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    last_of_QED

    @last_of_QED

    ディスガイアを好むしがない愛マニア。執事閣下、閣下執事、ヴァルアルやCP無しの地獄話まで節操なく執筆します。デ初代〜7までプレイ済。
    最近ハマったコーヒートーク(ガラハイ)のお話しもちょびっと載せてます。

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    last_of_QED

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    十字架、聖水、日の光……挙げればきりのない吸血鬼の弱点の話。おまけ程度のヴァルアル要素があります。

    #ディスガイア4
    disgaea4
    #ヴァルアル
    varial

    【吸血鬼様の弱点】



    「吸血鬼って弱点多過ぎない?」
    「ぶち殺すぞ小娘」

    爽やかな朝。こともなげに物騒な会話が繰り広げられる、此処は地獄。魔界の地の底、一画だ。灼熱の溶岩に埋めつくされたこの場所にも朝は降るもので、時空ゲートからはささやかに朝の日が射し込んでいる。

    「十字架、聖水、日の光辺りは定番よね。っていうか聖水って何なのかしら」
    「デスコも、ラスボスとして弱点対策は怠れないのデス!」
    「聞こえなかったか。もう一度言う、ぶち殺すぞアホ共」

    吸血鬼の主人を敬愛する狼男、フェンリッヒがすごみ、指の関節を鳴らしてようやくフーカ、デスコの両名は静かになった。デスコは怯え、涙目で姉の後ろに隠れている。あやしい触手はしなしなと元気がない。ラスボスを名乗るにはまだ修行が足りていないようだ。

    「プリニーもどきの分際で何様だお前は。ヴァル様への不敬罪で追放するぞ」

    地獄にすら居られないとなると、一体何処を彷徨うことになるんだろうなあ?ニタリ笑う狼男の顔には苛立ちの色が滲んでいる。しかし最早馴れたものと、少女は臆せず言い返した。

    「違うってば!むしろ逆よ、逆!私ですら知ってる吸血鬼の弱点がこれだけあるのにヴァルっちはなんで強いんだろうって思ったわけ。デスコ、あんたもラスボスなら隠れてないでシャキッとしなさい!」
    「頭に響く……お前らどうして朝からそんなに元気なんだよ……」

    騒々しく言い合う三人の前に地獄最後の良識、死神エミーゼルが耳を塞ぎながら現れ、次々と悪魔たちが集合していく。
    基本的に悪魔という生き物は奔放で気難しく、馴れ合うことは多くないとされている。ところが、地獄の悪魔たち一同においては毎朝一度はこの執務室に集まるのがルーチンとなっていた。この悪魔らしからぬ習慣は部屋の主が大切にしている「絆」を理由としているのか否かは定かではない。
    その、「絆」を好む様変わりな吸血鬼がマントを靡かせようやくやってきて、高らかに宣言する。発せられるのは勿論、お決まりの文句だ。

    「俺の強さの秘訣、それは……イワシのお陰だ! 小娘、お前もイワシを食え!」
    「ヴァル様。おはようございます。私はこのプリニーなりそこないをゲートへ連れて行き適当な時空へ放ちますが……閣下もご覧になりますか?」
    「ほう。帰る場所でも見つかったのか? では見送りに行くか」
    「ヴァルっちのこと褒めただけだから! 誤解よ!?」

    必死に地獄に居座ろうとする人間というのも極めて奇妙な図である。罪を償うプリニーの他、魔界の何処へも行く先のなくなった者が最後に辿り着く場所が此処、地獄だというのが魔界での通説となっている。好んでこの場所を拠点地とする者はほとんどおらず、いてもそれはよっぽどの変わり者だけだ。
    とはいえ、そんな環境下に置かれた地獄の面々が絶望に塗れているかというと決してそんなことはない。フェンリッヒに小脇に抱えられ、まさに追放されかけのフーカはむしろ活き活きとしているほどだった。

