桜木が挑発に乗せられ体を起こすと、流川は狙っていたとばかりにその胸倉を掴んで引き倒し、自らはその勢いを生かして桜木の腹の上に馬乗りになった。小さく息を吐き、震える呼吸を整える。唖然とする桜木を見下ろしながら、ぶっきらぼうに呟いた。
    「てめーの好きにしろよ」
     驚き目を見開く桜木が何か言う前に、流川は再びその口を塞ぐ。勢いに任せて噛み付くように唇を合わせたから、歯が当たって桜木が何か呻いていた。その瞬間できた唇の隙間へ、流川は己の舌を割り込ませる。強引な口付けに桜木は更に動揺したはずだが、今度は流川を止めなかった。否、止める余裕が無かったと言う方が正しい。くぐもった声を上げて混乱を訴えるも、完全に無視を決め込む流川に両の手首を押さえ込まれ、桜木の闘争心に火が付いた。流川の誘いに応じると、互いの唇の間で己の舌を流川のそれと絡ませる。初めての感触に戸惑いながらも、柔らかく濡れた肉を押し付け合い、没頭していく。これまでにも舌を触れ合わせるキスを試したことはあったが、少し舌先を合わせただけで桜木が制止をかけたので、こんなに深く執拗に互いを求め合ったのは初めてだった。正解が分からないまま、しかしここで弱腰になるのは相手に引けを取る気がして、互いに意地を張り合い積極的に仕掛け合う。触れる舌先も漏れる息も何もかもが熱くて、まるで火の中でもがくように二人は必死だった。
    「……っ」
     頭に血が上った桜木が、手首の拘束を振り切り、力任せに流川の腰を抱くと、乱暴に食い込む指に驚いた流川の体がバランスを崩した。その隙を突いて、桜木は上半身を起こし、流川の体を持ち上げるようにして反転させ、あっという間に組み敷いた。本当はここでやめるつもりだったのに、不意を突かれて目を丸くしている流川の見慣れない表情と、荒い息が溢れる濡れた唇が、桜木の理性を焼き切ってしまう。
    「ッルカワ……!」
    「んん……っ」
     苛立ちにも似た感情をぶつけるように名前を口にした桜木が、今度は流川の唇を塞いで、その口内を蹂躙する。大きく熱い舌に嬲られ、流川は不本意な声が漏れてしまうのを止められなかった。桜木の舌はセオリーを知らない子供の動きで、初めは流川の口内を縦横無尽に暴れていたが、やがて流川の体が反応したり、声が上がったところを覚えて、そこに狙いを定めるようになった。流川は、知らなかった自らの弱点を一つ一つ桜木に探り当てられているようで、屈辱を感じると共に、今まで自分に「優しかった」桜木が、好き勝手に己を支配しようとする様に無意識のうちに興奮していた。
    「ん……っ!」
     びくん、と跳ねる背中を抱き、後頭部に手を添え、何度も角度を代えて、桜木は流川の口内を余すことなく舌で愛撫する。呼吸の仕方なんて分からないから、二人とも息も絶え絶えになりながら、夢中で互いの境界線を無くそうとしていた。
     時間を忘れて貪っていた桜木の舌が、流川をようやく解放して、名残惜しそうに唇が離れる。大きく肩で息をする流川を見下ろしながら、桜木も必死に呼吸を整えようとした。しかし、加減を知らない口付けに翻弄されて、初めて見る恍惚とした流川を前にして、あの流川楓をこんな風にしたのは自分なのだと思うと、どうしようもなく心が乱れた。落ち着ける訳もなく、桜木の息は知らず上がっていく。唇の周りを二人分の唾液で汚し、それを気にする余裕の無い無防備な流川を、更に追い詰めて、知らない姿を暴いて、全てを自分だけのものにしてしまいたい──桜木は拳を力一杯握ると、躊躇なく己の頬に打ち込んだ。
    「……!?」
     目の前の突然の奇行にぎょっとした流川は、動揺のあまり普段は滅多に呼ぶことがない恋人の名前が思わず口から溢れる。
    「……桜木?」
    「悪かった」
     流川を組み敷いたまま、桜木は眉根を寄せて俯いた。
    「我慢できなかった。てめーに酷いことした。……ごめん」
     流川の口元を優しく拭いながら、桜木は唇を噛む。初めての恋人、自分を受け入れてくれた流川を、大切にしたくて──失望させたくなくて、あんなに必死に押さえ込んでいた欲望が、簡単に引き摺り出されてしまった。あまつさえ、暴力的な独占欲まで膨らみ、流川を際限無く求めてしまうところだった。付き合い始めてからこの三ヶ月、流川との距離感に悩み、触れ合えることに喜び、この関係を壊したくないと必死に自制してきたのに。男の剥き出しの本能を向けられることに、流川が、同じ男として嫌悪感を抱いたら?やっぱり男は無理だと思われたら?──桜木の胸中は不安でいっぱいで、流川の目が見られなかった。
    「……酷いことって何」
     低く抑揚の無い声に、桜木は思わず身構えた。流川は、大きい体を子供のように縮こまらせる桜木を見て、どあほう、と呟く。
    「オレがてめーに、好きにしろって言った」
    「……!」
