お前/あなた のことなんて好きじゃない 人が行き交う遊歩道の中で、僕は通行の邪魔にならないよう隅に寄って佇んだ。正確には、「喉乾いたから飲み物買ってくる」と言って僕を置いていなくなった二学年上の先輩――五条先輩を待っている。
ひまわり畑に囲まれたこの遊歩道は、通行料を払うことなく入れるデートスポットとして有名であり、両手の指では数え切ることができないくらいには、僕は五条先輩と二人きりでこういった場所へ出かけていた。
なぜ頻繁に二人だけで、ましてや男同士では滅多に行かないようなところに来ているのか。事の発端は約三ヶ月前まで遡る。
「傑と硝子が俺は伊地知のことが好きだって言うんだけど、お前どう思う?」
「…………はい?」
授業の合間にある昼休み、机の上に弁当を広げた僕の元へ五条先輩はやってくるなり第一声にそう訪ねてきた。
「……先輩が僕を好きだとは思えませんが?」
「だよなぁ? 俺もそう思う」
「はぁ……?」
僕の答えに五条先輩は納得がいっていない様子を見せたが、けれどそれ以外の返答ははっきり言って思い浮かばない。
「どういった経緯で五条先輩は僕のことが好きだと言われて、僕に聞こうと思ったんですか?」
「経緯もクソもねーって。傑達が、俺は伊地知の話ばかりするからお前のこと好きなんじゃねーのって言うんだよ。あり得ねぇって思うけど、ちょっとモヤモヤするからお前はどう思うか気になっただけ」
「それだけですか?」
「それだけだよ」
なんとも安易な理由だな、と思ったけれど五条先輩の友人である二人が意味もなくそのような発言をするとは到底思えなかった。
んー、としばらく考えを巡らせる。そして、率直に思いついたことを僕は口にしてみた。
「夏油先輩達は何か思うところがあるのかもしれないですけど、でも五条先輩が僕を好きとは思えないですし……試しに付き合ってみるのはどうですか?」
「はぁ? 俺と伊地知が?」
「そうです。試しに付き合ってみて無理だと思ったらすぐに別れたらいいんです。というより絶対無理だと思います。僕も五条先輩のこと好きではないので」
「お前結構ストレートに言うね」
「口で否定しても納得できないのなら行動で示しましょう。五条先輩が感じている違和感も、解消するかもしれませんよ」
「んー……」
僕が述べた提案に、五条先輩はしばらく悩むそぶりをする。
悪い提案ではないと僕自身は思う。僕と五条先輩が仮でもいいから付き合ってみてその後に別れたら、夏油先輩達が口出しすることはなくなるだろうと考えての案だった。
「……わかった、いいぜ。お前のことが好きじゃねぇって証明してやる」
「はい、よろしくお願いします。あ、ただしキスはなしですよ。あと、えっ……えっちなことも。理由は僕が嫌だから」
「お前、本当に俺のこと好きじゃねーのな?」
「先輩は大丈夫なんですか?」
「んー……ありよりのなし? いや、なしよりのありかも」
「どっちですかそれ」