2023年4月 二回目からは…「ねえ、本当にするの?」
「駄目なのか」
「いや、駄目じゃないけど」
「じゃあ、どうして」
「だって俺たちお互いの名前も知らないし…」
「じゃあ自己紹介でもするか」
「いや、いいよ。それは今やっちゃ駄目なやつ」
「じゃあいつならいいんだ」
「うーん、もっと後かな…今はまだ駄目」
「変な奴だな」
「変じゃないよ、ピュアなだけだよ」
「自分で言うかよ」
「だって本当だもん。こういうことは段階を踏んで、ね」
「段階も何も、ついさっき自称ピュアにキスされた身としては何とも言えねぇな」
「あれは…なんというか…勢いというか…」
「勢いでキスできるならまたすりゃいいだろうが」
「違うんだって。そうじゃなくて…」
「軽いのか重いのか分からん奴だな」
「うーん、どっちもあるんだよねぇ。勢いでなら全然いけるんだけどなぁ」
「顔が良くて勢いでキスできるとか、嫌な男だな」
「ええ、酷くない?」
「酷くもなるだろ。別に俺じゃなくても良かったようなこと言いやがって」
「違う違う。そういうことじゃなくて。俺だってアンタとキスしたかったから…」
「じゃあもう一回したらいいだろう。俺は許可してるんだ、何の問題があるんだ」
「俺の方に問題があるんだよ」
「なんだ、今さら男が相手でビビったのか」
「そんなわけないじゃん。俺だってちゃんとアンタのこと見てたよ」
「二股かよ」
「そんなわけないじゃん。俺そこまで酷くないよ」
「ある程度酷いことは自覚してるんだな」
「言葉尻を捕まえるの、やめてよ」
「お前がハッキリしないからだろうが。キス魔の童貞か」
「童貞じゃねえし」
「ハッ、どうだか」
「違うって言ってんだろ」
「違うと言うなら…」
「…」
「俺では駄目、ということか」
「泣くなよ」
「泣いてねぇ」
「あの…ごめんね」
「やっぱり」
「そうじゃなくて…あの…」
「…」
「本当にいいの?キスしても」
「俺は一度も断ってない」
「俺ね、一回目はいいんだよ。問題は二回目からなんだ…
二回目からは本気、だから。もう逃がしてやれないよ。それでもキス、できる?」
「ハッ。そんなことかよ」
「そんなことじゃないよ、大事じゃん?俺の本気は本当だよ。一生逃がさないよ?」
「そうだろうな、ここまで引っ張ったんだから」
「ええ、予想外に軽いリアクションなんだけど」
「二回目、二回目、ってギャーギャー言ってるからだろうが」
「え…」
「覚悟が軽いんだよお前は。
俺は一回目から本気、なんだが?」