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    kumo72783924

    PROGRESS魁のパート。ビール飲んでる。
    流心〜ドイツ編〜魁1
     十一月のドイツは想像以上に寒く、訝しがりながら持ってきたダウンが大活躍だった。見るもの全てが痛いほど新鮮に映る中、隣で穏やかに微笑む恋人が旅の緊張を解してくれる。距離も時差も超えて、こうして二人並んで歩くだけでも、思い切ってここまで来て良かったと思うには十分だった。
     ターミナル駅からほど近いその店は、入口の様子からは想像出来ないほどに中は広く、何人もの客が酒とおしゃべりに興じていた。柱や梁は艶のあるダークブラウンで、木製のテーブルや椅子が落ち着いた雰囲気を醸し出している。ぐるりと店内を見渡したときに目を引くのは、なんと言っても大きなビール樽だろう。その樽から直接ビールが注がれたグラスをびっしりと乗せて、店員がお盆を手に店内を動き回っている。その様子に目を奪われていると、店員の一人から“ハロー”と声をかけられた。こちらもひとまず“ハロー”と返すと、何か質問を投げかけられたようだったが、生憎俺は返す言葉を持ち合わせていない。助けを求める間もなく楓吾が最初の注文を済ませ、席に着くなりビールが二つ運ばれてくると、ドイツに来て初めての食事が始まろうとしていた。ふと向かいに目をやれば、赤銅色に染まるグラスの向こうで楓吾が再び店員と何やら話している。ガヤガヤと騒がしい店内で異国の言葉を話す恋人は、まるで別人のようだ。ひょっとして、話す言語によって人格も多少は変わるのだろうか。俺の知らない楓吾の一面があるのだろうか……そんなことを考えながら二人のやり取りをぼんやり眺めていると、楓吾がこちらに向き直って言った。
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    kumo72783924

    PROGRESS俺→魁(カイ)、僕→楓吾(フーゴ)
    出だしと、キャラに名前を付けたことにより所々訂正。この後の分も変わってます。
    今日も同じ夢を見た。今まで何度も見た夢だ。俺は、流れの緩やかな川で二人乗りの小舟に乗っている。目の前のオールを漕がなければならないと分かっているのに、身体が動かない。もう一人の乗り手の顔は逆光でよく見えないが、その人は俺に代わってゆっくりとした動作でオールを漕ぎ始める。ホッとしたのもつかの間、いつの間にか川の流れは速くなり、目の前で川が分岐しようとしている。どちらに進めば良いのか分からないまま、激しい流れに飲み込まれる寸前、その人が俺の名前を呼ぶ――
     夢はいつもそこで終わる。その人の声は、初めて聞くような気もするし、とても馴染みのある声のような気もする。夢の世界から現実に戻ったことを確かめるために目を開けると、細く開かれたカーテンの隙間から、陽の光が筋になって寝室へ流れ込んでいた。何度も経験した朝なはずなのに、ここが自宅ではないと理解するまでいつも数秒かかる。
     俺も、恋人の楓吾も、休日はアラームを設定しない。二度寝三度寝を繰り返す俺とは違って、あいつはさっさと起きて散歩に行ってしまう。目が覚めて、隣に残された微かな体温と空洞を確認するとき、俺はいつも言いようのない不安に襲われる。実 2332