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    sayutaba18

    @sayutaba18
    ライハを愛してる女。

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    sayutaba18

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    いずレオ短文。夏の花火。

    #いずレオ
    izuLeo

    夏の花火 フィレンツェにいても日本にいてもあいつが唐突に来るのは何も珍しいことじゃない。始めのほうこそ驚いていたけれど、今では、あぁまた居るのね。程度には見慣れた光景である。
    「セナ! 花火しよ!」
     例えばそれが、部屋のドアを開けた瞬間に眼前に突き出された花火セットだとしても。
    「……ここ、俺の部屋だよね?」
    「あってると……思います」
     奥から衣更の声がした。どうやら、俺の部屋であっているらしい。
    「花火……? なんで?」
    「やりたいからに決まってるだろ~!?」
     先日れおくんは天祥院達とプールに行ってきたらしい。Knightsのみんなとバカンスもしたし、夏にやりたいことは残るところ花火ということらしかった。
    「れおくん、俺以外にも友達いるでしょ? なんで俺?」
    「別に花火は誰とでもできる。でもおれはセナと花火はやったことがない。セナと花火をしたら新しい霊感が湧きそうなんだ~!」
    「あ、そう」
    「セナ、花火嫌い?」
    「匂いが服につくからあんまり好きじゃない」
    「あ~どうしよう……最近おれスランプなんだ……このままじゃ一生一曲も書けなくなっちゃうかもしれない……セナが花火をしてくれたら……もしかしたら新曲を書き下ろせるかもしれない」
     好きじゃないと言った俺の声を無視して、れおくんは大袈裟に嘆きながらちらっと俺の方を見た。絶対嘘だ。バレバレにも程がある。あんた、作曲を盾にすれば俺が言うことを聞いてくれると思ってるでしょ。残念ながら、その通りではあるけど。
    「はぁ、わかったよ……」
    「やったー! セナ大好き!」
     ぴょん、と軽く飛んだれおくんが勢い良く俺に抱きついてきた。奥で衣更が見てるでしょ。目のやり場に困って、視線を泳がせている彼は、人差し指で頬をかいていた。場所考えなっての。いや、多分こいつにとって抱きつくのは日常茶飯事で、俺だけに抱きついているわけでもないんだった。
    「……衣更も来る? 花火」
    「いえ、遠慮します……」
    「セナと花火! 湧いてきた湧いてきた! 紙とペン貸して!」
    「あんた、スランプじゃなかったのぉ?」
     無言の返事の代わりに踊る音符たち。まぁいいか。気軽にスランプになって、気軽に立ち直ってくれるんだったら。あの頃に比べたら、れおくんがそこに居てくれるんだったら、なんでもいい。


