蒼に囚われる ふと、先生のいつもかけてるそれが気になった。
「見えすぎないようにかけてるんですよね」
「これ?まあ僕の場合は、特殊だけどね」
「特殊?」
「かけてみなよ」
手渡されたサングラス。お洒落には疎いのでどういう型なのかは知らない。横に少し長く、四角い形をしている。きっと高級なんだろう。少しドキドキしながらかけてみる。驚いた、ほとんど何も見えない。それはほぼ漆黒で、光さえも通さなかった。
「いつも、こんな視界なんですか?」
「いや、僕の目はそれでも見えすぎるぐらいなんだよね」
サングラスを下にずらすと、目の横をとんとんと指で叩いてる姿と、キラキラと煌めく先生の蒼い目が見えた。
「不思議だなあ」
かけ直してみたけど、やはり何も見えない。呪力で感知してるわけでもなく、本当に何でも見えているんだ。
「ねえ、憂太僕を見て」
突然の先生の言葉に困惑した。
「えっ見えないですよ」
「見て」
どうすればいいのか分からない僕は、先生の言葉だけがクリアに聞こえる。
「僕の呪力を感じて」
その言葉に誘われるように、僕は呪力に気をめぐらせた。ぐるぐると呪力が目に行くように意識をしてみる。初めての行為で何が正解かわからなかったが、ようやくそれが見えた。先生の呪力がゆらゆらと揺らめいている。なんとなく呪力の色も先生の目の色をしているような気がした。
「見えました!」
成功した嬉しさのまま、サングラスを外すと目の前に蒼が広がった。キラキラとその蒼色が僕の中に入ってくるようで、その美しさに目が逸らせない。
いつの間に近づいていたんだろう。先生の顔は、まつ毛の輪郭がはっきりと分かる程の距離で僕を見ていた。
「さすが。初めてなのによく出来たね」
そう言って、僕の外したサングラスを受け取ると、先生は自分の顔にかけ直した。
「憂太は僕みたいには見えないけれど、そういうやり方もできるから覚えとくんだよ」
先生の言葉に、はいと答える。サングラスの向こう側は、もう黒に隠されて見えなかった。また見たいなと思うと同時に、心臓がもたないからずっとそうしていて欲しいと気持ちが相反する。
それほどまでに僕は、煌めく蒼にとらわれてしまった。