    「不思議じゃない? 人間が怖がるお化けとか、ゾンビとか、ミイラ男とか……色々いるけど吸血鬼だけ語られる弱点が多すぎる気がするのよねー。例えばフェンリっちみたいな狼男の弱点って私は知らないわ」

    月が大事っていうのは知ってるけど、断罪者ネモみたいな奴がまた現れない限り月をどうこうするなんてことはできないもんね、と付け足す。名指しされた狼男が小脇に向けてギロリと睨みをきかせた後、腕を緩め少女を容赦なく落下させた。フーカの潰れたような声を無視して諦めたように嫌味を吐く。

    「これだから人間は。無自覚に無遠慮で、図々しいこと極まりない。自分のことを棚に上げているようだが、人間など弱点だらけではないか。思い上がりも大概にしろよ」
    「悪魔の弱点を暴こうと言うのか。随分と怖いもの知らずだな、小娘」

    んえ? と動揺するフーカの視線の先で無数のコウモリを纏わせたヴァルバトーゼは、次の瞬間その姿を忽然と消した。光が仄かに差し込み穏やかだったはずの空間は突如翳り、不穏な空気が立ち込める。一種のマジックショーのごとく見惚れていたフーカは自分の背後に吸血鬼が忍び寄っていることに気付かない。
    ヴァルバトーゼはそのまま、フーカの首筋を掴み、爪を立てた。少女は混乱の中、反射的に悲鳴を上げ、同時に腰を抜かす。

    「いやぁぁあ! 噛まれた!」
    「おねえさま! 死んじゃ嫌デス!」
    「馬鹿を言え、俺はもう血は吸わん」

    俺は吸わんが、別の吸血鬼ならお前の血を吸い尽くすことぐらい造作もない。言葉にはくれぐれも気を付けるんだな、そう言って少女の首元からパッと手を離す。今度は怯まなかったデスコがフーカとの間に立ちはだかり、姉を護ろうと精一杯に威嚇している。その一方で心なしかキラキラとした視線をヴァルバトーゼに送る執事と、それを横目に呆れ顔で肩をすくめる死神も、吸血鬼が次に発する言葉を待っている。

    「さて、深淵を覗かんとするその度胸に免じてひとつ教えてやろう」

    くるりとマントを翻し再び椅子に腰掛けると所属長による朝礼の小話を彷彿とさせる、そんな口ぶりで彼は話し始めた。気付けば明るさの戻った部屋でやや上がった口角からのぞく牙にフーカは身構えているようだ。

    「先ほどの話だが。吸血鬼の苦手とされるものには聖なるものがあまりに多い。単純な話だ、かつて教会がその権威を高めたかったのだろう」

    自身の胸で十字を切って見せ、笑う。フェンリッヒが閣下、と険しい表情でたしなめるが本人は御構い無しで話を続けてゆく。

    「神に祈り十字架を握れば凶悪な吸血鬼から身を守れます、とでも触れ回って信仰を集めたんじゃないのか。吸血鬼はそうやって教会にダシにされた故、弱点もまた多く語られるようになった……というところだろう。人間の何でも利用してやろうという気概には、畏れ入る」

    本当に大したものだと低く呟くヴァルバトーゼの顔色をフェンリッヒが静かにうかがっている。何もかもを受け入れてしまったような、悪魔に似つかわしくない穏やかなそれが、従者の心を人知れずかき乱したがそのことに気付く者はいない。

    「じゃあ吸血鬼の弱点は全部人間に作られたもの……嘘っぱちなのか? この朝の日差しもお前には効いてるように見えないけど……」

    恐る恐る聞くエミーゼルに律儀に答えるヴァルバトーゼは悪魔とはいえやはり教育者であることを思わせる。

    「俺にはよく分からんが特に後世の吸血鬼だと十字架も日光も効く者には効くそうだ。理屈は知らん」
    「急に投げやりだな……」
    「人間で言う、アレルギーみたいなものなのかしら」
    「しかしだ。弱点があってもなお人間は吸血鬼を畏れている……理由がわかるか? その数多の弱点を補うだけの暴を、吸血鬼はいたって理性的に、知性を以って人間に振るうからだ」

