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    g_arowana

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    g_arowana

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    この間の、嘴が楽しくてしょーがない師がいる時空の話。
    この世界線の彼らのプロポーズ(????)の経緯はこんなでした。

    とこやみくんとかみなりくんの話は珍しい気がする。

    #とこほ
    evergreenTree

     友人が既婚者だつた。
     上鳴は、飲んでいたカシオレに静かに噎せた。
     
     常闇と上鳴は、旧A組の中では特に仲が良かった方ではない。好む話題もベースのテンションも、とかく色々ズレている。
     だが仲の良かった「方」ではないといっても、それは、全員が全員親友だといって過言でないA組基準の話である。二人は一般的には十分以上に仲が良く、こうして上鳴が、飲みの席でも隅を好む常闇の隣に「よう!」と話しに来たりする。加えて言うなら、彼にとって常闇は、個人的に印象深い人間だった。
     彼らにとって超常解放戦線との戦いは今なお忘れがたい傷痕だ。その強個性から学生の身空で「戦争」の最前線に引っ張り出されたとき、上鳴は正直半泣きだった。仲間想いの彼は最後には背後の級友のために奮起したのだが、そういう上鳴だからこそ、ホークスのピンチを叫んで上官の制止を振り切ってしまった常闇に顎を外したものだ。常闇自身の語彙を借りるなら、正しく漆黒の流星のような吶喊だった。
     だからその数年後、彼ら師弟が同居すると聞いたときには「まぁそんなこともあるかな」と思ったのだ。正直、それがどういう種類の「同居」なのかよく分からなかったというのもある。なにしろ常闇は学生の頃から硬派というか奥手というか、浮いた話の一つもなく、師弟が並んでいても「それらしい」雰囲気は皆無だったので。
     それがいきなり「このあいだ籍を入れたんだが」である。びっくりする。
     
    「…………えーと、夜はどっちがどっちとか、下世話なこと聞いていい?」
    「答えるわけがなかろう」
    「ですよねー」
     驚きすぎて、うっかりとあらぬことを口走った。上鳴はパンっと手を合わせて非礼への謝意を示す。こういう素直さが、彼が人に好かれる由縁の一つだ。常闇側にも、本気で気分を害した様子はない。
    「俺だけの話ならともかく、あの人のプライベートでもあるんだ。勝手に口にできるか」
     あ、理由そこなんだ。友人の変わらぬ美点に、上鳴は思わず笑顔になった。
    「……おっ前、相変わらずかっこいーよなー」
    「なんだそれは」
     首を傾げる常闇に、そーいうとこだよ、と上鳴は笑みを深める。
    「んじゃさ、プロポーズはどっちからーみたいのは聞いていい?」
    「特にないんだが……」
    「いやいやいや、ないってこたないでしょ」
    「本当なんだ。この間、眠ったとばかり思っていたあの人がふと目を開いてな」
     ふつうに話がベッドから始まったな、と思いながら、上鳴は口には出さずにうんうんと頷いた。旧A組の潤滑剤のコミュ力、面目躍如である。
    「『まぁ順当に俺の方がお迎えが先だったとして』などと言い出して」
    「……突然?」
    「そんなことを気にしていたらあの人とは付き合えん」
     常闇はなんでもなさそうに話を進める。さらりとしすぎていて、逆に苦労が忍ばれた。
    「『その場合、俺に関することは全部君の権利で、君の気が済むのだけが大事なんだけど』、と」
    「…………そうなの?」
    「俺もそう聞き返したんだが、逆に『当たり前でしょ』と呆れ顔をされた」
     常闇は淡々と続ける。
    「『君の権利に口出しされるより腹立つことって、俺、そうそうないんだけど、今のうちに手ぇ打っとけないかな』と聞かれたから、『一般的には籍を入れるのが手っ取り早いのでは』と答えた」
    「……で?」
    「翌日籍をいれた」
    「速ぇよ」
     実際こういう経緯なんだから仕方あるまい、と常闇は林檎酒のソーダ割りをストローで吸い上げている。
    「……だがそうだな……俺は去年、ヒーロー活動中に死にかけたろう」
    「忘れるわけないでしょ。ほんとやめてね? こういう仕事だけどさぁ……」
    「努力はする。まぁそのとき、……あれは走馬燈だと思うんだが……俺を抱き枕代わりにしているときの、あの人の実に幸せそうな寝顔が脳裏に大写しになってな」
    「……おぅ」
     唐突に始まったノロケに、上鳴はなんとか振り落とされずに返事をする。
    「このまま俺が死ぬと、ああいう時間があの人から奪われるのか、と思ったら」
    「…………おぅ」
    「怒りで目の前が真っ赤になった」
     上鳴はグラスに口をつけたまま動きを止め、ひたすらに瞬いた。いま、非常に不可解な結論が出なかっただろうか。
    「オチオチ気絶していられなくなったんだが、結果的にそれで命が助かったらしい。あのまま意識をなくしていたら死んでいた、と医者に言われた」
    「そ、……そっか……」
    「覚えていないんだが、麻酔から一度覚めたときに、この話をホークスにしたそうでな。……その場に面会にきていた俺の両親もいたらしい。後になって『お前の気持ちは分かったが、自分たちのことが視界にも入らないのはどうかと思う』となじられた」
    「親御さんに何て答えたんだよそれ……」
    「申し訳ないが諦めてくれ、と」
     上鳴の気管が、先ほどよりも盛大なダメージを受けた。落ち着きたくて飲み物を口に入れてしまったのが敗因だった。
     常闇側は、意識がないも同然だったのだから取り繕いようがあるまい、と平然としている。
    「そういうわけで、身内からも『いまさらか』という扱いでな。劇的な出来事は何もない。期待に沿えずすまんな」
    「……や、インパクトしかなかったんだわ。全体的に」
     
