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    dokoka1011056

    @dokoka1011056

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    dokoka1011056

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    それは終わりで始まり

    #distortion
    #リクミキ
    #R-15

    月の南中高度ここは大昔、古代の民達が神に供物を捧げる為に造った神殿だ。夜の闇を恐れる者たちは、聖なる月の光による浄化を求め、女神に供物を捧げた。
    闇に潜むマモノを祓う光と引き換えに、彼等が払った代償は、清き魂ーーつまり、幼い子供の、穢れを知らない命だ。
    血塗られた儀式は、いつしか内部抗争を招き、光を求めた者たちは、皮肉にも手に入れた光の力によって、その文明に闇の帳を下ろした。


    月の南中高度




    「遺跡で怪物が大暴れしている」と近隣の住民からの通報を受け、現場に急行。城から郊外の荒野まで、わずか5分で到着したにも関わらず、貴重な遺跡群は中央の神殿のみを残して既に大破していた。
    周囲には岩のバリケードの様な物がそびえ立ち、中から地面を振動させるほどの騒音が鳴り響く。
    調査済みとは言え、この世に二つと無い歴史の爪痕が失われた事に落胆しつつ、原因を作り出したハートレスに制裁を喰らわすべく、中にテレポートした。






    敵は手強い。

    本体の耐久力はそう高くない事は、ソラが喰らわせた最初の一撃に対する反応でよく分かっている。問題は過剰なまでの防御に6人ーー僕、ソラ、リク、ドナルド、グーフィー、アクセルーー全員が足留めをされている事だ。


    小さな球体状の本体を取り囲むように、細い針のような形をした3体の子機が浮遊し、物凄い熱量の光の帯を放ってきた第1形態。柱や彫像に邪魔されながら、魔法を駆使し遠距離から怯ませた後、ソラとリクが本体、僕らが子機を一斉に叩く。
    ある程度ダメージを与え、子機の動きが鈍ってきたのを見て、誰もがあと一押しと思った。突然、本体から断末魔のような、ガラスを引っ掻くような音が鳴り響く。それに呼応するように3体の子機が分裂し6機になり、一人一人に襲い掛かって来た。

    両端が鉤爪に変形した子機のグラビデ系の魔法を纏った攻撃は、速くて重い。避けた一撃が、石畳みの床を粉々にする。相手に隙を作る為に、攻撃をはじき返そうとキーブレードで受け止めるが、圧し潰すように上から押さえ付けられ、動けなくなってしまった。

    (リク…!)

    少し離れた所で彼も交戦していたが、子機のスピードに翻弄され、酷く体力を消耗しているようだった。ついに片膝をついた彼に、鋭い刃が向けられる。
    助けに行かなきゃ。でも動けない。力では勝てない。受け流すにも魔法で捉えられたキーブレードが言うことを聞かない。どうしよう。どうしよう。

    思考が停止しそうになったその時、

    不意に彼が交戦していた子機が消える。と同時に、僕を拘束していた重力も消える。意識を眼前の敵に戻すと、6体の子機がそこにあった。
    力の抜けた手から、一瞬でキーブレードが弾き飛ばされる。金色の光の粒子を撒き散らしながら、ガランと言うけたたましい音を立てて柱に当たり霧散する。
    手元に再召喚する暇も無く、結合した子機がまるで口を開けるように迫る。誰かが僕の名前を叫んでいる。


    停止しそうになった思考が再び動き出すことは無く、


    ほぼ本能レベルの反応速度で、僕は両手を前に突き出した。


    「アイスバラージュ!!!」

    キーブレードや杖などの道具を介さず放つ、制御不可能の魔力の奔流。真っ白な冷気が視界を奪い、轟音と共に周囲の気温が一気に下がる。暴風に混じる氷の破片が、剥き出しの手足と顔を掠め、赤い線を引いていく。

    冷気が晴れるとそこには、敵を封入した巨大なオブジェがあった。青い氷が美しく煌めく。
    完全に沈黙した敵を見てほっとすると力が抜けて、その場にぺたりと座り込む。歯の根が合わない程寒く、吐く息は白い。
    睫毛が凍ってまばたきの度に不快な感じがする。氷の魔法を使い過ぎたせいで手先がびりびりと裂ける様に痛む。

