固く確かで、しかし微かな弾力を忍ばせ、なめらかで、血を通わせて、あたたかい。
鷹や鷲に似た造りの嘴に、ホークスは唇で触れて回る。
交際相手だった、と言って良さそうな人間は数人いるが、その中に、体の造りに個性を発現させたタイプは一人もいない。ホークスは、鳥のカタチの恋人を得るまで、その事実をまるで意識していなかった。
視点の高さや角度を異にする検分が、ホークスの人格の根幹だ。だから彼は自分の盲点を、それに気付かされたことを、少なからず愉快に思っている。
ベッドに座した常闇の腿を跨いで覆いかぶさり、ちゅ、ちゅ、と嘴の脇をノックしていると、そろりと隙間が開かれた。小ぶりで平らな下嘴、大きく弧を描いて覆いかぶさる上嘴。上手く首を傾けて避けないと、彼の舌には出会えない。鼻面同士をぶつけないようにするのと、似ているようでちょっと違ったコツがいる。
一番違うのは、彼に大きく口を開いてもらわないと何も始まらない、ということだろう。かぱりと開いた上嘴のかげに唇を忍び込ませ、気持ちのいいものを舌でねだる。まるで親鳥から餌をもらう雛だ、なんていう想像は、ホークスには少々こそばゆい。
ないものねだりは行き止まりだ。一歩でも半歩でも先へと進みたくて焦がれる人生に、手に入らなかったものを数えている暇はない。だから、自分に与えられなかった子供時代、なんてものに、彼はあまり関心を持てずにいるのだが、どういうわけか今になって、好きな相手に雛鳥の真似事なんてやっている。
舌肉は柔らかく、自在に形を変えて、なのに硬い芯をもつ。触れ合わせると、湿った音が体の中に響いて籠もる。上顎や舌横をぬるりと掠めるくすぐったさが、羽で撫でるように背筋を降りて、下腹に熱を溜めていく。
跨いだ体に擦り付けたくなる性感と、喉を撫でられている猫みたいな気分の綯い交ぜを惜しみながら、ホークスは、合わせた口を一度解いた。熱くなった息の撫でる頬に、うなじに回されていた手がするりと滑ってくる。
「相変わらず、嘴に興味をお持ちのようで」
「ありゃ、バレバレ?」
悪びれない師匠に、弟子の方も慣れたものだ。
「構わないが。……嘴の無い体と俺を比べて恥じない人となりなら、あなたはもう少し楽をしておいでだろう」
「いやーそしたら君、そもそも俺にベタ惚れしてなかったでしょ」
「自信がおありで何よりだ」
ぬばたま色の毛並みを指で漉き、くくっと喉を震わせて、ホークスは赤い瞳を覗き込んだ。
「ま、でも実際んとこ、君、キスはどうなの。俺は好きなんだけどさ。ちょっと抵抗ある感じ? 嘴いじられても微妙かなーとか、希望ある?」
「…………イイか悪いかでいうなら、今のままで大変イイが」
コホンと咳払いをして、常闇は視線を泳がせる。
「その、……俺の場合、大口を開けないとあなたに届かなくて、食らおうとしているようになるもので。それが、居た堪れないというか……」
満点の解答に――この場合「常闇が言うのなら」文句抜きに可愛いという趣旨の採点だが――ホークスは、えい、と弟子に伸し掛かった。
今はもうフィジカルが弱点だなんて誰にも言わせない、立派に体幹を鍛えた青年は、けれどおとなしく押し倒されて目を白黒させてくれている。
「そりゃいいね。食べてもらうのに準備してきたかいがある」
頭からパックリどうぞ? と笑うホークスの後頭部が、下から伸びた手に捕まえられる。それから彼は、希望の通り、準備万端の体を大口あけた恋人に食べられた。
情緒もいいけど、やっぱりコミュニケーションって大事だよねぇ、と一戦終えた師匠はシーツの上で同意を求める。水を手渡す弟子の答えは、あなたに関しては俺もそう思う、というものだった。