空に光るはすべて星 001〜010240414
こんなにも愛されている
「俺ばっかり好きなんだよなあ」と口走って、あ、ヤバい愚痴っぽくなっちまった久しぶりに逢えたのに、莫迦だな俺…と慌てて表情を盗み見ると、モニターを見詰める横顔は無表情なままで、聴こえなかったのかと安心したが、煙草の煙を吐き出してからポツリと「俺も俺ばっかりだと思っていた」と囁かれた
240415
運命という罠
あのとき、温室に行かなければ、衝動のまま求婚しなければ、そもそも決闘なんかしなければ、いや大人しく父さんに従っていれば。何度も魘され目覚める度に、ひんやりした左腕と暖かな右腕に包まれ背中を優しくさすられていることに気付き、昔読んだお伽噺の、箱の底に残った小さな希望の事を思い出した
240416
二人だけの王様ゲーム
いや違うだろ?何を言い出すんだこの御曹司は??暇潰しに地球の古いゲームをやってみたいと細長いスナックを咥え口をとがらせ「ん、」って?固まっていると、ポロッとスナックを落として「…俺なんか勘違いしてる?」ああもうこんなことで泣くな歪む唇から覗く赤い舌先から目が離せなくなるじゃないか
240417
もしも魔法が使えたならば
ガンダムなんて知らなかったし操縦したいとは不思議と思えず、父の遺した愛機と己の実力のみでどうすれば彼女に勝てるかしか考えられなかった。魔女が駆ると言うのだからあの驚異的な強さは本当に魔法なのかもしれないが、いま震える手で彼女と闘えるのは、遠く彼のおかげということの方が魔法に思えた
240418
世界で一つだけの願い事
ニュースでたまに鮮やかなマゼンダ色の前髪が見られればいいと思っていた。行方不明だなんて、そんな勝手な、と、理不尽な怒りが湧き上がり、自分の本当の願いに初めて気付いて頭を抱えた。その瞬間背後から「どうかしたのか?」と聴き慣れた声がして、慌てて振り向いたら懐かしい空色の瞳が笑っていた
240422
君の最期に
莫迦だな。こんなのは年寄りが先なの当たり前だし、爆散して骨も残らないと思っていたから、お前の顔を見ながらだなんて俺は幸せ者だ。出会った時から俺はお前をずっと危なっかしいと思っていたからお前を庇えてよかったよ。これにこりて無 鉄砲も ほどほどに な、 さいご えがお をみせ て く
240422&0512
君の傍
もう一生逢えないのか?仕事で地球に行く度に探すのだが流石相手は潜伏のプロだ。尻尾の先すら掴ませない。溜息を吐いて最終日のホテルのドアを開けたとたん滑り込んで来た影から懐かしい匂いがした。「ずっと尾けていたのか?」「…お前が鈍過ぎて呆れたよ」焦がれていた両腕に抱きしめられ息が詰まる
マジかよ。俺はお前が地球に来るという情報が入る度にナジに笑われながらずっとさりげなくお前の移動先をうろうろしていたんだぞ。今日は何度か目が合ったと思っていたが全部俺の勘違いか?鈍いにも程がある。お前がぜんぜん気が付かないからしかたなく俺、は、…ん…。今夜は寝かさないから覚悟しろよ
240423
日常崩壊寸前
夢中になって飲食や睡眠を忘れるなんてよくある事だろ?大好きな父さんの大切な会社を立て直す、俺にしか出来ない仕事はやり甲斐があるし、俺は人一倍身体は丈夫だからずっとこんな生活続けてるが別に体調も問題な え やめ 寝かしつける な まだねむくなんかな、ん、あっ だめだってそんな んん
240424
優先順位
無事だった子供と、瓦礫に潰された子供。バスで逃げられた子供と、延命が難しい子供。俺はあのちいさな笑顔が目の前で消えてから沢山の子供達がいなくなるのを見てきた。「何がしたいのかわからない」とお前は言うが、他人の為なら立ち上がり走れるお前の為に、俺は何が出来るのか考えたくなったんだよ
240425
愛する臆病者
何に怯えてるんだ?そう。あんた自身は認めたくないかもしれないけど俺はやっと気が付いたんだよ。ぶっきらぼうな態度も冷たい言葉も、俺を必要以上にあんたの柔らかな内部に踏み込ませない為なんだって。俺はもう逃げたくないって言っただろ?そんな顔するなよ。俺はもう一生あんたから離れないからな