     バケツ、チャッカマン、水、ろうそく……手持ち花火以外の必要なものは何一つれおくんは持っていなかったので、それらを調達してから空中庭園へとやってきた。この歳になって、花火をすることになるなんてねぇ。小さい時にパパとママと花火をしたこともあるけれど、それはもう遠い記憶の中だ。
    「どれからやろう~!? わくわくするな! まずは蝋燭を立てて……と」
    「れおくん、花火やったことあるの?」
    「うんうん。昔、ルカたんと一緒にやったんだ~。セナは?」
    「俺だって花火くらいしたことあるに決まってるでしょ~?」
     男二人、年甲斐もなく手持ち花火を持って、揺らめく炎をかざし順番に火をつけていく。俺は手に持ったものをじーっと眺めて、じわじわと赤く燃えて黒く炭になって尽きていく様を見ていた。対するれおくんは、ぐるぐる円を描くように動かしたりウロウロしたりして、てんで忙しない。
    「意外とあっという間に燃え尽きちゃうな」
    「そうだねぇ」
    「色んな色があって綺麗! 赤から青に色が変わったぞ!? あ~霊感が湧いてくる~!」
    「それはなにより」
     何を話すでもなく、黙々と花火を消化していく。バケツに入れる時にジュワ。と音がするのにまた霊感が湧いてくると言って、花火を指揮棒に見立ててふんふんと鼻歌を奏でている。
    「危ないからあんまり振り回さないでよねぇ」
    「わかってるって~!」
     そんなにたくさん入っているわけではなかったので、すぐに線香花火だけになってしまった。一つずつ手に取り、身を寄せあって火を灯す。パチパチと静かな音がする。火球を落とさないように、俺たちは息を飲んで、呼吸をすることすら慎重になる。
    「っあ~! 落ちちゃった。中々最後まで残ったことがないんだよな~」
    「俺もあんまりないかも」
    「よし次!」
     再び火をつける。ちらっとれおくんを盗み見ると、柔和な表情を潜め、真剣な瞳で赤い球体をを見つめていた。
     ふと思う。俺は楽しくないわけではないけれど、れおくんは俺と二人きりで花火をして楽しめているのだろうか。
    「どうしたセナ? やっぱつまんなかった?」
    「え? ううん。そんなことないよ。れおくんは?」
    「おれ? 楽しいに決まってるだろ!」
     いつもの朗らかな顔でれおくんが笑った。ぽとり。黒い球体が地面へと落ちて、また一つと線香花火を手に取る。
    「おれ、こうやって友達とプール行ったり花火するの、ずっと憧れてたんだ」
    「……そう」
     れおくんは取り戻しているのだ。青春を。あの時やりたかったことを。遠回しに言われた友達という言葉が胸をくすぐっていく。俺が友達とやりたかった青春とは、思い描いていたこととは、いったい何だったのだろうか。
    「今度はKnightsのみんなで花火しようか。かさくんとか喜ぶんじゃない?」
     れおくんのことは大事だけど、大事なものはこの数ヶ月でたくさん増えた。叶えたかったこともやりたかったことも、今からでもできることは多いし遅くはない。
    「あはは☆ 言えてる!」
    「……なぁ、セナ。おれの方が長く燃えてたらさ」
    「なぁに?」
    「ん~。やっぱやめる! セナの言葉を借りるなら、実力で勝負する!」
    「俺と勝負するつもりだったの? 何の勝負?」
    「今は教えない!」
    「なんなのそれ。気になるじゃん」
     ぽと。ぽと。願いを掛けることなく落ちていく黒い塊が話の終わりを告げる。れおくんはそれ以上何も言わなかったし、俺もそれ以上は追求しなかった。
     しばらく沈黙が続いて、あ~楽しかった! と呟いたあいつが立ち上がって、燃えカスだらけのバケツを手に取って歩き出した。
    「これでいっぱい作曲できそう! ありがとな、セナ!」
    「どういたしまして」
     上機嫌で空中庭園を出ていくれおくんの後ろをついて行く。バカだよねぇ。そんな理由でもつけないと、俺を誘うことすらできないんだ、彼は。でも、俺も素直じゃないから、きっと理由もなく誘われたとしても二つ返事で行くとは言わなかっただろう。
    「次は理由をつけなくてもあんたのやりたいこと、やってあげるから」
    「……なんのことだ?」
     夜闇に溶けて、振り返ったその表情を窺い知るは出来なかった。次は水族館もいいな。セナと一緒にゲームセンターも行ってみたい! と彼のやりたいことは、まだまだたくさんあるようだった。

     まぁ、今年の夏は……俺もちょっとは楽しいと思えたから、彼の気分転換に振り回されてあげるのも、悪くはない。
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    sayutaba18

    DONEクリスマスのいずレオ。今日はクリスマス。骨つきで購入しておいた鶏肉に朝から包丁で切り込みを入れ、皮にフォークを何ヵ所も突き立てて下処理を終えた後、調味液に漬け込んでから仕事へと向かった。
     帰宅後は、ブロッコリーとミニトマトで簡易的なクリスマスツリーに見えるように盛り付けをし、ハムを星形にくりぬいて散りばめた。キャベツ、人参、たまねぎをくたくたになるまで煮たたせたコンソメスープも作ったので、これで今日の野菜摂取量とカロリーも大丈夫だろう。ここでシチュー系をリクエストされていたらカロリーオーバーになるところだった。主食は米かパンか悩んで、折角だからと帰りにパン屋に寄って中が軟らかそうなフランスパンを買った。もちろん既に食べやすい大きさに切り分けてある。オーブンを充分に温め、あとは仕込んでおいた鶏肉を焼けば、ローストチキンの完成だ。
     ……時刻はもうすぐ19時だ。これだけの量を食べるのならば、20時までには食べ終えておきたい。クリスマスだからといって自分を甘やかすほど能天気でもないのだ。ケーキは昨日ユニットでクリスマスパーティーをした時に、わざわざ凛月が焼いてきてくれたものを食べたのだから、本音を言えば今日は軽 2978

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