月に酔う満月の夜だった。
何やらご機嫌の様子の奈美がメロディーを口ずさむ。メロディーに合わせて小刻みに揺れながら先程食べた晩御飯の後片付けをしている姿を、ウォルターは座ったソファーから眺めていた。
水道の蛇口を閉めた時には声が小さくなる様子を見るに、水を流してる間はウォルターには聞こえないと思っているらしい。まあそんな彼女の思い込みをよそに、ウォルターはバッチリ彼女の声を拾い、笑い出すのを堪えて震えているわけだが。
スラスラと流れていく音の中「えっと…なんだっけ…」などと歌詞に詰まって零した彼女の独り言ももちろん拾われているわけで、読んでいた本に再び向き直った彼もその言葉に合わせて愉快そうに肩を揺らす。
断続的に流れる水音がはたと止まる。音楽を口ずさむのはとうに止めており、代わりにパタパタと軽やかにフローリングを動く彼女の足音が機嫌の良さを表していた。
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