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    9293Kaku

    @9293Kaku

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    続き。この話、私にしては珍しく着地点が決まってなくて、自分でも先が判らず書き進めています。え?兄上、こんな奴だった??

    なけなしのwonder 2 魏無羨のスマホに連絡を入れ、事の次第を説明した後、近くのコンビニで一日分の下着と歯ブラシ、それと弁当を買った。
     あの様子では少なくとも丸一日は食事をしていまい。栄養のあるものをと、焼き肉弁当に伸びた手を、そういえばあの人は肉食をしなかったと、消化の良さそうな総菜や量を調節しやすいおにぎりなどへと滑らせる——もちろん前世での記憶で、今はどうかも判らないが。
     ——そういや、「あの時」もこんな風だったな。
     やはりこうなるのかと、江澄はお決まりのデジャヴに苦笑した。
     前世で藍曦臣が閉関した時。断食が長期にわたり、さすがに高為の仙師であっても命にかかわるのではという頃、自分は今みたいに魏無羨に呼び出され藍曦臣の様子を見に行かされたのだ。
     その際に何を話したのか記憶にないが、江澄の言葉になにがしか思うところがあったようで、藍曦臣はその後まもなく閉関を解いて俗世に戻って来た。そしてそのことが縁で、雲夢江氏宗主江晩吟と姑蘇藍氏宗主藍曦臣は友情を結んだのである。
    「おそらく、今度もそうなるんだろうな」
     藍曦臣と友達になる——ドラマのような自分の人生に、筋書き通りに加わった登場人物に江澄は思いを馳せる。
     ただ、今世は前と同じには行かないだろう——同時に、そんな予感もした。なにしろ、元凶だった金光瑶は生きている。
     もちろん、生きているに越したことはない。前世と違い、今の世の中で殺していたら、藍曦臣は閉関どころでは済まない。
    「あいつとも、いつか出会うんだろうか」
     かつての知り合いの顔を思い出そうと、江澄は記憶の底を探った。けれども、やはり思い出すことは出来なかった。
    「まあ、会えば判るか」
     決まっていることならば今考えても仕方がない。「その時」が来れば否が応でも判る。
     気持ちを切り替え、彼は再び藍家のドアに手を掛けた。

     玄関に入ると、先ほどとは違い温かな空気が流れてくる。微かに水音も聞こえていて、どうやら、藍曦臣は素直に江澄の言いつけを守ってシャワーを浴びているらしい。
     無人のリビングに戻り、買ってきた弁当をテーブルに並べていると、部屋着姿のこの家の主が濡れた髪を拭きながら入って来た。江澄の姿を認め、いまだ泣き腫らしたままの目を見開く。
    「……あ」
    「ああ、ただいま」
     口にしてから、自分の家でもないのに「ただいま」は変かと一人で顔を顰めたら、目の前の男がふわりと笑った。
    「……お帰りなさい」
     その言葉に、思いがけず江澄の胸は暖かくなる。
     今現在、彼はワンルームのアパートで独り暮らしだ。
     姉夫婦が事故に遭った時、友人の結婚式に出席するため、子供をシッターに預けての外出だったから、金凌が事故に巻き込まれることは無かった。けれど、親が二人とも入院してしまい世話をするものが居なくなり、それで江澄の両親はその機に家業の水運業をたたみ財産を処分して、姉夫婦の新居の近くに居を構えた。残った資産を、江澄と魏無羨に生前贈与として分けてくれたから、それで二人も家を出てそれぞれ一人暮らしを始めたのだ。
     しばらくは魏無羨が行き来出来る距離にいたが、藍忘機と付き合いだしてからは以前ほど頻繁に顔を合わせることも無くなった。しかも今後はこの土地を離れて物理的な距離も広がる。
     家族をすべて亡くした前世でも「江晩吟」は生涯の大半を孤独と共に過ごしていた。だから、いまさら寂しいとも思わない。それでも、こうして久しぶりにその言葉を聞くと、やはり込み上げてくるものがある。
    「……髪、まだ濡れてる」
     眼球の湿りを誤魔化すように、藍曦臣の傍へ行きその手からタオルを奪い取ると、自分よりも幾分高い位置にある頭をガシガシと拭いてやる。藍曦臣は立ったまま少し背を屈めて、犬のように大人しく、乱暴な手に身を任せていた。
     彼が目を閉じているのをいいことに、江澄は改めてその顔をじっくりと観察した。ひげを剃り、さっぱりとした頬は相変わらず毛穴など無いように滑らかで、すっきりと通った鼻筋も程よい厚みを持った唇も「あの頃」のまま——この唇は存外に柔らかいんだ——不意に、そんな記憶が蘇って、江澄はぎくりと手を止めた。
     ——なんだ、いまのは?
     改めて藍曦臣の顔を見やり、前世での彼との思い出を探る。
     魏無羨が藍忘機と出会った時は、前世での繋がりがはた目にも判るほどその反応は顕著だった。けれど、目の前の美しい顔をいくら見つめていても、江澄の中に湧き上がるのは尊敬と憧憬でしかない。この男との間に、あの恥知らずどものような何かがあったとは到底思えなかった。
     ——おそらく、事故かなんかだ。
     例えば、転んだ拍子に唇がぶつかったというような。
    「晩吟? 終わりました?」
     止まってしまった手に、藍曦臣が琥珀の瞳を開いた。
    「ああ! あらかた乾いた。さあ、メシにしよう。いい加減腹が減った」
     至近距離の視線にいたたまれず、江澄は逃げるようにタオルを押し付けると、テーブルへと戻った。
     考えても仕方のないことは考えない——いつものように、そう心に言い聞かせて。

