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    バレンタイン前日にちゅーするふたりだよ

    #ジュン茨
    junThorn

    チョコレートが好物である凪砂からバレンタインチョコを所望されたのは想定内。ついでにそばにいた日和までが欲しがったのも、想定外とまでは言わない。日和があれこれ喧しく騒いでいる横でジュンが黙っていたのだって、茨にとっては想定内だったから、どうせ後で何かしら言ってくるだろうとは思っていたし。
    「あの、茨」
     それまで黙って本を読んでいたジュンが急に声を出したので、茨は画面から視線を外して顔を上げた。仕事中だと分かっていて声を掛けてくるのは珍しいから。
     それなのに、ジュンはこちらを見てもいなかった。視線は本に落としたまま、それでも茨が仕事を中断したことには気付いたんだろう、一瞬、躊躇うように息を吸った。
    「……や、ごめん、後にします」
    「……今どうぞ?」
    「うぅ〜……あ〜、え〜とですねぇ……」
     イラッとしなかったと言えば嘘になる。舌打ちをしなかったのは、ジュンがきちんと茨に向き直ったからだ。言いたいことがまとまっていないようだけれど、かといって今、このタイミングで「やっぱり後で聞きます」と言えば、それはそれで萎れそうな恋人。
    「おやおや、いつもの調子はどうしました?」
     仕方がないのでタブレットの画面をオフにして立ち上がり、わざわざソファに座ってやることにした。ジュンは茨に対して物怖じしたり遠慮したりするような相手ではない。が、躊躇するとしたら、なにか『恋愛絡み』の話がある可能性が8割。日和が面倒をやらかした可能性が2割。今回は『恋愛絡み』だと分かっているので楽なものだ。
     茨はぽふりと柔らかなソファに腰を下ろした。ずっと同じ姿勢で仕事をしていたせいもあり、腰と背中を伸ばすために寝転んでしまいたくなる。ジュンの腕に触れる距離まで近づいて、大きめに深呼吸してからその肩に体重を預けて目を閉じた。
    「お疲れさまです……?」
    「どうも」
    「……明日、オレにも」
     やっと話す気になったらしい。歩み寄ってもらえたことで気を良くして、ジュンの手が勝手に髪をゆったりと撫で始めた。残っているのは茨で最後とはいえ、一応ここはオフィスなのに。
    「チョコくれませんか」
     控えめなんだか積極的なんだか。『くれませんか』と下手に出てはいるが、これは『よこせ』と同義のやつだ。
    「サークルで作る予定ですから、ジュンの分もありますよ」
     どうせ椎名氏が大量に作りますし、と意地悪く笑う茨は、もちろんジュンが求めているのがそれじゃないことぐらい知っている。案の定、ジュンは「分かってて言ってんでしょうが」と不機嫌な低音を耳に吹き込んできた。目を開き、少し首を回して顔を見てやったが、やはり不機嫌で笑ってしまう。
     くっついた場所から伝わる温度は高い。茨はジュンから見えない向きに顔を戻して口角を上げた。いまさらヤキモチを妬かれるとは。
    「ジュン、そんなにチョコ好きでした?」
     言いたいことが全部あふれてこぼれている瞳は、こんなに不機嫌なくせに優しい灯りみたいな色をしている。寒い夜に、外から温かな家を眺めたときに見える色。
    「……あんまり言うと嫌がるくせに、そうやって言わせようとすんのホント性格悪ぃ」
    「甘えているんですよ?」
    「面白がってるだけっすよねぇ……」
     茨が身体を起こしたので、ジュンもするりと手を離した。
    『特別なものが欲しい』という要求。サークルで作ったチョコだとか、Edenでやる予定のチョコフォンデュとか、そういうものでは満たされない、意外と珍しいジュンのわがまま。チョコフォンデュはせっかくいちご多めにしてやろうと思っていたのに。
     面倒だという気持ちと、茨の読みどおりに動くジュンへの満足感。茨の頬が緩む。何度罠にかけても、この男はこちらの罠にかかってくれる。わざとや気遣いではなく、いつでも本気で。そこが残念で、けれど気が抜けてかわいいとも思う。
    「あぁ、では他の予定は全てお断りしましょうか」
    「えっ」
     素直なジュンは不機嫌なポーズも忘れて狼狽える。本当にかわいらしいことで!
