海「お前ってホント学習能力ないのな」
「…うるさい。頭がガンガンするから説教はまた今度ね」
背を向ける彼女に工藤はもう一声かけようと思ったが、あの時のような頑な態度にドアを閉めた。
彼女が自分の忠告通りに大人しく寝ているかは彼女の良心に従おうと蘭や少年探偵団の待つ浜辺へ向かった。
工藤が退室したホテルの一室でベットにダイブしたのは…
太陽の熱にやられた彼女 -宮野志保- は天井を見上げ先ほどの出来事を回想していた。
工藤と蘭、そして少年探偵団たちと海へ遊びに来ていた志保は、元々参加予定だった阿笠博士が急に用事が出来てためのピンチヒッターとして参加していた。
1ヶ月前にガラクタばかりの発明が漸く日の目をみることが出来、発表パーティーへの通知が来たのだ。子ども達との先約を果たそうとする博士を無理やり志保がパーティーへの参加を薦めた。自分がしっかりと子ども達の面倒をみるからと…
そう博士と約束した矢先に、日頃の運動不足、寝不足に体力のなさが影響し水着に着替えて外に出た途端にホテルへと出戻った訳である。
自分の不甲斐なさと体が縮んだ時に遊びに行った海での出来事を思い返し、一人反省会中なのだ。
別に夏の暑さを侮っていた訳ではない。しっかりと対策にスポーツドリンクや保冷剤、冷感タオルなどの準備をしていたのにもかかわらず…貧弱な体にがっかりした。
1ヶ月前に同居する彼の小言というアドバイスを聴いておけば良かったと後悔する。
同棲する彼氏と言ってもいい存在なのだが、二人の関係の始まり方が複雑過ぎて説明し辛いが、降谷零の熱心なアドバイスは間違っていなかった。
「まず体力作りから始めないと!」
「どうせ、海に行って少し泳ぐくらいなんだから運動はいいでしょ。時間の無駄」
「いいや。志保さんは自分の体力を過信し過ぎてる。毎日仕事場と家の往復に食事は二回になることがしばしば…そんな状態で海になんか行ったら熱中症で倒れて皆の迷惑になるよ!」
「ならない!ちゃんと子ども達の面倒をみるって約束したもの」
「はぁ…頑固だなー。じゃあ、もし一日中元気に子ども達と遊べたらフサエの新作をプレゼントするよ」
「…何よ物で釣ったりして…別に新作なんか欲しくないけど、私絶対大丈夫だからいただくわね」
勝ち誇ったような顔をする志保に対して降谷は耳に近付いてこう付け加えた。
「もし熱中症で倒れたら僕に連絡して。仕事で遅くなるかもしれないけれど必ずホテルまで迎えに行くよ…愛しのじゃじゃ馬さん」
「ばっ…かじゃないの!誰が連絡するもんですか!」
真っ赤にした志保は、降谷に囁かれた耳を触る。小さな吐息に胸がざわざわした。
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熱のせいで顔が熱いのか、あの出来事を思い出して熱いのかよく分からなくて枕に顔を沈めた。
冷房を効かせた室内でゴロゴロとしていると扉をトントンと鳴らす音が聞こえる。
寝癖を少し直してドアを開けると金糸がキラリと光る色黒の男が立っていた。
「…なんで…」
「僕の勝ちだな。言った通りだろ。工藤くんから連絡を貰ったよ。さあ、家に帰ろう」
「…」
俯く志保に降谷は声をさらにかける。
「…ごめん。勝ち負けとかの問題じゃないな。君のことが心配だから余計なことを言ったと自覚しているよ。ごめんな…」
首を振る志保の肩に降谷の手が置かれる。
素直に話を聞いておけば良かった。一緒に遊びに来た彼等にも心配や迷惑をかけてしまった。好きな人に…忙しい人に心配をかけてしまった。
後悔の波が志保の心臓を抉る。
ふと、唇に何かが触れた。パッと顔を上げると降谷の蒼い瞳に志保の顔が映る。そこには驚きと真っ赤になった志保の顔が見える。
そして、降谷の心配そうで愛おしそうな表情に志保はまたくらりと目眩がした。