     もりもりとはいかないまでも、藍曦臣は江澄の買って来たコンビニのおにぎりや総菜をあらかた平らげた。やはり肉は好まないようで、念のために買って来た唐揚げを他所に豆腐や卵焼きばかりに箸を伸ばすのを見て、「やっぱりな」と江澄は内心でほくそ笑んだ。
    「……不思議ですね」
     向かいの席で、がっつりと肉の乗った弁当を頬張る江澄を見ながら、彼がポツリと呟いた。
    「ん? 何がだ?」
    「キミは自分では肉を食べるのに、私には別のものを買って来た。普通なら同じものの方が手間が無いし、余計な詮索もされず楽なのに……まるで、私の好みを知っているみたいだ」
    「貴方がいつから食べていないのか知らないが、食欲が無いんなら軽いものの方がいいかと思っただけだ。反対に俺は腹が減っているし貴方に遠慮する義理も無いからな」
     ペットボトルのお茶を飲みながら言う彼に、江澄は咄嗟に返す。
     前世の記憶があるから、なんて言ったところで信じる奴はいない。だからこれまでも同様の疑問を抱かれた時には適当に誤魔化してきた。お陰で、今世での彼はよく気が付く、気配りが出来ると評判もいい。
    「さっきも……」
     言いかけて藍曦臣が口を噤む。江澄が視線を向けると、俯いて小さく首を振り、手元を見詰めながらぽつりと呟いた。
    「……何があったか話した方がいいですか」
    「別に。言いたいなら言えばいいし、話したくないなら話す必要はない。俺は魏無羨に頼まれたから来ただけで、貴方の事情に興味はないからな」
     言って、食べ終わった弁当の容器を手に立ち上がった。藍曦臣の分もと手を伸ばせば、彼はほっとしたようなそれでいて少し寂しげな顔で江澄を見上げている。その目にほんの少し罪悪感を刺激されたが、気づかぬ体で些かわざとらしく、大きく伸びをした。
    「ああ疲れた。悪いが俺はもう寝る。シャワーを借りるぞ。あと毛布も貸してもらえるとありがたい」
    「ここで寝るのですか」
    「魏無羨に報告はしたし、貴方が食べるのも見届けたから帰ってもいいんだけど。もう面倒くさい。迷惑じゃなかったら一晩泊めてくれ」
    「そんな……むしろ私の方がご迷惑を……ただ、ソファーでは窮屈じゃないですか」
    「ここのは上等で大きい。充分だ」
     どうせ一晩の事、と江澄はコンビニの袋から買って来た下着と歯ブラシを取り出す。
    「バスルームは?」
    「あっちです。ちょっと待って、今、寝巻を……私ので良かったらですが、その恰好では眠れないでしょう」
    「……ああ」
     そういえば、会社から直接来たのでスーツのままだった。ネクタイと上着は藍曦臣が出してくれたハンガーにかけてあるが、ワイシャツのまま寝たら確かに翌朝面倒なことになる。
    「じゃあ、お言葉に甘えて」
     渡された、水色の地に白い犬のイラストの入った、男性向けにしては可愛いパジャマからは微かに白檀の香りがする。なぜか懐かしい感じのするそれを手に、江澄はバスルームへと向かった。