    誰彼構わず襲いかかる腐ったゾンビとは品格が違うのだ、と彼は語る。外で生きる屍の吼える声が地鳴りのように響く。

    「俺は誇り高き悪魔として、人間を恐怖で戒める。それだけだ。お前たちも悪魔の誇りを忘れず日々勤しむように」

    手元の資料をトン、と整え椅子から立ち上がって一同へ告げる。気が付けば時計の針が大きく進んでいた。

    「さて、お前たち。いつまで此処でお喋りを続けるつもりだ? 働かざる者食うべからず、怠ける者にやるイワシは一尾たりともない。フェンリッヒ、教育の時間だ。プリニー共を集合させろ」
    「全ては我が主人のために。お前たちも閣下のために汗水流して働け、さあ散った散った!」

    執務室の扉が開け放たれ、面々が蜘蛛の子を散らしていく。空っぽになった部屋の隅へと視線をやり、十分な間を置いて、ヴァルバトーゼが呟いた。

    「お前はいつまでそこで隠れているつもりだ、アルティナ」
    「……吸血鬼さん。バレていましたか」
    「当然だ。吸血鬼にとって聖なるものは大敵らしいからな。天使であるお前の気配に気付かぬはずもない」

    重厚な本棚の陰から白い羽がのぞき、気まずそうに一人の天使が姿を現す。ヴァルバトーゼは部屋の内側から扉を閉じると後ろ手に鍵を掛けた。2人きりの部屋はしんと静まり返り、先程までの賑やかさが一転、嘘のようだ。
    アルティナの瞳が目の前の吸血鬼をありのままに映している。

    「先程の話、確かに弱点が目立つのは事実かもしれませんが」

    一呼吸置いて、恥ずかしそうにはにかむ彼女は、それでも吸血鬼から目を逸らさない。

    「魅力的に描かれるのもまた吸血鬼、なんですよね」

    青の瞳の奥に懐かしいものを見据えたヴァルバトーゼはゆっくりと瞬きすると、アルティナの手を引き寄せた。割れ物でも扱うかのよう、そっと。

    「いつの時代も、吸血鬼は人間に振り回されてばかりだな」

    天使の首元、銀の十字架へとキスを落として吸血鬼は400年を、ただ静かに想う。


    fin.


    ++++++++++++++++++++


    吸血鬼は驚くほど弱点が多いですよね。でも、身のこなし軽く、人間の女性と関係をもったり、何かと格好良く魅力的なキャラクターとして描かれるのもまた吸血鬼だなと思い書いてみました。

    悪魔(吸血鬼)と天使(シスター)という禁断の巡り合わせ。互いにあまりに多くを失ったことで、それは激情的なものではなく、穏やかなものへ否応無しに昇華させられたように思います。
    朝の光に溶けゆくような淡さでお互いの中にお互い自身の400年前の姿を見ながら、今再び巡り会ったということを、静かに、でも確かに感じてほしい、そう思います。
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    DOODLEディスガイア4に今更ハマりました。フェンリッヒとヴァルバトーゼ閣下(フェンヴァル?執事閣下?界隈ではどう呼称しているのでしょうか)に気持ちが爆発したため、書き散らしました。【悪魔に愛はあるのか】


    口の中、歯の一本一本を舌でなぞる。舌と舌とを絡ませ、音を立てて吸ってやる。主人を、犯している?まさか。丁寧に、陶器に触れるようぬるり舌を這わせてゆく。舌先が鋭い犬歯にあたり、吸血鬼たる証に触れたようにも思えたが、この牙が人間の血を吸うことはもうないのだろう。その悲しいまでに頑なな意思が自分には変えようのないものだと思うと、歯痒く、虚しかった。

