視えすぎるのは疲れるんだよ。
「見えざるもの」の周りには大抵そいつらの「念」が蠢いている。視界に映り込むそれは知らずしらずのうちにオレの精神をすり減らしていく。
ある夜、オレがソファに横たわりぐったりしてるとエドが何かの箱を手渡してきた。同時にボイスレコーダーが再生される。
[これを掛けてみてほしい。レンズにエーテルの透過率を下げるコーティングを施してある。全く視えなくなるわけではないがね。]
[たまには情報を遮断して休息することも必要だ。ちなみにデザインは凛子が選んでくれた。早速試してみてくれ。]
箱を開けると中に入っていたのはなんの変哲もない伊達眼鏡。エドに言われるままに眼鏡をかけ霊視をすると、先程からエドの後ろをふらついている霊の輪郭がぼんやりと霞んだ。
まぁ、効果はあるみたいだ。そう告げるとエドは満足そうに研究室へと戻っていった。霊と共に。あれは無害そうだ。放っておこう。
────
渋谷の怪異、般若の企みを阻止した後、暁人の協力もあり街に残るマレビトも大方殲滅することができた。
これでようやく一息つける。久方ぶりに眼鏡を掛ける。本棚から適当に一冊取りだして適当に読み進めていると玄関の鍵が開いた。暁人が帰ってきたようだ。
オレの顔を見るなり「あれっっ??KKってもしかして、老眼?」と茶化してきやがる。全く最近の若者ってやつは…。おう、こっちは正真正銘のおっさんなんだ、文句あるか。
「…別にないけど。」暁人は少しうつむきつつもこちらの様子を伺っている。
…ん?じゃあ、惚れ直したのか?しょうがないなぁ、暁人くんは。
耳まで真っ赤に染めてテーブルに伏せる暁人を眺めつつ、この生活がいつまでも続くことをオレは柄にもなく願っていた。