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    ジュン茨♀

    #ジュン茨♀

    ずい、と目の前に差し出されたフォークの先には、真っ赤ないちごの果実がひとつ。それは確かにオレの好物だし、できることなら食べたいけれど。
    「ジュン〜、はい、どうぞ♡」
    「いや、何企んでんすか茨……」
     その持ち手が茨の手にある以上、簡単に「いただきます」というわけにもいかない。
    「これは心外! 恋人に好物を食べさせてあげたいという可愛らしい乙女心を、企んでいるだなんて!」
    「可愛らしいって……あんたが自分で言うとますます怪しいんすよぉ」
     企んでるんじゃなきゃ、酔っ払っているとしか思えない。未成年アイドルとして、そんなスキャンダルはいくらなんでもやめてほしい。というか茨がそんなことをするはずはなくて、だからこれは何かを企んでいるのだ。
     そもそもきょうは最初から様子がおかしい。打ち合わせだと言って呼び出したくせに対面でなく隣に座り、特に仕事を始めることもなく、急にいちごを出してきた。「良いいちごが手に入ったんですよね!」って、何目線の台詞なんだ。良いいちごの目利きができるんですかねぇ。それともすげぇ高級品?
     つぅか近い。いくら付き合っていても、普段はそんな距離感じゃないから怪しんでしまう。当然めちゃくちゃいい匂いするし。この匂いがいちごだか茨だかも分からない。
     結論。怪しい。オレはちょっと身を引いて、茨に向き直った。
    「で、なんすか?」
     言いづらいことがあるのかもしれないし。とりあえずフォークを置くように、その手を軽く握って誘導する。皿の上にいちごが乗るように置かせると、茨はしばらくそれをじっと見てから、フォークを握る手をパッと離した。
    「いえ、失礼しました。どうぞ、これは差し上げますので食べていってくださいね!」
     急に立ち上がり、こっちも見ずにそう告げる声にはどことなく元気が足りなくて。そのまま立ち去ろうとするから、思わず手を握って引き止める。けれど鋭く振り払われた。
    「は!? ちょっと茨っ」
     振り払われたのと逆の手で、反射的にもう一度、細い手首をつかみ直す。だって茨、顔が。
    「痛っ」
    「え、あっ、ごめんっ」
    「ふ、甘いですね、ジュン?」
     そりゃ、恋人に「痛い」なんて言われりゃ、力が緩むのは仕方ないでしょうが。身長差はそこそこあるのに、器用にこちらを見下すように笑った茨が1歩下がる。ダンスのステップと同じように軽く。
     オレはそんなふうに優雅に動く余裕もなくて、全力で茨に手を伸ばした。慌てたせいで、椅子が派手に音を立てて倒れる。
    「痛い!」
    「知りませんよぉ……そんな顔するからでしょうが」
     無理やり抱きしめたから確かに痛いかもしれない。痛くしたいわけじゃないから少しだけ腕の力を緩めて、代わりに髪を撫でた。抱きしめる手が片腕になったからか、茨は悪あがきみたいに抜け出そうとするけど、さすがに女の子ひとり捕まえられないほど非力でもない。これでも鍛えてるんで。
     あんたなら抜け出せるでしょう、とも言わないでおいた。茨はたぶん、手加減してわざと捕まってくれてるんで。指摘した瞬間、こいつは本当にオレを投げ飛ばしていなくなる。そういうやつだ。
    「ごめん茨、いちご食べさせてください」
    「勝手に食べればいいじゃないですか」
    「茨が食べさせてくれるやつがいいです」
    「そのままフォークで喉を刺しますけど」
    「……茨はオレの声が好きなんでそういうことはできませんねぇ〜……いってぇ!?」
     ゴス!と重めの音がして、オレの足は見事に踏みつけられた。ピンク色に染まった頬で、茨はオレを睨みつける。
    「……座ってください」
    「え?」
    「食べさせてあげますから、座ってください!」
    「はいっ」
     倒れた椅子をこれ以上ないほどテキパキと元に戻して、茨の前に座った。茨は優雅にスカートを整えてから、オレと向き合って座る。露出のほぼない黒タイツがすべすべと輝いている。なんとなくそちらを見ているのも気が引けて、顔を上げて気付いてしまった。

     いつもきっちり上まで閉じていたはずのブラウスのボタン、ふたつも開いてるんですけど。

     リボンはどこやったんすか、とか。さすがに開けすぎでしょ、とか。まあ最初からそういうことだったわけで、オレが鈍すぎてひどい、とか。白い肌が見えた瞬間、目の前がぐるぐるしてきた。
    「はい」
    「あの、茨」
     いろいろとキャパオーバーなんで、手加減してほしい。
    「企んでませんが」
    「それは分かりましたけど、あの、フォーク……」
     なんで手づかみで差し出してくるんすかねぇ?? 白い指と赤い果実のコントラストがエ……いやいや、なんでもねぇです!
    「これなら喉を突かれる心配もなくて安心ですよね?」
     にっこり。オレの恋人、マジで顔がいい。
    「ではあらためて、さあどうぞ♡」
     小さく首を傾げて、いちごを口元に押し付けてくる。オレは口を開けて受け入れるほかなくて。
    「むぐ」
     かじろうとした瞬間、茨はそれを丸ごと、指先も一緒に無理やり口の中に押し込んだ。にこにこと機嫌よく笑っている。かわいい。
    「おいしいですか?」
     指、抜いてくれないと食っちまいますけど……? それもわざとなんですよねぇ、茨?
     仕方がないからそのまま口を閉じた。舌に触れた指先を、わざといちごと一緒に吸って舐める。茨はびくりと小さく震えて、それでもにまりと笑ってからようやく指を引き抜いた。
    「やらしいですね、ジュン?」
    「オレっすか……」
     引き抜いた指先に、赤い唇が寄せられる。ちゅ、とわざわざ音を立てて、茨はこの上なく綺麗に笑った。
    「いちごの味がします」
     かわいい。
    「うまいっすよ。……食います?」
    「いただきましょうか」
    「ん、こっち」
     手招きしてにやりと笑う。茨は「顔がやらしい」とオレの脚を容赦なく蹴飛ばしてから、仕方なくみたいなフリをしてするりと、いちごだか茨だか分からない甘い香りのする距離まで優しく身体を寄せてきた。
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