rainy mornig 雨の匂いがする。
しとしとと静かな音が穏やかな調べのように響く夜を超えて、朝露に草木が濡れる早朝。
浮上したおぼろげな意識を委ねるように耳を澄ませていれば、うぅん、と物憂げな声と供に、腕に絡みつく体温がもぞもぞと身じろぎした。
安心しきった顔で穏やかな眠りに落ちている彼女にふと頬を緩ませながら、サイドテーブルの腕時計に手を伸ばす。針が指し示す時間は五時半。
今日の予定は午後からのポアロのみで、起きるには早い。
昨夜の帰宅は午前一時を過ぎていた。
志保は既に彼女の部屋で休んでいたため降谷も大人しく自室で眠ったのだが、彼の帰宅に気が付いたのか、一時間ほども経った頃に音も無くベッドに潜り込んできたのは志保の方だ。
降谷自身もすでに睡魔にまどろんではいたものの、その気配には気付かないはずもない。
無意識に腕を伸ばせば、嬉しそうに彼女は身をすり寄せてきた。
柔らかな身体を抱き込んで眠ることは、何にも代えがたい至福で。普段眠りの浅い降谷も、久方ぶりの深い眠りを享受するに至った。
とはいえ逆算しても睡眠時間は四時間半。ショートスリープには違いなく、三大欲求に従って二度目の睡眠を貪ったところで、バチは当たるまい。
組織の影から身を隠す彼女が、幾度の怯える夜を乗り越えて今、安らかな安寧の時を手に入れたのか。
その心の拠り所に選ばれたことはきっと奇跡だと、降谷は思っている。
彼女の身を案じる騎士とやらは腹立たしいことに他にもいて、むしろ自分は彼女にとってみれば、何の関わりもない部外者だったはずなのだ。
それが何の運命の悪戯か、生活を供にするようになり、想いを通じ合わせるに至ったのだから、奇跡としか言いようがないだろう。
世の中の恋人たちとやらも皆、そんな奇跡の掛け合わせで繋がるものなのかもしれないけれど。
彼女の穏やかな時間がいつまでも続くように――祈りのような想いと、続けさせてみせるさという自負を込めて、その身を更に抱き寄せれば、んん、と耳を打つ音色と供に、寝ぼけ眼が開かれる。
「……ん?」
「ごめん、起こした?」
「……ん…」
ほとんど吐息のような声を零して、志保はぎゅうっと降谷の胸に身を寄せる。
その仕草が可愛らしくて髪を撫でていると、少しばかり目が覚めてきたらしい志保がぼんやりとその瞳に降谷を映した。
「……何時まで…いられるの?」
「今日は午後から」
「なら、あなたももう少し、寝る……?」
ふにゃりと幸せそうな夢見心地のただ中にいる志保は普段より蕩けた目をしていて。
無自覚ゆえの、咲き香る花のような色香に充てられてしまう。
寝かせてあげたいとも思うけど、好きな女が甘えて身を寄せてくれているというシチュエーションは、どう取り繕おうとごまかしようのない熱も生んでしまうのだった。
数刻前まで彼女の安寧を願っていた心はどこへやら。自分自身に呆れてしまうけれど、愛おしさと供に渇望も加速していくのは、健康な男として至極当然のことだろう。
朝だからというのもあるし、昨日が健全な夜だったこともまた、加速する欲に拍車をかけていた。
「君が寝ないなら、付き合ってくれると嬉しいけど」
「なに…?」
「気持ちいいこと、かな」
指を頬に滑らせて熱っぽく見つめてみせれば、最初は言葉の意味を呑み込んでいなかったらしい志保の瞳も、徐々に熱を帯びてきた。
照れくさそうに頬を染めて、それでも視線が逸らされることはない。
頬にくちびるを寄せてリップ音を奏でれば、くすぐったそうに志保の身がふるりと震える。
「……えっち」
「お褒めいただき、どうも」
照れ隠しゆえの罵倒を受け流し、体勢を入れ替えて組み伏せ口付ければ、志保も徐々に、応えてくれた。
所在なく持ち上がる腕を自らの背中に誘導すると、ぎゅうと抱きしめられて、尚更愛おしさが込み上げていく。
受け入れられているという安堵感と、求められてもいるという充足感。
降谷は満足げに唇に弧を描き、その身体を暴こうとパジャマのボタンに手をかけた。