茹だる夏は蜃気楼に溶けていく。
そしてまた、嗚咽のような波音がやってくる。大きな黒い波は、すぐにぼくを飲み込んで、口の裂けたクラムボンがメメント・モリの合唱をする。不協和音に苛まれ、ぼくは逃げ場を探す。遠く見える緑を目指して駆けて行く。緑の中へ、緑の中へ!
眩しい太陽に照らされた、真夏の緑。けたたましい蝉の声、水滴が残る朝顔。ぼくは見た。
真っ白な少年はいつもそこにいて、ぼくを見つけて振り返る。丸い瞳を向けて、輝く髪を揺らす。心地良い暑さと、赤の実と、真っ白な少年。でもぼくは、いつもこのことを忘れてしまう。
おはよう、絶望。
* * *
無機質なエアコンの送風音、壁越しに伝う忙しない足音に物音。とあるテレビ局の楽屋の一室で、寿嶺二は、本日出演するバラエティ番組の台本に目を通していた。今回の出演は、所謂ひな壇。内容は、夏のおすすめスポットを紹介し、そのテレビ局が運営する夏イベントの中継も兼ねた生放送番組だ。事前に用意されていたトピックスには、出演者の夏の思い出に関する内容もあり、嶺二は復習するように目を通していた。さらに、今日の出演者にはシャイニング事務所からもう一人いた。
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