もう会えないママ。目が覚めた時に周りには誰もいなかった。
「…ママ…」
でも、真っ暗な中よーく目を凝らすとあちこちにぬいぐるみや人形が転がっているのに気がついた。
そうかここは、と気づくのはすぐだった。
周りのぬいぐるみや人形が動けない中自分だけが手足を動かせて、言葉を発することができる。それが分かると自分の力で歩きたくなった。
行くところはない、行きたいところもない。
それでもトテトテとぎこちない足運びで歩いてみる。ママには会えない道を辿って。
『人間の子どもはいつか人形が必要じゃなくなる日が来るの。』
昔、小さなママが言った言葉。
小さなママに似合わないくらい大人びた言葉になんだか面白くなった。
『だって子どもはいつの間にか学校に行ってお友達ができて、いつの間にかお家に好きな人を連れてきて、それでね、いつの間にか本物の子どもを産むのよ。』
誰に聞いたのか、そんな話を私に向かってまるでおとぎ話でもするかのように聞かせてくる。
だから、知ってたの。
いつか、ママに捨てられるって。
『ママがいない時も、ちゃんとミルクを飲むのよ。』
『飲んだあとはお口をちゃんと拭くの。』
『いつもきれいにしていなさい。』
小さなママは、そう言いながらよくお世話をしてくれた。
だから、自分でミルクも飲めるしお口も拭けるようになったの。
きっと大きくなったママは、見つけられないから。
でも、たまにすごくさみしくなるの。
だから、もう少しの間探させてね。
「ママ…」
ねぇ、ママ。
どこにいるの、って。