「ホセ、ホセ!」
どたどたと盛大に足音を鳴らしながらノートンはホセの部屋のドアを開けた。
部屋の主であるホセは急に開いたドアと息をあげているノートンをおっかなびっくりに見つめている。酒を飲もうとしていたみたいだ、手には瓶とグラスを持っていて――ちょうどいい、そうノートンは思いながら勝手知ったる他人の部屋をモーセが如く歩いて行った。
「ちょっと、なに?勝手に入ってきて」
「これ、これ見て」
ぼふんとベッドに座ったノートンは手に持っていたアルバムをぺらりと捲る。横からノートンの手元を見たホセが「げっ!?」と声を上げた。なんでもない、ただそこにあった写真は今の自分でも思わず頭を掻きむしりドン引きするほど"イケイケ"だった自分。
黒歴史はこうして己に突き刺さってくるもんなのか、とは羞恥で死にそうなホセの心の声だ。心做しかその写真を見ているノートンは嬉しそうで、なにより楽しそうだ。それはそうだろう。恋人の知らぬ過去を見たのだから、楽しくないはずがない。ホセだって、もしノートンの子どもの頃の写真が手に入ったらいつまでも眺められる自信はある。
「まぁた、なんでこんな……良くもまぁ見つけたもんだね……」
思わず、と言ったふうにホセがもらした言葉はノートンの右耳を通り左耳へと流れ出た。
今の成熟し大人の色気が大爆発したホセも良いが、この若くて生意気そうなホセも捨て難い。そんな心の葛藤がホセに分かったのかどうか知らないが、心底残念そうな顔をしてノートンを見つめていたホセはため息をひとつ吐き出す。
「言っとくけど、どっちも私だよ?」
「知ってる。だから、どっちもイイ……」
「イイんだ?そうなんだ…」
「嫉妬した?」
「してないけど」
「してよ!」
黒歴史が発掘されて羞恥で死にそうだが、別に写真に収まるキザったらしい自分に嫉妬心はない。それよりも昔の自分がそんなにノートンのお眼鏡にかなった事の方がビックリだ。髭を剃るか?と思ったものの、童顔故になめられた過去を思い出してやめた。童顔はコンプレックスなのだ。他は完璧なのに。
「……まぁ良いじゃない。それより、写真と飲む?それとも今の私と飲む?ノートン的にはどっちが"イイ"?」
「えっ、その聞き方…すごい、えっち…」
「はいはいえっちえっち。ほらおいで、今日は良い酒が手に入ったんだ」
机の上を片付けながらおざなりな返事をするホセの後ろ姿を眺めながら、ノートンは写真の中に写る若きホセをチラと見下ろしアルバムを閉じた。確かに、若かりし頃のホセも魅力的だが、ノートンが好きになった今のホセがここにいる。それだけで十分な気がした。
「でも、それはそれとして昔の話は聞きたい」
「そういうキミのクソ生意気な態度に惚れたんだったかな。まぁいいか。何から話そうか?そうだな……むかしむかし、あるところに――」
たまには、こういう酒のツマミも悪くはないのかもしれない。