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    ここにいる

    いずみのかな

    DONEパトレイバー ごとしの
    成人式の記憶の話です。ほんのりとしたかいごと風味つき。
    もうここにいないあの人、そしていまここにいるあなた。
    雨音 冬の雨は冷たく、溶けかかった氷の針が肌に細かく刺さるような日だった。
     厚く垂れこめた雲は暗く、「成人の日」という言葉の幸先の良さとは裏腹だ。仕事始めのあととはいえ、まだ小正月が終わらない時期だけあって、都内はまだ人が満タンになっておらず、おかげで特科車両二課は年末から今日までめでたく開店休業状態である。
     見映えだけで警備にイングラムを引っ張り出そうという警備部のお偉いさんのバカな提案をしのぶと二人で潰した甲斐もあり、年末年始からこの十日ほどは、両隊ともひろみが出汁から取ったというお雑煮(沖縄は出汁で中身を煮たものをいただくんですよね、と話してくれたが、「中身」がなになのか後藤には見当がつかなかった)を食べたり、榊が箱買いしてきた缶のおしるこで暖を取ったりと、きわめてささやかに正月を味わったりしている。今日まで長く独身で、大学のころは家に寄りつかず、そして警察学校に入ると同時に実家を出てそして警察官になったあたりからは、社会人の礼儀として年賀状を出すことと姪にお年玉を渡す以外の正月行事と縁が無くなって久しい後藤にとっては、お雑煮もおしるこも、久しぶりすぎて舞台装置のように感じられるものであった。
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    44_mhyk

    SPOILERブラネロ以外のカプは一切ないです。
    ネとのことで何らかの深い心の傷を負い弱っているボスを慰める西の魔法使い達を衝動的に書きたくなりました。大丈夫な方のみどうぞ。
    ボスがここにいるのは、絶対にネが思いつかない場所だから。
    【ブラネロ】心が弱っているボスを慰める西シリーズ①西師弟「ラスティカ?魔法で呼び出しって珍しい……あ」
    「シーッ。いらっしゃいクロエ、待っていたよ」
     部屋を覗き込んだクロエは思わず口元に手をあて、言葉を切った。
     ソファに長躯を丸めて深い眠りについている男の姿が目に飛び込んできたからだ。
     椅子に座ってその姿を眺めていたラスティカがいつもと変わらぬ笑顔のまま、口元に手をあてて静寂を促す。
     クロエはぶんぶんと頷いて、可能な限り気配を殺してラスティカと彼に近づいた。
    「これくらいの声なら、喋って平気?」
    「大丈夫。眠りのハーブティーで五感を鈍らせているから、今の彼なら気づかない」
    「眠りの。えと、どうしたの、って聞いていい?」
     普段なら絶対に部屋を訪れない男だ。
     シルバーとブラックの髪が乱れて、両腕に隠すように埋もれている顔は、あどけない子供のような、それでいて疲れた大人のようなそれだった。
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    たまの

    SPOILERここにいるよああ、これが、俗にいう「桜にさらわれる」ってやつかぁ、なんて。あたしは思ってたんだ。

     この冬は色々あって。
     ……ホント、説明が難しいくらい色々あって。
     ケンが、たまに遠い目をするのは、今に始まったことじゃないんだけど。
     その原因を、事件を、あたしと亜己ちゃんは目の当たりにすることになって。
     あたしじゃどうすることも出来ないんだなって。大事な同僚なのに、苦しんでるの分かるのに、ただただ自分が無力で、痛いくらい。
     今でも、思い出すだけで苦味がこみ上げる。でも、ケンにとってはきっとそれ以上の苦しみだったから、あたしはもう、何も言えなかったんだ。
     亜己ちゃんが背中押してくれなかったら。
     あたしは押し黙ったまま、潰れてたかもしれない。ここにいるよって。あたしここにいるよって、やっと言葉に出来て。ゆるやかに、氷が溶けるみたいに、あたしたちは日常へ戻ってこれたけど。
     冬が終わりを告げて、春めいた日が続くようになって。
     それでも思い出したように、ひんやりとした気持ちがよみがえる時がある。
     静かに桜を見上げているケンの背中を目で追いながら、あたしの気持ちどんだけ届いたのかな、自信 1172