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    sgm

    @sgm_md
    相模。思いついたネタ書き散らかし。
    ネタバレに配慮はしてません。
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    sgm

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    酔って陽気になって「渙渙」って呼ばれたい兄上(馬鹿力)
    Qにはいつだって夢が詰まってる。

    #魔道祖師
    GrandmasterOfDemonicCultivation
    #曦澄

     誰だ。この人に酒を飲ませたのは。
     ……俺だな。
     今まさに自分の身に降りかかっている惨状に溜め息を吐いて、江澄は手にある酒杯を煽った。いっそ自分も酒精に理性を奪われてしまっていれば楽になれただろうに、真後ろに酔っ払いがいる状態では、酔うに酔えない。むしろ酔いもさめた。
     卓の上に散乱した酒壷と元は酒杯だったものの残骸を見つめて眉間にしわを寄せた。途端、後ろから伸びて来た指が、ぐりぐりと眉間の皺を伸ばそうと押してくる。
     痛い。この馬鹿力め。
     怒鳴る気すら失せて、煩わし気に手を払うと、くすくすと楽し気な笑い声が聞こえてくる。
    「おい、藍渙。そろそろ放してくれ」
     椅子に座り、膝の上に自分を乗せて後ろから抱きかかえている藍曦臣に無駄だと分かりながらも声をかけた。顎でも乗せたのか、ずっしりと肩が重くなる。
    「なぜだい? こんなに楽しいのに」
    「そうか。あなたは楽しいか。それはよかった。だが、放しても楽しいと思うぞ」
     俺は楽しくない、という言葉は辛うじて飲み込んだ。
     藍曦臣は酒精を飛ばして水のようにして飲むことができる、と魏無羨から聞いていたため、藍曦臣が珍しく茶ではなく、江澄の酒壷から酒を注いでも飲んでも特段気にもとめていなかった。
     藍曦臣が一杯煽り、酒杯を卓に置いた時、少し強めに卓に叩きつけていたので、違和感はあったのだ。いつも音もたてずに茶杯を卓に戻すような人だったから。だが、そこまで気にしなかった。今思えば、一杯目で分かっていれば、今現在の惨状を招くことはなかっただろうと後悔している。
     二杯目を煽り、卓に酒杯を置いた時、一杯目の時よりも力が入っていたのか、叩きつけられて哀れな酒杯は見事に粉々になった。
     は? と驚いた時にはもう遅かった。すっかりと藍曦臣は酔っぱらっていた。どうして酒精を飛ばさなかったのかは分からない。藍曦臣も人の子だから飲みたいと思うときもあったのかもしれないが、そんな細かいことを気にしている場合ではなくなった。
     酔った藍曦臣は、陽気、その一言に尽きた。ずっとくすくすと笑い、時折声を出して笑う。
     ひとしきりご機嫌に笑った後は、椅子に座った状態で、自分の膝を叩き始めた。楽全般に秀でる藍氏だから、太鼓でも叩きたくなり、膝を叩いているのかと見守っていると、江澄の名前を連呼しだした。酔っ払いだからか声が無駄に大きい。九曲蓮花廊の先にある四阿で、周囲は湖に囲まれているとはいえ、大声を出されるのは迷惑だ。何をしたいのかとなだめて何とか聞き出した結果、江澄が膝に乗ることを求めての膝太鼓だった。その膝太鼓が絶妙に曲になっていたのはさすが藍氏というべきか。
     渋々と膝に乗ると、満足したのか腕を江澄の腹に回して、その後もずっとご機嫌だった。江澄の背中に懐き、肩口に懐いてくる。日頃行儀のよい男のタガが外れるとこうなるのか、と江澄は諦めた。
    「阿澄、阿澄。ねぇ、阿澄」
    「一回呼べば聞こえる。なんだ、藍渙」
    「あなたにお願いがあるんです」
    「一応聞いておく。言ってみろ」
    「叶えてくれる?」
    「内容による」
    「叶えてくれる?」
    「だから、内容によると言ってるだろう。言ってみろ」
    「叶えてくれると約束してくれないと言わないよ」
     くすくすくすくすと笑う振動が、江澄の身体を揺らし、ついでに酒杯に注いだ酒も揺れのせいで零れた。思わず小さく舌打ちをする。なんでこんな目にあっているんだ? と腹が立ってくる。
    「じゃあ、言わなくていい──ッって、痛い。おい! 藍渙! この馬鹿力め! 肋骨が折れる!」
     すげなくすると、言葉の途中で、ぎりぎりと身体に回された腕の力が強まる。骨がきしむ音が聞こえた気がした。夜狩でもなく、修練でもなく、なんの比喩でもなくそのままの意味で抱きつぶされて骨を折ったなど三毒聖手の名に傷がつく。江澄は慌てて藍曦臣の腕を叩いた。後ろを振り向くと、子どものように唇を尖らせている藍曦臣と目が合う。
    「阿澄はすぐに意地悪を言う。そんな意地悪なことを言う子は閉じ込めようか。隠そうか。それとも縛ろうか」
    「閉じ込めるのも隠すのも縛るのもやめてくれ。わかった。叶えるから、言ってみろ」
     ぱっと藍曦臣の顔が満面の笑みを浮かべた。立ち上がったと思うと、ぐるりと江澄の身体を反転させて、また椅子に座って今度は膝の上に乗せられる。この間、何の遠慮もない力加減で、江澄はなすがままだった。抵抗した方が痛い目にあうだろう。もうどうにでもしてくれ、というあきらめの気分だ。酔っぱらに何を言っても無駄だし、明日このこと藍曦臣が覚えているかも怪しい。下から見上げてくる藍曦臣の顔が普段見せられてことのない顔で、珍しい顔が見れているからいいか、という気持ちも少しある。
    「渙渙って呼んで?」
    「は?」
    「渙渙って呼んで?」
     何を言われたかわからず問い返すと、もう一度、同じことを言われた。
     「渙渙」だなんて、「阿渙」だって滅多に呼ばないのに。そんな子どもを呼ぶような呼び方で姑蘇藍氏の宗主であり、澤蕪君と呼ばれ世の仙師と仙子の羨望の的、過去、名家の弟子順位で一位であったこの男を本人希望とは言え、呼べと言われても困ってしまう。そもそも、仙師のため外見年齢は若く見えるが、そこそこ良い年なのだ。その良い年の男を、良い年の自分が「渙渙」だなんて冗談にもほどがある。
     戸惑っていると、みるみる内に、藍曦臣の唇が尖り始めた。また、ぎりぎりと回された腕の力が強くなる。
    「阿澄は約束を破る悪い子なのかな?」
    「いや、だから痛い痛い痛い。加減をほんとに知れ、この馬鹿!」
     腕を再び叩くと、力は弱まったが、江澄の胸に藍曦臣が頭を埋めて、ぐりぐりと動かし始めた。昔、似たようなことを十にもならない金凌にやられたことがあったことを思い出す。そうか、この人は今十歳以下か。ならば「渙渙」と呼んでも仕方ないな。十歳以下だもんな、と無理やり自分を納得させた。
     吐息をこぼして、藍曦臣の頭を撫でる。
    「渙渙」
     ピタリと藍曦臣の痛いぐらいに頭を胸に擦り付けていた動きが止まった。もう一度呼んでやると、ぱっと顔が上がる。十歳以下だと思うと、子どものような笑みを浮かべている四捨五入すると四十になる男の顔が十歳以下に見えてくるから不思議だ。胸に押し付けてきたせいで、まんまとずれた抹額の位置を直してやると、頬を赤くした。
    「もう一度、呼んで?」
    「何度でも呼んでやる。渙渙はいい子だな」
    「阿澄大好き」
     また、回された腕の力が強くなり、骨のきしむ音とともに、江澄は意識を失いかけた。