     真顔で断言する(流されるばかりでヒーローは務まらないのだ)上鳴に、常闇は苦笑した。
    「まぁ、結婚に至るやりとりとしては、些か風変わりだったかもしれないが」
     常闇はひょいとポケットに手を伸ばす。携帯が何かを受信したらしい。ロック画面にポップした表示に、彼は目元を和ませた。
    「……俺はあの人を愛しているが、恋をしたことがあるかは分からないんだ」
     
       ◇
     
     懐かしい面々に別れを告げて、常闇は非常階段で夜風に吹かれている。程なくして、隣にパサリと赤い翼が降り立った。
     既にコスチュームは着替え済みで、その手には空のスポーツバックと羽根穴のないジャケットがある。空を往くのはここまで。酔っ払いとのそぞろ歩きはプライベート、ということだ。
    「楽しかったみたいだね?」
    「あなたの惚気を随分聞いてもらってしまった」
     常闇の差し伸べた腕にジャケットを渡して、ホークスは解いた背の赤をバッグに滑り込ませる。
    「俺の話を誰かとするなら、たまには愚痴でも聞いて貰やいいのに」
     冗談めかして片目をつむってみせるホークスに、常闇は笑って、羽根入りのバッグと預かったジャケットの交換を促した。
    「作り話は苦手なんだ。ご存じだろう」
     
     彼らがそんな話をしているころ、地上では、「常闇、結婚してたわ」という上鳴の発言に、級友達の盛大な驚愕の声が唱和していた。
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    g_arowana

    PROGRESSとこほです(胸を張る)。
    いつか書こうと思ってるR指定のやつの冒頭パートなのでこれはとこほで間違いないです。同居未来。

    現時点ではひっっどい仮タイトルがついてるんで、書き上がるころにはまともなのに出てきてほしい。
     水桶につっこんでおいた夜食の皿と、朝食に使った皿。二人分がにぎやかに食洗に洗われている。余計なものの退いた明るいオープンキッチンで、常闇は二杯目のコーヒーをカップに注いだ。
     朝食中に一杯、食後に一杯、二人あわせて計四杯。豆の量はそろそろ手に馴染みつつあるが、彼ら師弟が揃って食後にのんびりできる機会は多くないため、ルーティーンとはまだ呼びづらい。
     
     常闇が二つのカップを手に向かうのは、ホークスの休むソファだ。アームレストは無垢板で、ちょっとしたテーブル代わりにも使える。その定位置に、常闇はソーサーをかちゃりと置いた。
     カップソーサーを「無駄じゃない?」の一言で片付けそうなホークスだが、意外なことにこのカップは彼が選んだものだ。肉厚でぽってりとしており、つるりとした釉薬の下から素朴な土の質感を覗かせる。その風合いを「古良き名喫茶って感じで、君っぽい」とホークスは喜び、カップは今日まで二人に愛用され続けている。探し始めてからお気に入りに決断するまでの所要時間がものの十分程度だった、という点については、実に彼らしいエピソードと言えるだろう。
    1949

    g_arowana

    DONE鳥師弟。……いや告白してる気がしなくもないのでとこほなのか。どうなんだ。いつものよぅ分からんやつです。
    ヒ暇世というには忙しい未来の休暇話。
     春空に、無数のシャボン玉が舞っている。