    「閣下に差し上げるチョコレートも、殿下に要求されたチョコレートも、じめにゃんとの交換の予定も、同室の方々との約束も、他にも全て」
    「いや、そこまでしなくていいですって……」
    「全てに応えていては、自分も手が足りませんのでね!」
     閣下と殿下が同じものでは、殿下の不興を買うだろう。あの方々に差し上げるようなものでは、じめにゃんを萎縮させてしまうかもしれない。もちろん、ジュンが誰とも違う特別なものを欲しがっているのも分かる。
    「茨ぁ……」
    「たまには恋人らしく、全部奪われてあげますよ?」
     ジュンは、ぐ、と言葉に詰まった。欲しがる気持ちがあふれ出すような光をきらきらとこぼす視線。体温を無理やり上昇させるような、身体の奥まで握りしめるようなきんいろ。
     数秒の逡巡と、震える指先。それが胸にぐっと押し付けられて、そこからゾクゾクと疼きが広がった。茨の胸元で服をぎゅう、と掴んで、ジュンは小さく笑ったようだった。
    「余裕ねぇでしょ、今」
    「ないように見えますか?」
    「……やっぱオレ、チョコはいいです。約束優先してください。おひいさんも、茨から貰えねぇと絶対うるせぇし」
     仕方ないから譲歩してやります。そんな顔をしてジュンは溜息を零した。素直に罠にかかって、それでいて少しだけ予想外の行動をしてみせるところがいいと思う。
    「でも」
     優しい灯りに、熱く燃やし尽くすように暴力的な色を滲ませて。何もしていないうちから、既に満足したみたいにしあわせそうに、ジュンは意地悪く笑う。満たされることを確信している。捕食者の眼差しだ。
    「今、全部オレが奪っちまうんで、明日のあんたはカラッポですねぇ、茨?」
     頬に手が添えられる。茨はさすがに出入り口を気にしてちらちらと目を向ける。
    「もう誰もいませんよ」
    「誰か来るかもしれませんし」
     もうちょっと我慢できませんか、の言葉が終わるか終わらないかのタイミングで、ジュンの親指が唇をするりと擦った。茨の鋭い視線が淡く揺らいで、熱い吐息が指にかかる。
    「……ジュン」
     当然まだ理性が勝っている。けれど青の瞳には冷静さの他に期待が溶け込んでいる。それでも何か、ジュンを制止する言葉を紡ごうとする唇を、熱い手のひらがぐっと押さえつけた。
    「んぅ、」
     そのまま身体を密着させて、ふらりと宙を彷徨った左手はつかまって押し倒される。耳に唇が触れて、びくりと小さく肩が跳ねた。
     口を押さえるのに左手を、茨の左手と手をつなぐのに右手を使っているジュンには、茨の右手の動きを制するすべがない。本気で抵抗するなら茨にはいくらでもやりようがある。両手を押さえつけたとしても、茨ならジュンぐらいどうとでもできる。
     でも、茨の空いた右手は、きゅう、とジュンの服を握りしめただけで。
    「……キス、だけ」
     全然信用なんかできない、欲に塗れて切羽詰まった音が零れて、笑えてしまって仕方ない。キスだけ、ってなんなんだ。当然ですが。それ以上、何をしようと?
