地平線の遙か彼方まで続く熱砂の丘を越え、母なる大河が流れる場所にその国はあった。
「ジャバル」
大いなる神の住む山の名を冠したその国の王都には白亜の大宮殿の向こうには緑の丘が見え、天に届きそうなほど大きな城の門が開くと、そこにはまばゆいばかりの装飾が施された美しい世界が広がる。
故郷とは違う乾いた風に少しばかり咳き込んでしまったケイは、太陽に照らされた金色の宮を眺めて眉を顰めた。
門が重厚な音を立てて閉まってしまうと、その音によって自分がこの美しく豪奢な鳥かごから出られる術はないことを改めて知らされたような気分に陥るも、ケイはただ促されるままに宮殿の中へと歩を進めた。
ケイはこの国よりも北方の国の王族として生まれた。王族といっても先王の従甥と妾の子で王位継承には全く関係なく、王族と呼べるか微妙ですらあった。
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