    「気に入らねーなら殴ってでも止めてる。オレがてめーなんかに大人しく従う訳ねー」
    「……ルカワ」
     桜木が恐る恐る顔を上げると、流川は仏頂面で桜木を見ていた。一見いつもと変わらない冷静さの中に、桜木だけが、その瞳が熱を帯びていることを知る。
    「……まだ足りてねーだろ」
    「ッ……!」
     流川の膝が軽く曲げられ、桜木の局部に触れる。予想していなかった刺激に桜木は体を強張らせ、信じられないと言う顔で流川を見た。流川は、真っ赤に染まった間抜け顔を見詰め返して、己の唇を拭った桜木の手を取ると、骨張った指同士を絡め、そっと握り込んだ。
    「オレも足りねー」
    「っルカワ……」
     桜木は感極まり、流川の手をぎゅっと握り返すと、体を屈めて衝動のまま流川を抱き締めた。桜木の、流川に対する抱え切れない思いをこの瞬間に全て言葉にするのは難しくて、それでもなんとか伝わってほしいのだと、その体に縋り付く。
     流川は、初めて桜木から己の承諾無く抱き締められて、不意に腕の中に閉じ込められることはこんなにも胸が高鳴るのかと、今までだって十分な程高揚感を味わっていたのに、これ以上があっては心臓が保たないのではないかと息を呑んだ。
     流川の腕が桜木の背に回されて、桜木の心はより一層満たされていく。こんなにも幸福なのに、それでも尚、流川は桜木に、更に求めて良いのだと言う。
    「いいのかよ、ほんとに」
    「しつけー」
    「でもよ」
    「何回もいいって言ってる」
     顔を上げて、いつだと問う桜木に、流川はやれやれと肩を竦めた。
    「今まで散々てめーに聞かれる度に。触っていいって、いつも言ってる」
     桜木がその時望んだそれ以上を、いつだって差し出して良いと思っていた。桜木が流川を抱き締め、火照る体を必死に鎮めようとしていた時、流川も同じようにその身を焦がしていたのだから。
     
     翌日早朝、まだ薄暗い室内でふと目を覚ました流川は、一晩中熱を分け合っていた男が隣にいないことに気付く。布団に埋めていた顔を上げ辺りを見渡すと、ベランダの窓の近く、カーテンの隙間から外を覗く桜木を見つけた。
    「……何してる」
     後ろ姿に声を掛けると、気付いた桜木が振り返った。
    「……ルカワ」
     独りでに目覚めた流川が意外だったのか、桜木は少し驚いた面持ちで、恋人の名前を噛み締めるように呟いた。その反応に小さな違和感を覚え、桜木の表情をよく見ようと目を凝らした流川は、その瞳が子供のようにキラキラと輝いていることに気付く。
    「見ろ、雪降ってるぞ」
     カーテンを少し開き、興奮気味に外を指差す桜木が眩しくて、違和感は気のせいだったようだと流川は目を細めた。それから、道理で冷えるのだと、窓から差し込む冷気から逃げるように改めて布団を手繰り寄せる。
    「結構降ってるぞ。もしかしたら積もるかもな」
    「……それは困る……いつものコート使えねー」
     流川が寝起きの回らない呂律でむにゃむにゃと不満を述べると、桜木は笑いながら「そうだな」と頷いた。しかし、その後いつまで経っても窓の外を眺めて布団に戻ってくる気配の無い桜木に、流川は眠い目を擦りながら唇を尖らせる。雪の降る朝、目覚めた恋人を放っておくなんて、この呼び名がこれ程しっくり来ることもそうそう無い。
    「……どあほう」
     桜木が再び振り返ると、流川が桜木の枕をわざとらしく叩き、布団を少し持ち上げた。
    「寒い」
     低く唸るような声に呼び戻されて、桜木は何故か少しの間目を泳がせたが、やがて流川の無言の圧に観念したように立ち上がり、促された定位置へ戻ってきた。桜木が布団へ体を滑り込ませると、身を擦り寄せた流川が小さく舌打ちをする。
    「体つめてー……いつから外見てたんだ」
    「そんな長くはねえと思うけど……」
    「こんなんじゃ全然あったまらねー」
     雪に夢中になって時間を忘れるなんてまるで本当に子供のようだと、流川は呆れながらも桜木の冷えた体を抱き締める。その力強さとは裏腹に、桜木の頭を己の胸元へ優しく抱き寄せた流川は、早く全身へ熱が伝わるようにと祈りながら背中を摩って、気まぐれのように赤い髪を撫でた。思いがけない流川からの抱擁に硬直していた桜木は、頭を撫でられたことで我に返る。
    「こっ、子供扱いすんじゃねえ」
     咄嗟に出た声が少し裏返る程動揺する桜木と対照的に、流川は至って落ち着いて桜木の主張を一蹴する。
    「子供はあんなことしねー」
    「ふぬ……!!」