     慣れぬ頭痛に、藍曦臣は頭を押さえた。一体昨晩何が起こったんだろうか、と記憶を遡ってみるが、江澄の酒壷から、一杯飲んだことまでしか思い出すことができない。普段は酒をすすめられても金丹で酒精を飛ばすのだが、何となく昨夜は江澄が味わっているものと、同じ味を自分でも感じてみたいと思ったのだ。
    「起きたか?」
     目の前から声がして、ゆるゆると視線を動かすと立てた肘に頭を乗せて、藍曦臣を覗きこんでいる江澄と目が合う。
    「おはよう、阿澄。なんだか、頭が……痛いな。昨日、私は何をしたのかな?」
     江澄ならば、覚えているかもしれない。そう思っての質問だったが、江澄の唇が、意地悪くゆがんだ。
    「なんだ、まったく覚えていないのか? 渙渙。あんなに可愛かったのに」
    「へ?」
    「渙渙」
     遥か昔に、母に呼ばれたきり、誰にも呼ばれたことがない呼び方を江澄にされ、藍曦臣は瞬きを繰り返した。
    「え、なんでそんな呼び方を?」
    「貴方が昨夜散々、俺に渙渙って呼んでくれってねだったんだろう? 忘れてしまったのか? 渙渙」
     言われると、何となくそんなことをねだったような気がしてくる。恥ずかしい。よりにもよって、江澄にそんな子どもみたいなことをねだったのか。顔がみるみる熱くなってきた。
    「どうした? 渙渙。顔が真っ赤だぞ?」
    「……やめて、ください」
    「何がだ? ん? 渙渙。呼んで欲しいんだろう」
     ひどく楽しそうな笑みを江澄が浮かべ始めた。確実に、「渙渙」と呼ばれて恥ずかしがっている自分を楽しんでいる。
    「もう、いいです。呼ばなくて大丈夫ですから」
     恥ずかしくて手で顔を覆うと、両手首をつかまれて、顔から手を無理やりはがされる。
    「いやいや。遠慮するな。渙渙。昨夜の貴方は本当に可愛かったな。渙渙と呼ぶのをねだり、最終的には子守歌まで俺は歌わされたわけだが?」
     江澄の言葉にますます顔は熱くなるし、顔を隠したいのに手は掴まれたままで隠せない。にやにやと笑う江澄の顔が恨めしい。いつもは自分のほうが江澄を照れさせているというのに、まるで普段の仕返しとばかりに、意地悪く「渙渙」を連呼してくる。江澄がそのつもりならば、藍曦臣にも考えがあった。軽く睨むと、江澄が眉を小さく上下させる。
    「貴方がいつまでも私のことを渙渙と呼ぶのならば、私にも考えがありますよ」
    「なんだ?」
    「澄澄」
    「は?」
    「澄澄って呼びます」
    「それは、やめてくれ」
     顔をゆがめてすこぶる嫌そうにしながら、江澄が藍曦臣の手首を解放した。起き上がり、背中を向ける。その背中を追うようにして、藍曦臣は後ろから江澄を抱きしめる。ほとんど覚えていないが酔った自分の狼藉の結果とはいえ、意地悪をしてくれた仕返しはせねば。まだ少し時間はあるはずだ。今度は自分が江澄を真っ赤にさせてやる番だと、抱きしめる腕の力を強めて、江澄の耳に唇を寄せた。
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    sgm

