それがロマンスの運命(さだめ)なら 日が高く登っているお昼時、任務終わりの五条が談話室の前を通ったら、なかなかに面白い話題が聞こえてきた。好きな人が振り向いてくれるような女性になりたい、と伊地知が家入に相談をしていたのだ。
「(伊地知に好きな奴ね〜……、面白そーじゃん)」
そう興味と揶揄い半分の気持ちのまま勢いよく談話室の扉を無遠慮に開けた五条は、突然の来訪者に驚き目を剥いて固まっている伊地知と家入など無視して、二人の会話に割り込んだ。
うんざり顔の家入と、顔を赤らめた――まさか相談内容を五条に聞かれていたとは思わなかったのだろう――伊地知と先の話題について笑い混じりに話し合った。そして、どういう話の展開でそうなったのか今になっては不明だが、五条が伊地知を魅力的な女性になれるようプロデュースをすることになったのだ。
「男子の俺の方が硝子より男の気持ちわかるから、いいアドバイスできるっしょ」
「五条さ、遊びじゃないんだから、伊地知にふざけたアドバイスをするなよ」
「しないって〜。五条センパイにまっかせなさーい」
なんとも軽い口調でそう言った五条は、胸を張りながら伊地知を見下ろした。
「オマエをいい女にしてやるよ」
「よ、よろしくお願いします……」
萎縮したように肩を寄せながら、伊地知は小さく頭を下げて返す。
「じゃあ早速、まずは中身から変えようぜ」
「中身、ですか?」
「まともなこと言うね。積極的になれって?」
疑問符を浮かべながら首を傾げる伊地知と家入に、五条はニヤリと口角をあげて言った。
「そ。積極的に♡」
その日の放課後、さっそく中身を変える為五条が伊地知を連れた先はランジェリーショップだった。ショップの入り口付近で不思議そうに佇む伊地知の背中を五条はグイグイ押して入店を促す。
「何突っ立ってんだよ。早く入れ」
「え、え、ちょっとっ、押さないでください! なんでここに!?」
「はぁ? オマエ、ンなの中身変えるために来たんだろーが」
「中身って、性格という意味じゃ……」
困惑した顔で見つめてくる伊地知に、五条は不敵な笑みを浮かべた。
「性格はいいんだよ別に。まずはお子ちゃま下着から卒業しな」
「……は!?」
「ほら行ってこーい」
トン、と軽く五条に背中を押された伊地知は、大袈裟だとツッコミを入れたい程よろめいた後、オドオドした様子でショップへ入店して行った。そんな姿を呆れながら見送って数十分、一向に出てくる気配がない事に五条は小首を傾げ、現状を見ようと遠慮なく花園に踏み入った。ギョッとしながら五条を見やる周囲の女性客に臆する事なく、目的の人物である後輩の元へ向かえば、何やら当人は一つの商品を手に取り唸りながら悩んでいる様子だった。背後からこっそりと伊地知の手元を覗き込んだ五条は、商品を目に入れるなり思った事を正直に口にした。
「いやでかくね?」
「ひゃ!?」
「オマエはこっちのサイズでしょ。あとデザインはセクシー系にしろ」
「な、な、な……っ」
目を丸くし顔を真っ赤に染めながら、ワナワナ震えて五条を見上げる伊地知にこっちと言ったサイズの下着を渡す。黒の上下セットで、言うまでもなくセクシー系デザインの物だ。
「あ、待った。やっぱ黒より白……あ〜青かな?」
伊地知に渡した下着と同様のデザインで色違いのものを手に取り、五条は伊地知に当ててどの色が似合うか確認をする。しかし、思っていたより三色共伊地知の容姿に合っていた為、五条は伊地知に選択を委ねた。
「なぁ伊地知、オマエどの色がいい?」
「……――ください」
うつむいた頭がボソリと何か言葉を放ったが、よく聞こえなかった五条は身を屈めて伊地知の方へ耳元を寄せた。
「あ? なに?」
「っ……出てってください! 何考えているですか!? 他の方もいるのに……ッ、非常識です!!」
うつむいていた頭が勢いよく上がり、ワッ! と擬音が聞こえそうな程伊地知は叫んだ。うっすらとピンク色に染まった目尻には涙が滲んでおり、顔は変わらず真っ赤である。