     途端に昨夜の熱情が蘇り、桜木は顔から火が出そうになった。自分を組み敷いた男の頭を撫でながら、素知らぬ顔ができる流川を、恨みがましい目で見上げる。昨晩は互いにあんなに必死だったのに、一夜明けると流川はいつもの余裕を取り戻していて、自分だけが思いを引き摺り未熟なままのようで面白くない。今度は桜木が唇を尖らせて、熱い頬を流川の胸に押し付けた。あまりの羞恥心に暴れ出してしまいそうだったが、流川の腕の中は離れ難くて、桜木は耐え忍ぶように、恋人の体を抱き締め返した。
    「馬鹿野郎、せっかく頭冷やしたのに……」
    「?」
     顔を埋めて独りごちる桜木の吐息が、寝間着越しに流川の胸をくすぐる。何か話し掛けられたのだと思った流川は、声を拾うことに集中しようと、桜木の頭を撫でる手を止めた。
    「聞こえねー」
    「……なんでもねえ」
    「……」
    「……っ」
    「……」
    「…………っあー、もう!」
     沈黙に耐えられなかった桜木は、自棄を起こしたように喚くと、この三ヶ月で最も深くて重い溜め息を吐いた。
    「……っ頭冷やしてたんだよ……」
    「……?」
     訥々と話し始める桜木を、流川は黙って見ていた。
    「……目が覚めた時、全部夢だと思ったのに、てめーがちゃんとここにいて……」
     語りながら、桜木は流川の体に回す腕に力を込める。
    「まだドキドキするし、あっちぃし……冷たい空気でも浴びたら落ち着くんじゃねえかと思って……窓見たら雪降ってて……」
     流川は、寝起きに見た桜木の後ろ姿を思い出す。
    「おめーに見せたいと思ったけど、どんな顔したらいいか分からなくて……雪見ながらずっと、おめーのこと考えてた」
    「……どあほうが。風邪引いたらどうする」
     流川が諌めるように赤い髪を軽い力でくしゃっと掴むので、桜木は「ふぬ……」と口を噤んだ。そのまま流川の視線から逃れるように顔を伏せ続けるが、赤く染まった耳が無防備に晒されている。流川は好奇心の赴くまま、その耳輪にするりと指先を滑らせた。途端、桜木の肩が反射的に跳ねる。
    「ッ……おい、いい加減に──」
     自分の反応を揶揄われているような気がして、堪え切れず、桜木が頑なに伏せていた顔を上げると、真っ直ぐ己を見つめる黒い瞳とぶつかった。
    「てめー照れてたんか」
     だからなかなか布団に戻ってこなかったのか──桜木への違和感に対する確信を得て、流川は答え合わせが待ち切れない様子である。流川の問いに、桜木は眉間に皺を深く刻み、忌々しそうに視線を逸らした。
    「……うるせー」
     さも腑に落ちないとアピールするようにそっぽを向くのに、耳まで顔を赤くしながら、流川の体に回す腕の力は緩めず、二人の隙間を完全に無くそうと密着してくる様は少しも説得力がない。流川は、すっかり温まった桜木の、遠慮無く押し付けられる体の重みを、悪くないと受け止めた。怖がらなくていい。好きなだけ欲しがればいい。昨夜、最中に何度も桜木へ贈った思いを、今度は手の平に込めて、流川はまた桜木の頭を撫でる。
    「……」
     桜木は、今度は何も言わず、強請るように流川の胸元へ額を擦り寄せた。
     二人は何より欲しかったものを手に入れて、冬暁の空には祝福するように雪が降り続けていた。
     
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    DONEキス止まりの花流が、お互いを大事にしたかったり我慢できなかったりしながら初夜を迎える話です。
    ビーマイベイベー「触ってもいいか」
     その一言を口にするために、桜木は深呼吸をして、手の平を握り締めて、震える唇を引き結んで、迷い子のように瞳を揺らして流川を見詰める。
     すっかり己専用になった来客用布団に身を委ねていた流川は、少し言葉を詰まらせた桜木の声を聞いて、顔を上げた。緊張した面持ちの桜木と目が合う。暗闇の中見えた紅潮した頬の色は、錯覚ではないと思った。
    「……いーけど」
     流川の返答は、目の前の不安気な表情を一変させた。受け入れられた喜びを満面に浮かべた桜木は落ち着かない様子で、緊張のためぎこちなく体を起こし流川との距離を詰めると、恋人の布団へ潜り込んだ。流川は、桜木のために少しだけ体をずらして場所を作ってやる。桜木がすぐ己に触れられるよう、距離を生まないための必要最低限の移動だった。桜木は興奮のあまり何も言えず、生唾を飲み込んだ。迷い子のようだった瞳を、明確な意志を持つ男のそれに変えて、ゆっくりと手を伸ばす。震える指先を心の中で叱咤しながら、恐る恐る肩を撫で、優しく腕に触れ、思い切って背中へ回して、桜木は、そうしてようやく流川を抱き締めた。寝間着越しにも分かる硬く引き締まった男の体を強く拘束して、玩具を取られまいとする子供のように身を寄せた。
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