     こくりと唾を飲み込んで、顔だけは出会った頃からどんどん綺麗になっていく恋人の射殺すような青に貫かれながら、ジュンはその口を押さえていた手をそっと離した。もう我慢もできなくて、目の前の唇を自分のそれと合わせる。握りしめた手を動かして、指と指を丁寧に絡める。息を小さく吸って、舌で茨の唇をやわく撫でる。
     どの動きに対しても、茨は反撃も回避もせずに小さな力で応える。受け入れられている。長い睫毛が震える、その下の青がとろりと緩んで、怯えるように隠された。伏せられた瞳に興奮が沸き立つ。
    「いば、ら」
     合間に吐息が絡まって、たどたどしく名前を呼んだ。そのまま髪を撫でて、頭ごと自分のほうへと引き寄せる。
    「ん、っ」
     眉を寄せて、僅かに声を落とす恋人に煽られる。舌を差し出すと苦もなく受け入れられて、獣の呼吸を抑えることもできずに口内で暴れ回る。
     いばら、いばら。心の中で何度でも呼ぶのに、離れることがどうしてもできなくて音にならない。茨はなんとか応えるために舌を絡めようとするけれど、ジュンの動きに翻弄されるばかりのようで、つないだ指に籠る力がぎゅうぎゅうと強くなっていった。
    「は、…ぅ」
     じぅ、と舌を吸う。余裕なんて全くない。苦しそうな茨を気遣うことすらできずに吐息を奪う。
     零さないで、全部。全部ください、オレに。
    「ジュン……」
     ジュンの興奮を抑えるように、茨は普段と比べてひどく弱々しい声でそっと名前を呼んだ。
    「……ん、……いばら?」
    「明日……」
     整わない息の下で、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
    「明日の夜に、またここで」
    「え……」
    「明日の自分が、誰のものか、確認しませんか?」
    「…………します」
     ふふ、と意地悪く笑われて、ジュンはようやく茨を解放した。捕らわれたのは自分のほうだったのだと、いまさら気付く。
    「……あんた、一緒に過ごしましょうって素直に言ったら死んじまうんすか」
    「なんのことやら?」
    「まぁいいっすけどねぇ、いまさらだし」
     抱き起こそうと手を伸ばしたが、茨はどこに手をつくでもなく腹筋の力だけでさっさと起き上がった。もちろんジュンの手など取らない。つい今まで息も絶え絶えだったのが嘘のようで、もしかして演技だったのかと一瞬疑ったが、はふ、という微かな吐息にはまだ熱い色が混じっている。乱れた髪は、重力に従ってはらりと肩を滑り落ちた。
    「オレが言えばいいですし。明日の夜は、オレといてくださいね」
     茨の視線はふらりと彷徨う。素直に言うつもりもないけれど、素直に言われるのも受け入れがたいらしい。
    「……構いませんよ」
     ここまでジュンを煽ったくせに。分かりやすく嫌がる表情を見せる恋人が面白くて。ジュンは反撃に怯えながらも、もう一度、不機嫌な唇を勝手に奪ってやった。
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    ・中夜

    DONEHAPPY JUNIBA DAY!

    茨さんほとんど出てこない同棲ジば。
    掃除洗濯をしたのは昨日なのにシーツを替えたのは今朝、が本作のポイントです。
    日々は続くから(やっぱり帰って来なかったな……)
     ヘッドボードの明かりを消した後も手放せないでいるスマホを開いて、閉じて、もう何十回も目にしたデジタル時計の時刻にため息をついた。うつ伏せに押し潰している枕へ顔を埋め、意味もなくウンヌン唸ってみる。けれど、どれだけ待ってみたってオレの右手が微かなバイブを告げることはないし、煌々と現れたロック画面の通知に眩しく目を眇めることもない。残り数分で日付を跨ごうかというこの時間に誰からも連絡が来ないなんて、当たり前の話ではあるんだろうけど。その一般的には非常識とも言える連絡を、オレはかれこれ2時間もソワソワと期待してしまっているのだった。
    「……茨」
     待ち侘びている方が馬鹿げてるのはわかっている。そもそも今日は帰れないって、だから昨日の内にお祝いしておきましょうって。端からそういう話だったのだ。帰れない今日の代わりに、茨はオレの好きなメニューを沢山夕飯に出してくれたし、オレだって茨が朝から料理に集中できるように洗濯から何からその他すべての雑事をせっせと片付けた。夕方普段より早めのご馳走に、2人で作った苺タルトも平らげて、余った料理も1粒も無くなったお皿も仲良く片付けた後ソファーに並んで触れ合って……昨日まで、ううん、ついさっき。風呂から上がってベッドに入るまで、本当になんの不満もなかったはずなのに。
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