     慣れない場所ではろくに眠れないだろうと思っていたのだが、自分は意外に図太いようだ。
     気持ちの落ち着く香りに包まれて、気が付けばぐっすりと眠っていた。そんな江澄の意識を、ためらいがちな声が揺り動かした。
    「晩吟……晩吟……」
    「……ん、なんだ」
     不機嫌もあらわに目を開けば、小さな灯りが点在するリビングに、白い影が立っている。
    「ひっ!」
     咄嗟に出かけた悲鳴を飲み込んで目を凝らせば、それは白いスエットの上下に身を包んだ藍曦臣だった。
    「晩吟……」
     水気の多い声で心細そうに名を呼ばれ、江澄はため息とともに身を起こした。
    「……また泣いているのか」
    「ごめんなさい。でも、独りでいるとどうしても彼を思い出して……」
    「なんなら、ここで寝るか? 毛布を持って来て——」
     言いかけた言葉を藍曦臣が遮った。
    「それよりも、キミが私の部屋へ来たらいい。客用の予備のマットレスがあるから、それを使えば」
    「いや、しかし……」
     この美しい男と同じ部屋で寝る——そのことに妙な後ろめたさを感じて、江澄は拒否しようとしたが、それより早く畳みかけるように藍曦臣が言い募る。
    「お願い、晩吟。助けると思って」
     ぱしぱしと上下する長い睫毛の間から、輝く涙が転がり落ちる。自分を上回る上背ながら、童話のプリンセスもかくやという可憐さに、江澄は言葉を失った。
    「……わかった」
     渋々頷いて、毛布を引き摺りながら、白い背中の後を追う。
     通された部屋には、既にベッドの隣に江澄の寝床が用意されていて、思わず心中で「確信犯かよ!」と突っ込んでしまった。
     ——こいつ、意外と押しが強いな……。
     前世の藍曦臣もこうだったろうか——思い出そうとして、そういえばと蘇る。
     以前、魏無羨、藍忘機と共に水辺の怪異を退治しに行ったことがあった。宿を取ることになって、その時藍曦臣が決めた部屋割りが、なぜか不自然な組み合わせだった。普通なら兄弟同士となるはずが、藍忘機と魏無羨、藍曦臣と自分だったのだ。その時は、年長者であり場の責任者でもある彼の決定に異を唱えることなど到底できなかったから、渋々同じ部屋で寝たのだが、その時の緊張感と微かな高揚が今再び蘇って、江澄は少し混乱した。
     ——緊張は判るが、高揚ってなんだ? 
     我知らず高鳴る胸の辺りに手を置いて、首を捻る。
     そんな彼にはお構いなしに、藍曦臣はいそいそとベッドにもぐりこむと、江澄にも横になるようにと促す。言われるままに分厚いマットレスに身を横たえ、江澄は思わずその心地良さに目を瞠った。
     居間のソファーも上質なもので寝心地は悪くなかったが、のびのびと足を伸ばせる解放感は段違いだ。
     ——もしかしたら、わざと心細いふりして俺を誘ってくれたのか。
     こちらに顔を向けて安心したように目を閉じる男の顔を見上げて、江澄も瞼を閉じた。当然ながら藍曦臣の部屋には彼の纏う白檀に似た香りが強く漂い、その中で江澄は自分でも不思議なくらい安らいで、今度こそ朝までぐっすりと眠ったのだった。

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    sgm

    DONE曦澄ワンドロお題「失敗」
    Twitterにあげていたものを微修正版。
    内容は変わりません。
    「なぁ江澄。お前たまに失敗してるよな」
     軽く塩を振って炒った豆を口に放り込みながら向かいに座る魏無羨の言葉に、江澄は片眉を小さく跳ね上げさせた。
    「なんの話だ」
     江澄は山のように積まれた枇杷に手を伸ばした。艶やかな枇杷の尻から皮をむいてかぶりつく。ジワリと口の中に甘味が広がる。
    「いや、澤蕪君の抹額結ぶの」
     話題にしていたからか、ちょうど窓から見える渡り廊下のその先に藍曦臣と藍忘機の姿が見えた。彼らが歩くたびに、長さのある抹額は風に揺れて、ふわりひらりと端を泳がせている。示し合わせたわけでは無いが、魏無羨は藍忘機を。そして江澄は藍曦臣の姿をぼんやりと見つめた。
     江澄が雲夢に帰るのは明日なのをいいことに、朝方まで人の身体を散々弄んでいた男は、背筋を伸ばし、前を向いて穏やかな笑みを湛えて颯爽と歩いている。情欲など知りません、と言ったような聖人面だった。まったくもって腹立たしい。口の中に含んだ枇杷の種をもごもごと存分に咀嚼した後、視線は窓の外に向けたまま懐紙に吐き出す。
     丸い窓枠から二人の姿が見えなくなるまで見送って、江澄は出そうになる欠伸をかみ殺した。ふと魏無羨を見ると、魏無羨も 2744