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    g_arowana

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    POIPOI 27

    g_arowana

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    去年のポッキーの日の話の関連作です。大捏造とこやみくんのお祖父様の話がちょこっと出てきます。

    #とこほ
    evergreenTree

    「……苦くないね」
     カップに口をつけて、ホークスは興味深そうに瞬いた。
    「綺麗なフルーツ香のする焙じ茶……まで言うとオーバーだけど、そんな感じ」
    「そうだな。一般にいうコーヒーとは、いささか風情が異なると思う」
     彼の向かいで、どうやら口に合ったらしいと内心胸を撫で下ろしつつ、常闇も自分のカップを取り上げた。
    「……喫茶店を経営していた祖父の気に入りだ。豆を浅煎りにして、当時は薄手の布フィルタで抽出していた。今は円錐のドリッパーがあるから、紙でよくて便利だ。
     その頃はコーヒーと言えば泥のように濃いものだと思われていたから、『こんな薄いものに金を払えるか』と随分難癖をつけられたようだが、まぁ、身内ながら頑固な人で」
    「常闇くんに言われるのか〜」
    「要らないのなら回収するが?」
     常闇が半眼で手を差しだすと、ふざけた仕草でカップが退避される。溜息をついて常闇は続けた。
    「……俺が知っているコーヒーはこういうものだったから、小さい頃、友人に『飲めて凄い』と言われるたびに、話が噛み合わなくて据わりが悪かった」
    「なるほどねぇ……濃いのとは違うけど、味が多いから薄い気もしない。面白いね、味覚って」
    「祖父もそんなことを言っていたな。美しい織物だって、グシャグシャと丸めたら何も分からない、鑑賞には広げる余白が必要だ、と」
    「ジーニストさんと気が合いそうな例え話だ」
     ホークスは、リビングの光にカップを掲げ、少し透る水面に目を細めた。
    「……君らも、このコーヒーみたいな薄暗がりの方が好きだったね。泥みたいな真っ暗闇ン中なら最強なのに」
    「? ……あぁ」
    「俺は好きだな。君のおじいさんの趣味も、君の趣味も」

       ◇

     そんな遣り取りをつぶさに覚えているのだから、家族の味を披露するにあたって、あのとき自分は割に緊張していたのだろうな、と常闇は思う。
     沸かした湯を、まずはドリッパーをセットしたサーブ用ポットにいれて、それをドリップポットに移す。全ての器具が温まり、ついでに湯温も適当になったところで、ドリッパーにフィルタをセットして粉を均し、細く細く湯を回して粉のドームを膨らませる。浅煎りの豆はガスの抜けが悪いので、撹拌を良しとする説もあるのだが、常闇は取り入れていない。届ける相手が雑味を嫌うので、そのあたりは豆の調子を見ながら注ぎ方で整える。
     落ちきる前にドリッパーを外し、香りに頷いた常闇は、二つのカップにコーヒーを移した。行き先はホークスの部屋。天岩戸ほどではないが、ちょっとした開かずの扉の様相である。
    「ホークス。手が塞がっているので開けてほしい」
     ほどなくして、非常にバツの悪そうな顔をした師匠が部屋から顔を覗かせた。
    「……や、俺が言い過ぎたのに、これどう考えても変だよね?」
    「そろそろ口実の必要な頃合いかと」


     さて、この度の二人の口論、ホークスの指摘は言い過ぎではあったが、ちゃんと正論でもあったのだ。この容赦のない人物がそれを「言い過ぎた」と思ってくれて、取り繕うのなんて朝飯前のはずなのに「ちょっと頭冷やしてくる」とこの世の終わりのような顔をして部屋に引っ込んでしまった。
     まぁ、その時点で、怒り続けるのは常闇には無理だった。
    「いや、死ぬほどカッコ悪いな俺……」
     受け取ったカップをデスクに置いて、はぁ、とホークスは肩を落とす。コツンと常闇の肩口に額をつけて、言い過ぎた、ごめん、と謝った。
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    g_arowana

    PROGRESSとこほです(胸を張る)。
    いつか書こうと思ってるR指定のやつの冒頭パートなのでこれはとこほで間違いないです。同居未来。

    現時点ではひっっどい仮タイトルがついてるんで、書き上がるころにはまともなのに出てきてほしい。
     水桶につっこんでおいた夜食の皿と、朝食に使った皿。二人分がにぎやかに食洗に洗われている。余計なものの退いた明るいオープンキッチンで、常闇は二杯目のコーヒーをカップに注いだ。
     朝食中に一杯、食後に一杯、二人あわせて計四杯。豆の量はそろそろ手に馴染みつつあるが、彼ら師弟が揃って食後にのんびりできる機会は多くないため、ルーティーンとはまだ呼びづらい。
     
     常闇が二つのカップを手に向かうのは、ホークスの休むソファだ。アームレストは無垢板で、ちょっとしたテーブル代わりにも使える。その定位置に、常闇はソーサーをかちゃりと置いた。
     カップソーサーを「無駄じゃない?」の一言で片付けそうなホークスだが、意外なことにこのカップは彼が選んだものだ。肉厚でぽってりとしており、つるりとした釉薬の下から素朴な土の質感を覗かせる。その風合いを「古良き名喫茶って感じで、君っぽい」とホークスは喜び、カップは今日まで二人に愛用され続けている。探し始めてからお気に入りに決断するまでの所要時間がものの十分程度だった、という点については、実に彼らしいエピソードと言えるだろう。
    1949

    g_arowana

    DONE鳥師弟。……いや告白してる気がしなくもないのでとこほなのか。どうなんだ。いつものよぅ分からんやつです。
    ヒ暇世というには忙しい未来の休暇話。
     春空に、無数のシャボン玉が舞っている。

