さめししワンドロ第29回題「笑顔」より 村雨礼二が笑っている。本人としては鼻歌が出そうなほど上機嫌なので笑みが収まらないだけなのだが、同じ空間にいる者にとってはいささか気まずい。笑っている顔が怖いのだ。仕事場の人間であれば避けるし、道を歩いていても避けられる。だが真経津には逃げ場がなかった。ここが自分の家だからだ。飽きたもので溢れる家に友人一人残して少し外に出る事に抵抗はないが、出会ったばかりの頃とは事情が異なる。
仲が深まれば関係性も変わるというもの。それは真経津と担当行員の話でもあるし、友人たちとの話でもある。皆、真経津と会った時よりも数段面白い。それは喜ばしい。
集まると決めたのは真経津だった。いつもの面子に声をかけ、集まれる者のみ集まる。叶黎明と天道弓彦の二名は仕事の都合で来られず、獅子神敬一からは一回渋ったものの了承の返事が来た。村雨は医者であるからして都合をつけるのが最も難しいのであるが、夜勤明けなので可とのことだった。獅子神がいるからこそ来ることを決めたのであろう。誰かの家に集まる時に獅子神の出席が確定するというのは、満足に足りる味と量の食事が約束されたに等しいからだ。
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