女が持参した手土産は栗を用いた蒸し饅頭で、そもそも手土産などという行為が、この女がどれほど時節を弁え一般的な礼節を持ち合わせているかを物語っている。もっとも、そうした風流は受け手次第で、蜜柑も檸檬も饅頭はあまり好まない。テーブルの上に載せられた包みは、彩りにもならずに端に寄せられている。
そもそも、と蜜柑は考える。依頼をするのに手土産を用意するなど、やはりこの女は外れているのだ。依頼主たちはいつだって横柄か、あるいは、もう先はないのだと余裕なく切羽詰まっている。そんな気遣いができる人間であれば、自分たちのような者に依頼する前に、頼る先などいくらでもありそうなものだ。
コーヒーが運ばれてくる。女にとって、無償で提供される水では、話を始めるには値しないらしい。店員の姿を見送ると、やっと慎ましやかな口を開く。
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