ジアマント 「あんたも熱心なもんだな」とクロムは少し笑って見せた。室内灯の火はすでに、周囲の闇しかはらっていない。本を広げているのは、自分が最後になっていたようだ。
差し入れだ、と持ち上がったトレイに、アレスは歓喜の声を上げた。香ばしく焼けたパンがまとう、温かいスープの香草の匂い。一息吸い込めば、今まで読んでいた箇所は、すっかり頭の居場所を譲ってしまう。夢中でほお張っていると、分けたパンの向こうに、丸くなった目が落ちる。
魔法の本か。つぶやいた声には、驚きまじりの感嘆が乗っていた。彼の反応は元より、皆が驚いていたのも当然だろう。物理技一辺倒の自分が、魔法を身に着けようとしている。どういう趣旨替えなのかと、自分でも不思議に思うくらいだ。
18744