雨に濡れても ぽつり、と頭のてっぺんに雨粒を感じた。すると、当たり前のように傘が差し出された。
いつの間に用意していたのか、一緒に山荘を出る時には持っていなかった気がするのに。
傘を持つその手の向こうの顔を見上げれば、子舒が何を言いたいのかわかったのだろう。温客行は得意げに「出しなに今日は雨になると、成嶺が言ったのだ」と笑った。
それならば弟子の手柄だなと返してやると、ではあの子に土産の菓子をひとつ追加してやろうと更に笑みを深くする。
今頃は干した薬草を取り込んだり窓や戸を閉めて回ったり、慌ただしくしているだろう。家の中のことは料理以外任せられるようになってきた。
「……しかし、何故一柄しか持ってこなかった?」
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