能力主義で、高い視点から問題を見透し、それをあけすけに口にする。
そういう側面から、常闇の師は同業者にこそ敬遠されることがあり、常闇自身「苦労はないか」と聞かれたことは両手に余る。
一応、常闇としては(ホークス当人は意に介さないので)弁明しておきたいのだが、ホークスは理不尽とも非合理とも誰より縁遠いのだ。もし気分屋に見えるとしたら、他人が彼の速度に付いていけないことに、彼が全く関心を払わないからだろう。
そんな彼の「お願い」は珍しく、大抵けったいで、同時に他愛ない。
今日のそれは「おにぎり握って」というものだった。
「急に、どうされたのか」
氷水で手を冷やしながら、常闇は隣から作業を覗き込む師に尋ねる。
具材に何をご所望か、と尋ねたら、塩、のひと言だったので、米くらいは炊きたてを用意することにした。冷凍米は、そのうちチャーハンにでもするとしよう。
忙しさにかまけて料理の腕は上がっていないが、おにぎりなら炊きだしの定番だ。雄英で叩き込まれた工程との違いは、衛生手袋の有無くらいのものである。
「おにぎりって大体買ってすませちゃうんだけど、こないだネットでおにぎり用の型見かけてさ」
こう、かぱっとやるとキレイな三角が、とジェスチャーをする師を横目に、常闇は布巾で拭った手に塩をとる。すぐに食べるなら、少なめがいいだろう。
「使ってみたくなった、……のではないんだな」
「うん、手で握ったやつ食べたいなーと」
今日も思考回路の読めない人物だった。
「誰が作っても、さほど味の変わるものではないと思うが……」
「いやー違うんじゃない? アミノ酸とか」
「あみのさん」
オウム返ししつつも自分の手が止まらないあたりに、彼と出会ってからの年月を感じる常闇だった。ようするに、慣れである。
「どんだけ手ぇ洗っても、手の表面なり分泌物なり混じると思うよ。素手で握ってんだから」
「……理屈の上では同意するが……」
熱いごはんを手の上によそい、転がす要領でそっとまとめる。右手で山を、左手で底を。多少カタチは歪であるが、型抜きした米がご希望ではないとのことなので、多分見逃してもらえるだろう。
ところであなたのその認識は、食欲に資するものなのだろうか。一つ目を皿に置く前にそう尋ねようとしたら、師の頭は既に彼の手の上だった。
かぷり。
彼曰く「常闇が混ざっている」らしいおにぎりは、一口でおおよそ半分になった。頬張られた米がもっもっと咀嚼されるのを、常闇は呆然と見守っている。まぁ、師と共に居る常闇が呆然としていること自体は、特に珍しいことではない。
「ん、なんか旨い気がする」
「……それは、何より……。ところで」
おにぎり(半分)を掌に乗せたまま、常闇は呻いた。
「遊んで、おられるな?」
「うん」
見たままだよ、師は笑い、本当に美味しそうに、塩だけのおにぎりの残りを平らげる。常闇は溜息混じりに、再び両手を氷水に差し入れた。
誠に遺憾ながら、どうやらこれが常闇踏陰の幸福というやつらしい。