    律儀に瞼を閉じ口付けを受け入れているのは、我が主人、ヴァルバトーゼ様。暴君の名を魔界中に轟かせたそのお方だ。400年前の出来事をきっかけに魔力を失い姿形は少々退行してしまわれたが、誇り高い魂はあの頃のまま、その胸の杭のうちに秘められている。
    そんな主人と、執事として忠誠を誓った俺はいつからか、就寝前に「戯れ」るようになっていた。
    最初は眠る前の挨拶と称して手の甲に口付けを落とす程度のものであったはずだが、なし崩し的に唇と唇が触れ合うところまで漕ぎ着けた。そこまでは、我ながら惚れ惚れするほどのスピード感だったのだが。
    ……その「戯れ」がかれこれ幾月進展しないことには苦笑する他ない。月光の牙とまで呼ばれたこの俺が一体何を 3613

    last_of_QED

    DONEディスガイア4で悪魔一行が祈りに対して抵抗感を露わにしたのが好きでした。そんな彼らがもし次に祈るとしたら?を煮詰めた書き散らしです。【地獄の祈り子たち】



    人間界には祈る習慣があるという。どうしようもない時、どうすれば良いか分からぬ時。人は祈り、神に助けを乞うそうだ。実に愚かしいことだと思う。頭を垂れれば、手を伸ばせば、きっと苦しみから助け出してくれる、そんな甘い考えが人間共にはお似合いだ。
    此処は、魔界。魔神や邪神はいても救いの手を差し伸べる神はいない。そもそも祈る等という行為が悪魔には馴染まない。この暗く澱んだ場所で信じられるのは自分自身だけだと、長らくそう思ってきた。

    「お前には祈りと願いの違いが分かるか?」

    魔界全土でも最も過酷な環境を指す場所、地獄──罪を犯した人間たちがプリニーとして生まれ変わり、その罪を濯ぐために堕とされる地の底。魔の者すら好んで近付くことはないこのどん底で、吸血鬼は気まぐれに問うた。

    「お言葉ですが、閣下、突然いかがされましたか」

    また始まってしまった。そう思った。かすかに胃痛の予感がし、憂う。
    我が主人、ヴァルバトーゼ閣下は悪魔らしからぬ発言で事あるごとに俺を驚かせてきた。思えば、信頼、絆、仲間……悪魔の常識を逸した言葉の数々をこの人は進んで発してきたものだ。 5897

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    「違うってば!むしろ逆よ、逆!私ですら知ってる吸血鬼の弱 3923

    last_of_QED

    MOURNING世の中に執事閣下 フェンヴァル ディスガイアの二次創作が増えて欲しい。できればえっちなやつが増えて欲しい。よろしくお願いします。【それは躾か嗜みか】



    この飢えはなんだ、渇きはなんだ。
    どんな魔神を倒しても、どんな報酬を手にしても、何かが足りない。長らくそんな風に感じてきた。
    傭兵として魔界全土を彷徨ったのは、この途方も無い飢餓感を埋めてくれる何かを無意識に捜し求めていたためかもしれないと、今となっては思う。

    そんな記憶の残滓を振り払って、柔い肉に歯を立てる。食い千切って胃に収めることはなくとも、不思議と腹が膨れて行く。飲み込んだ訳でもないのに、聞こえる水音がこの喉を潤して行く。

    あの頃とは違う、確かに満たされて行く感覚にこれは現実だろうかと重い瞼を上げる。そこには俺に組み敷かれるあられもない姿の主人がいて、何処か安堵する。ああ、これは夢泡沫ではなかったと、その存在を確かめるように重ねた手を強く結んだ。

    「も……駄目だフェンリッヒ、おかしく、なる……」
    「ええ、おかしくなってください、閣下」

    甘く囁く低音に、ビクンと跳ねて主人は精を吐き出した。肩で息をするその人の唇は乾いている。乾きを舌で舐めてやり、そのまま噛み付くように唇を重ねた。
    吐精したばかりの下半身に再び指を這わせると、ただそれだけで熱っぽ 4007