6ペンスの恋人――おとうさん、これなに? 何円硬貨?
神田がまだ小学校に上がる前のことだった。
何かを探していて開けた、父親の部屋のデスクの引き出しの中に、古いコインを見つけて尋ねた。
コインには女性の横顔と、反対側には植物のような模様だけがあって、神田が知っている硬貨のようにどちらかには大きく額面が印されていることはなかった。
――ああ、それはイギリスのお金だよ。だいたい十円くらいになるのかな。と言っても、いまは使われてないんだけど。
そう教えてくれた父は、懐かしいなあ、と息子の小さな手の中にある、銀色の古びた銀貨を見て目を細めた。
――ええと確か、そう、Something old, something new, something borrowed, something blue, and a sixpence in her shoe.
8955