     だだっ広い芝生の上では、小学校に上がるくらいの年頃の子供が何人も、空に虹色を飛ばしている。シャボン玉なんて、と最初はバカにしていたのだが、あたりいっぱいに飛ばしているうちになんだか面白くなってしまったらしい。今は大きく頬を膨らませて意気盛んだ。
    「君は遊ばないの?」
     ホークスは、彼らからちょっと離れた芝生に座る子供の隣で屈みこむ。
     今日の彼の姿は、羽をパーカー下に畳んでキャップを被った休日スタイル。身分を保証するものは掲げていない。もっとも、例え羽が見えていても、近年裏方に回りがちな彼をこの年頃の子供がヒーローと認識するかは怪しいところだ。
     鳥型の少年だった。タイプとしては嘴長めの鴉寄り。ホークスの身内とは色味以外はあまり似ていない。そんな少年は、ホークスの馴れ馴れしくもなければ畏まるでもない、あまりに自然な態度に、答えを返して当然だと思わされたようだった。そう仕向けているのはホークスだが、育成環境由来のこの特技には当人も「適性・人さらいって感じだよなぁ」と思っている。
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    g_arowana

    DOODLEこの間の、嘴が楽しくてしょーがない師がいる時空の話。
    この世界線の彼らのプロポーズ(????)の経緯はこんなでした。

    とこやみくんとかみなりくんの話は珍しい気がする。
     友人が既婚者だつた。
     上鳴は、飲んでいたカシオレに静かに噎せた。
     
     常闇と上鳴は、旧A組の中では特に仲が良かった方ではない。好む話題もベースのテンションも、とかく色々ズレている。
     だが仲の良かった「方」ではないといっても、それは、全員が全員親友だといって過言でないA組基準の話である。二人は一般的には十分以上に仲が良く、こうして上鳴が、飲みの席でも隅を好む常闇の隣に「よう!」と話しに来たりする。加えて言うなら、彼にとって常闇は、個人的に印象深い人間だった。
     彼らにとって超常解放戦線との戦いは今なお忘れがたい傷痕だ。その強個性から学生の身空で「戦争」の最前線に引っ張り出されたとき、上鳴は正直半泣きだった。仲間想いの彼は最後には背後の級友のために奮起したのだが、そういう上鳴だからこそ、ホークスのピンチを叫んで上官の制止を振り切ってしまった常闇に顎を外したものだ。常闇自身の語彙を借りるなら、正しく漆黒の流星のような吶喊だった。
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    g_arowana

    PROGRESSとこほです(胸を張る)。
    いつか書こうと思ってるR指定のやつの冒頭パートなのでこれはとこほで間違いないです。同居未来。

    現時点ではひっっどい仮タイトルがついてるんで、書き上がるころにはまともなのに出てきてほしい。
     水桶につっこんでおいた夜食の皿と、朝食に使った皿。二人分がにぎやかに食洗に洗われている。余計なものの退いた明るいオープンキッチンで、常闇は二杯目のコーヒーをカップに注いだ。
     朝食中に一杯、食後に一杯、二人あわせて計四杯。豆の量はそろそろ手に馴染みつつあるが、彼ら師弟が揃って食後にのんびりできる機会は多くないため、ルーティーンとはまだ呼びづらい。
     
     常闇が二つのカップを手に向かうのは、ホークスの休むソファだ。アームレストは無垢板で、ちょっとしたテーブル代わりにも使える。その定位置に、常闇はソーサーをかちゃりと置いた。
     カップソーサーを「無駄じゃない?」の一言で片付けそうなホークスだが、意外なことにこのカップは彼が選んだものだ。肉厚でぽってりとしており、つるりとした釉薬の下から素朴な土の質感を覗かせる。その風合いを「古良き名喫茶って感じで、君っぽい」とホークスは喜び、カップは今日まで二人に愛用され続けている。探し始めてからお気に入りに決断するまでの所要時間がものの十分程度だった、という点については、実に彼らしいエピソードと言えるだろう。
    1949

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    g_arowana

    DONE鳥の弟子が師匠を甘やかします。
    Without Regretsの世界線。Pardon? から一週間で引っ越してその翌月なので、たぶん常闇青年21歳4月の出来事です。
     夜警を終えて師のマンション(もとい、先月からは彼の自宅でもあるのだが)に帰った常闇は、リビングの灯りに目を丸くした。
     体が資本の稼業、休めるときに休むのは義務のようなもので、シフトの異なる相手を待って睡眠時間を削ることはお互いしない。実際、向こうも常闇を待っていたわけではないだろう。グラスを片手にホークスは、視線をぼんやり前に投げたままひらりと手を振った。
    「お疲れ」
    「そちらも。……珍しいこともあるな」
    「ん-。ごっめん、ちょっと放っといてくれると助かる」
     いつも通りの軽々しい口調に、ひりついた響きが微かに滲む。ふむ、と常闇は逡巡した。

     さして問題だと思ったわけではない。この人の、回転数の規格の狂った思考回路に無理矢理足踏みをさせようとなったら、化学物質で物理的に止めるくらいしか手がないのは承知している。「どうせ気分が腐って休めないのだから、徹夜で仕事を片付ければ一石二鳥」などと言われるより余程安心だという話だ。酒精で体をいためるほど自分を甘やかすことなど、良くも悪くもできない人なのだから。
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