メッセージ一つで、鴉の青年は本当に相方の回収に現れた。ホークスと共に別件で上京していた彼は、隣県で丁度事件を片付けたところだったという。
「すまない。呼び立ててしまった私もよくよく酔っているな」
「いえ、近場でしたから」
発言は、礼儀正しい彼の気遣いではなく、単なる事実認識だったらしい。空を駆る彼ら師弟の距離感覚は、重力に縛られた人間にはどうにも量り難いところがある。
玄関先でジーニストの背後に目をとめ、ツクヨミは微かに目元を和ませ、す、と頭をさげた。
「……ありがとうございました」
「礼を言うのはどう考えても、酔っ払いを回収して貰える私の方だよ」
「師は、佳い時間を過ごしたようです」
……何が驚いたって、ただただホークスの幸いを喜ぶ声に、背後から茶化す軽口が返らなかったことだ。靴に突っ込んだ爪先をトントンと床に打ち付ける男を振り返り、ジーニストは人の悪い笑みを見せる。
先の出来の悪いノロケより、こちらの方がよっぽどだろう。
◇
「車を拾うか?」
「風がいいからちょっと歩きたいかなー……って君に悪いか、さすがに」
「問題ない。俺とて、脚を使ってここまで来たわけではないのだから」
めちゃくちゃな理屈だ、とホークスは笑い、結局そのままなし崩し。高層マンションを背に、二人はふらりと歩きだした。ホークスは大きく伸びをする。
「あー……ひっさしぶりに酔っ払った」
「ご冗談を。ジーニストの家で火酒をボトルで空けたので?」
「うーん、理解が正確すぎる」
喉奥で笑った彼は、でもほんとだよーと続ける。
「笑うところだけどさ」
「ああ」
「人と手を繋いで歩きたいって浮かれたヤツの気持ちが初めて分かった」
「なるほど」
常闇は、ひょいと隣を歩く師の手を絡め取り、コートのポケットに仕舞い込んだ。師の素で唖然とした顔はちょっと面白かった。
シークタイムの短さはこの人譲りなので、当人が驚くことではないと思う。
「……付き合いイイにも程がない? 君」
「こういうのは、役得という」
このひとが、してやられて悔しい、という顔を素直に見せてくれるのだから、酔っているという自己申告は正しいらしい。確かに悪くないようだ、と笑って、常闇はポケットの中の手を握りなおした。