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    マリオン

    お箸で摘む程度

    TRAININGクルビュ
    秋の日のオフ、マリオンが秋服を全く持っていないレンを連れ出して買い物に行く話。
    ほんの少しシオンさんの捏造があります。
    マリオネットの秋空 輪郭を掴めない穏やかな夢が、少しずつその彩りを光の中に滲ませていって、おぼろげな風景が知らぬ間に部屋の景色へと変わっていく。目を開けたという自覚もないまま、俺はベッドの中で無機質な天井を眺めていた。
     瞼を優しく下ろそうとする眠気の誘惑に抗って、理性を叱咤し上体を起こす。枕元の時計は五時過ぎを指しているが、この明るさはどう考えてたって午前五時でも午後五時でもない。早朝トレーニングに勇んで目覚ましを仕掛け、意識の無いうちに壊したらしい、数日前そのままの時計だ。スマートフォンを確認すると、ピントのずれた野良猫の後ろ姿の上に、九時三十分の表示がある。

     今日は数週ぶりの一日オフ。ガストは普段通りに出勤したようだったが、一人で起きたのにこの時間ならば上々だ。ひとまずは顔を洗いに部屋を出る。今日こそは部屋でゆっくりと猫短編集を読み進めたい。百冊セットの文庫の山は手付かずの巻数をまだまだ残し、難攻不落の様相で部屋の片隅に聳え立っている。そのうずたかい活字の中に潜む数多の猫たちにこれから出会えると思うと、そこに山があるから登るのだと宣う登山家の気持ちにも頷けるものだ。心ゆくまで物語の山道を攻略したら、それから少しトレーニングをして、明日も早く起きられるよう早く寝よう。洗面の傍ら頭の中で一日の算段を立て、タオルを片手に部屋へ戻ろうとすると、リビングでどこからか帰ってきたらしいマリオンと鉢合わせた。
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