     だだっ広い芝生の上では、小学校に上がるくらいの年頃の子供が何人も、空に虹色を飛ばしている。シャボン玉なんて、と最初はバカにしていたのだが、あたりいっぱいに飛ばしているうちになんだか面白くなってしまったらしい。今は大きく頬を膨らませて意気盛んだ。
    「君は遊ばないの?」
     ホークスは、彼らからちょっと離れた芝生に座る子供の隣で屈みこむ。
     今日の彼の姿は、羽をパーカー下に畳んでキャップを被った休日スタイル。身分を保証するものは掲げていない。もっとも、例え羽が見えていても、近年裏方に回りがちな彼をこの年頃の子供がヒーローと認識するかは怪しいところだ。
     鳥型の少年だった。タイプとしては嘴長めの鴉寄り。ホークスの身内とは色味以外はあまり似ていない。そんな少年は、ホークスの馴れ馴れしくもなければ畏まるでもない、あまりに自然な態度に、答えを返して当然だと思わされたようだった。そう仕向けているのはホークスだが、育成環境由来のこの特技には当人も「適性・人さらいって感じだよなぁ」と思っている。
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    g_arowana

    PROGRESSとこほです(胸を張る)。
    いつか書こうと思ってるR指定のやつの冒頭パートなのでこれはとこほで間違いないです。同居未来。

    現時点ではひっっどい仮タイトルがついてるんで、書き上がるころにはまともなのに出てきてほしい。
     水桶につっこんでおいた夜食の皿と、朝食に使った皿。二人分がにぎやかに食洗に洗われている。余計なものの退いた明るいオープンキッチンで、常闇は二杯目のコーヒーをカップに注いだ。
     朝食中に一杯、食後に一杯、二人あわせて計四杯。豆の量はそろそろ手に馴染みつつあるが、彼ら師弟が揃って食後にのんびりできる機会は多くないため、ルーティーンとはまだ呼びづらい。
     
     常闇が二つのカップを手に向かうのは、ホークスの休むソファだ。アームレストは無垢板で、ちょっとしたテーブル代わりにも使える。その定位置に、常闇はソーサーをかちゃりと置いた。
     カップソーサーを「無駄じゃない?」の一言で片付けそうなホークスだが、意外なことにこのカップは彼が選んだものだ。肉厚でぽってりとしており、つるりとした釉薬の下から素朴な土の質感を覗かせる。その風合いを「古良き名喫茶って感じで、君っぽい」とホークスは喜び、カップは今日まで二人に愛用され続けている。探し始めてからお気に入りに決断するまでの所要時間がものの十分程度だった、という点については、実に彼らしいエピソードと言えるだろう。
    1949

    g_arowana

    DOODLEこの間の、嘴が楽しくてしょーがない師がいる時空の話。
    この世界線の彼らのプロポーズ(????)の経緯はこんなでした。

    とこやみくんとかみなりくんの話は珍しい気がする。
     友人が既婚者だつた。
     上鳴は、飲んでいたカシオレに静かに噎せた。
     
     常闇と上鳴は、旧A組の中では特に仲が良かった方ではない。好む話題もベースのテンションも、とかく色々ズレている。
     だが仲の良かった「方」ではないといっても、それは、全員が全員親友だといって過言でないA組基準の話である。二人は一般的には十分以上に仲が良く、こうして上鳴が、飲みの席でも隅を好む常闇の隣に「よう!」と話しに来たりする。加えて言うなら、彼にとって常闇は、個人的に印象深い人間だった。
     彼らにとって超常解放戦線との戦いは今なお忘れがたい傷痕だ。その強個性から学生の身空で「戦争」の最前線に引っ張り出されたとき、上鳴は正直半泣きだった。仲間想いの彼は最後には背後の級友のために奮起したのだが、そういう上鳴だからこそ、ホークスのピンチを叫んで上官の制止を振り切ってしまった常闇に顎を外したものだ。常闇自身の語彙を借りるなら、正しく漆黒の流星のような吶喊だった。
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    g_arowana

    DONE鳥の弟子が師匠を甘やかします。
    Without Regretsの世界線。Pardon? から一週間で引っ越してその翌月なので、たぶん常闇青年21歳4月の出来事です。
     夜警を終えて師のマンション(もとい、先月からは彼の自宅でもあるのだが)に帰った常闇は、リビングの灯りに目を丸くした。
     体が資本の稼業、休めるときに休むのは義務のようなもので、シフトの異なる相手を待って睡眠時間を削ることはお互いしない。実際、向こうも常闇を待っていたわけではないだろう。グラスを片手にホークスは、視線をぼんやり前に投げたままひらりと手を振った。
    「お疲れ」
    「そちらも。……珍しいこともあるな」
    「ん-。ごっめん、ちょっと放っといてくれると助かる」
     いつも通りの軽々しい口調に、ひりついた響きが微かに滲む。ふむ、と常闇は逡巡した。

     さして問題だと思ったわけではない。この人の、回転数の規格の狂った思考回路に無理矢理足踏みをさせようとなったら、化学物質で物理的に止めるくらいしか手がないのは承知している。「どうせ気分が腐って休めないのだから、徹夜で仕事を片付ければ一石二鳥」などと言われるより余程安心だという話だ。酒精で体をいためるほど自分を甘やかすことなど、良くも悪くもできない人なのだから。
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