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    ・中夜

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    ・中夜

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    ジュン茨ワンライ【盗み見る】

    巷で流行ってた歌のお兄さん×体操のお兄さんです。

    #ジュン茨
    junThorn

    お兄さんといっしょ♪ こんなに焦る必要がないのは、よく分かっていた。出番が終わったBスタジオを早歩きで飛び出して、すれ違うスタッフさんたちと会釈しながら自分の控室を通り過ぎる。ちょっと大回りしないと入れない隣のAスタジオの扉を静かにノックすれば、社員証を下げたアシスタントさんがシー…っと指で合図しながら招き入れてくれた。「この先お静かに」と書かれたもうひとつの扉を潜ると、聴き覚えのあるポップな曲が流れてくる。
    『さあ次は、腕を大きく振ってみましょう!』
     頭上のスピーカーからこれまた聴き馴染んだ男の声がして、舞台袖の隙間からそっとステージを覗き込んだ。キラキラと眩いスポットを浴びながら小さな共演者たちと共に、ワン・ツー、ワン・ツーと腕を回す一人の男、いや「お兄さん」と言ったほうがいいかもしれない。サラサラの赤い髪を靡かせ、細いフレームの眼鏡をきらりと光らせる「お兄さん」は大口開けて、あーはっはっ…と笑いながらカメラに向かってターンを決めた。
     ここからタン・タン・タンと足踏みをして飛んで跳ねて手拍子をしたら、あっという間にオレの出番が来てしまう。反対側の袖に控える「お姉さん」と一緒にぴょんぴょん躍り出て、ステージにいるたくさんの子供たちと並んで列車ごっこをするのだ。そうなってしまうと、もう彼のことを盗み見る暇なんてなくなる。画面の向こうのお友達に手を振り、足元でコケている女の子を抱き起こし、周りを押しのけるように走る男の子と手を繋がなければならないから。
    『みなさん、上手に出来ましたか?お次は恒例のウサギさんの体操です!お友だちとぶつからないように元気いっぱい飛び跳ねてみましょう!!……さん、はい!』
     だからオレは、たった数mの廊下を急ぎ足で駆けてくる。自分の出番まではいくらか余裕があるとしたって、オレが彼を眩しく見つめられるのは彼がオレたちの移動時間を繋いでいるこの数分しかないから。
    『いや〜、本日のお友達もたくさんピョンピョン出来ていますね!……おや? みんなの元気パワーに誘われて「お兄さん」と「お姉さん」もやって来たみたいですよ? 一緒に大きな声で呼んでみましょう!せーの、「ジュンお兄さ〜ん」!「── お姉さ〜ん」!』
     舞台で1番小さな子の肩を抱いて、大きく手招きする「茨お兄さん」と視線が合った。TV用のニコニコと細められた瞳がふわっと和らぐ。
     ああ。オレは、この瞬間が堪らなく── 。
    「『は〜い!!』」
     茨お兄さんに背中を押されて走り寄ってきた子を片腕に抱き締めて、くるくる回ってすとんと下ろした。自分も!自分も!と手を伸ばす子供達とハグをして1人2人と並べて歩き出せば、後を追うようにわらわらと列を成す。そのままステージにグルグルと渦を巻くように歩き続けて、はいポーズ。
    『『『今日も元気にいってらっしゃ~い!!』』』
     中腰のお姉さんの後ろでふたり、男の子と女の子を抱きかかえて手を振った。LIVEのランプがフッ…と消え、肩に感じていたぬくもりが遠ざかる。風に乗ったシトラスのノートに振り向いてみても、お母さんに子供を手渡す彼と目が合うことはなかった。
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    ・中夜

    DONEHAPPY JUNIBA DAY!

    茨さんほとんど出てこない同棲ジば。
    掃除洗濯をしたのは昨日なのにシーツを替えたのは今朝、が本作のポイントです。
    日々は続くから(やっぱり帰って来なかったな……)
     ヘッドボードの明かりを消した後も手放せないでいるスマホを開いて、閉じて、もう何十回も目にしたデジタル時計の時刻にため息をついた。うつ伏せに押し潰している枕へ顔を埋め、意味もなくウンヌン唸ってみる。けれど、どれだけ待ってみたってオレの右手が微かなバイブを告げることはないし、煌々と現れたロック画面の通知に眩しく目を眇めることもない。残り数分で日付を跨ごうかというこの時間に誰からも連絡が来ないなんて、当たり前の話ではあるんだろうけど。その一般的には非常識とも言える連絡を、オレはかれこれ2時間もソワソワと期待してしまっているのだった。
    「……茨」
     待ち侘びている方が馬鹿げてるのはわかっている。そもそも今日は帰れないって、だから昨日の内にお祝いしておきましょうって。端からそういう話だったのだ。帰れない今日の代わりに、茨はオレの好きなメニューを沢山夕飯に出してくれたし、オレだって茨が朝から料理に集中できるように洗濯から何からその他すべての雑事をせっせと片付けた。夕方普段より早めのご馳走に、2人で作った苺タルトも平らげて、余った料理も1粒も無くなったお皿も仲良く片付けた後ソファーに並んで触れ合って……昨日まで、ううん、ついさっき。風呂から上がってベッドに入るまで、本当になんの不満もなかったはずなのに。
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