    DONE去年の交流会でP4P予定してるよーなんて言ってて全然終わってなかったなれそめ曦澄。
    Pixivにも上げてる前半部分です。
    後半は此方:https://poipiku.com/1863633/6085288.html
    読みにくければシブでもどうぞ。
    https://www.pixiv.net/novel/series/7892519
    追憶相相 前編

    「何をぼんやりしていたんだ!」
     じくじくと痛む左腕を抑えながら藍曦臣はまるで他人事かのように自分の胸倉を掴む男の顔を見つめた。
     眉間に深く皺を刻み、元来杏仁型をしているはずの瞳が鋭く尖り藍曦臣をきつく睨みつけてくる。毛を逆立てて怒る様がまるで猫のようだと思ってしまった。
     怒気を隠しもせずあからさまに自分を睨みつけてくる人間は今までにいただろうかと頭の片隅で考える。あの日、あの時、あの場所で、自らの手で命を奪った金光瑶でさえこんなにも怒りをぶつけてくることはなかった。
     胸倉を掴んでいる右手の人差し指にはめられた紫色の指輪が持ち主の怒気に呼応するかのようにパチパチと小さな閃光を走らせる。美しい光に思わず目を奪われていると、舌打ちの音とともに胸倉を乱暴に解放された。勢いに従い二歩ほど下がり、よろよろとそのまま後ろにあった牀榻に腰掛ける。今にも崩れそうな古びた牀榻はギシリと大きな悲鳴を上げた。
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    sgm

