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    ときめき

    yutaxxmic

    DONEひか星3の展示品です。
    特性「ときめき」を元にしたお話。
    前の賢者様もちらりと出てきます。
    ときめき ふ、と意識が浮上する。少し首を反らして視線を机の上へと向ける。しっかりと閉めているはずのカーテンの端から僅かに光が漏れている。既に日は昇っているらしい。耳をすませば、誰かの声が聞こえてくるような気配がする。よもや自分が他人の存在を近くに感じる生活を再びすることになるとは思ってもみなかった。魔法舎で生活することが決まった直後はそうした生活に慣れず、厄介な厄災の傷に対する不安も相まって寝付くことが中々できない日々が続いていた。それが今ではすっかり熟睡することができるようになっている。それもこれもあの子──今の賢者が僕のことを気にかけてくれたお陰とも言えるだろう。いや、あの子は僕だけが特別という訳ではないことは分かっている。あの子は──真木晶という男は、賢者の魔法使い全てに等しく優しさを振り撒くのだ。そんな姿を見ると、少しだけちくりと胸の辺りが痛むようだった。賢者の魔法使いとして、この感情に名前をつけるべきではないことは明白だ。頭ではそう理解し、納得しているはずなのだけれど、前の賢者が僕に言ったことを思い出す。もう名前も、声も、顔も思い出すことができない前の賢者。賢者自身のことは忘れてしまったのに、授けてくれた知恵や言葉は覚えている。あの時はさもお見通しだとでも言うかのような物言いが不快でしかなかったが、今では彼のことが預言者のように思えてならない。──あいつの言葉に甘えてもいいのだろうか。そう考えながら食堂へ向かう身支度を整える。確か今日はあの子もこの魔法舎にいたはずだ。今までは足を運ぶことが憂鬱でしかなかった食堂への道中も、ネロの作った美味い料理と晶を一目でも見られるかもしれない期待で胸を満たせば、思わず足取りも軽くなってしまうようだった。
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