    DONE江澄誕としてTwitterに上げていた江澄誕生日おめでとう話
    江澄誕 2021 藍曦臣が蓮花塢の岬に降り立つと蓮花塢周辺は祭りかのように賑わっていた。
     常日頃から活気に溢れ賑やかな場所ではあるのだが、至るところに店が出され山査子飴に飴細工。湯気を出す饅頭に甘豆羹。藍曦臣が食べたことのない物を売っている店もある。一体何の祝い事なのだろうか。今日訪ねると連絡を入れた時、江澄からは特に何も言われていない。忙しくないと良いのだけれどと思いながら周囲の景色を楽しみつつゆっくりと蓮花塢へと歩みを進めた。
     商人の一団が江氏への売り込みのためにか荷台に荷を積んだ馬車を曳いて大門を通っていくのが目に見えた。商人以外にも住民たちだろうか。何やら荷物を手に抱えて大門を通っていく。さらに藍曦臣の横を両手に花や果物を抱えた子どもたちと野菜が入った籠を口に銜えた犬が通りすぎて、やはり大門へと吸い込まれていった。きゃっきゃと随分楽しげな様子だ。駆けていく子どもたちの背を見送りながら彼らに続いてゆっくりと藍曦臣も大門を通った。大門の先、修練場には長蛇の列が出来ていた。先ほどの子どもたちもその列の最後尾に並んでいる。皆が皆、手に何かを抱えていた。列の先には江澄の姿が見える。江澄に手にしていたものを渡し一言二言会話をしてその場を立ち去るようだった。江澄は受け取った物を後ろに控えた門弟に渡し、門弟の隣に立っている主管は何やら帳簿を付けていた。
    5198

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    PROGRESSたぶん長編になる曦澄3
    兄上がおとなしくなりました
     翌朝、日の出からまもなく、江澄は蓮花湖のほとりにいた。
     桟橋には蓮の花托を山積みにした舟が付けている。
    「では、三つばかりいただいていくぞ」
    「それだけでよろしいのですか。てっきり十や二十はお持ちになるかと」
     舟の老爺が笑って花托を三つ差し出す。蓮の実がぎっしりとつまっている。
     江澄は礼を言って、そのまま湖畔を歩いた。
     湖には蓮花が咲き誇り、清新な光に朝露を輝かせる。
     しばらく行った先には涼亭があった。江家離堂の裏に位置する。
    「おはようございます」
     涼亭には藍曦臣がいた。見慣れた校服ではなく、江家で用意した薄青の深衣をまとっている。似合っていいわけではないが、違和感は拭えない。
     江澄は拱手して、椅子についた。
    「さすが早いな、藍家の者は」
    「ええ、いつもの時間には目が覚めました。それは蓮の花托でしょうか」
    「そうだ」
     江澄は無造作に花托を卓子の上に置き、そのひとつを手に取って、藍曦臣へと差し出した。
    「採ったばかりだ」
    「私に?」
    「これなら食べられるだろう」
     給仕した師弟の話では、昨晩、藍曦臣は粥を一杯しか食さず、いくつか用意した菜には一切手をつけなかったという 2183

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    PROGRESS続長編曦澄11
    これからの恋はあなたと二人で
     寒室を訪れるのは久しぶりだった。
     江澄は藍曦臣と向かい合って座った。卓子には西瓜がある。
     薄紅の立葵が、庭で揺れている。
    「御用をおうかがいしましょう」
     藍曦臣の声は硬かった。西瓜に手をつける素振りもない。
     江澄は腹に力を入れた。そうしなければ声が出そうになかった。
    「魏無羨から伝言があると聞いたんだが」
    「ええ」
    「実は聞いていない」
    「何故でしょう」
    「教えてもらえなかった」
     藍曦臣は予想していたかのように頷き、苦笑した。
    「そうでしたか」
    「驚かないのか」
    「保証はしないと言われていましたからね。当人同士で話し合え、ということでしょう」
     江澄は心中で魏無羨を呪った。初めからそう言えばいいではないか。
     とはいえ、魏無羨に言われたところで素直に従ったかどうかは別である。
    「それだけですか?」
    「いや……」
     江澄は西瓜に視線を移した。赤い。果汁が滴っている。
    「その、あなたに謝らなければならない」
    「その必要はないと思いますが」
    「聞いてほしい。俺はあなたを欺いた」
     はっきりと藍曦臣の顔が強張った。笑顔が消えた。
     江澄は膝の上で拳を握りしめた。
    「あなたに、気持ち 1617