    (凍傷になったら嫌だな…)

    だが体温が著しく下がり、血管が細くなっているのだろう。そのおかげで、破片で切った傷口からの出血があまり無い。

    「王様っ!」

    ドナルドが悲鳴に近い声で僕を呼んだ。元気そうで何よりだ。みんなの様子を確認しようと立ち上がり振り向いた。が、踏み出した足に力が入らず、がくんと勢い良く、膝から崩れ落ちた。咄嗟に着いた手もがくがくと震えて、今にも限界を迎えそうだ。

    (あぁ、かっこわるいな…)


    「ミッキー!!!!!」

    彼の声に顔を上げた。ずしゃりと膝を着いた彼は、泣きそうな顔で僕を抱きしめた。酷く緩慢な動作で腕を上げて、凍ってじゃりじゃりになった彼の髪に絡まる土埃を払う。

    「大丈夫だよ。…みんな無事?」
    「ああ。吹き飛ばされたけどな。」
    「ふふ、ごめんね。」

    暖かい腕に体を預ける。倦怠感と、迫る眠気が心地いい。ーーこの温もりを、自分への報酬と解釈するのは、些か都合が良すぎるだろうか?














    目が覚める。十分な休養をとったからか、意外にも意識ははっきりしている。

    ベッドに腰掛けていたリクが、あ。と小さく声を発する。

    「おはよう。 って言っても、もう夜だけどな。気分は?」
    「うーん、すかすか。魔力使い過ぎちゃった。」

    魔法を使う感覚は人それぞれだが、僕の場合は、枯渇することは空腹或いは泳いだ後のぐったりとした疲労感そのものだった。生命力を酷く消費するのだ。

    「みんなに言ってくる。」
    「あ、ちょっと待って。」

    今日は月が綺麗だね。そう言うと、彼は怪訝な顔をして無言で佇む。突拍子も無い言葉の一つにも、尋ねる前に真剣になって考える事が出来る彼の性格を、僕は好ましく思う。






    正直なところ、このぐったりとしたコンディションでみんな会いたくはなかったのだ。特に某魔道士や、某光の勇者には。絶対に大騒ぎだ。心配してくれるのは嬉しいけど、そのテンションに対して、平気な顔をして応えてあげられる自信が無い。

    会うなら、元気になった方が良い。つまりは、能動的に、失った魔力を回復する方法があるという事だ。

    ベッドを抜け出して二人で廊下へ。階段を登り、最上階の南側の部屋に入る。埃っぽい小さな部屋の隅に立て掛けられている、先端にフックのついた棒を、天井板の一枚に引っ掛け開ける。はらはらと、塵がきらめく。彼が小さく咳をした。
    入り口付近の壁に一箇所だけ色の違う場所がある。細長いそれの上端を押すと、くるんと回転し取っ手が現れる。それを引くと、ドアの隣に小さな窓が現れる。窓の中にあるのは、複雑なからくりとレバー。レバーを回すと先程開けた天井裏から梯子が降りてきて、屋上への秘密の抜け道が現れるという訳だ。

    「次からは僕がいなくても勝手に使って良いからね。」

    ただしみんなには内緒で。

    秘密の共有とは甘美なものだ。目に見えないけれど、確かな繋がりがそこにある。それは後ろ手に触れ合うように、どんなものよりも人の心を強く繋ぎ留める。その事象に関しては、誰よりもお互いの所有権を感じられるのだ。得意に似た、遠くからアイコンタクトするような奇妙な連帯感が生まれる。

    その感覚は僕のものだけではなく、彼もまた然りだ。悪戯に目を細めて、声無き契りを交わす。(尤も、この通路を知っている者は、城の関係者には意外と多いのだが、某光の勇者・某セブンプリンセス・某元13機関No.8には知らせていない事だった。)

    頻繁に使われる事はない梯子は、見た目から感じられる年季の入りように反し、全く軋まない。掴んだ手にざらざらとした汚れが付着するものの、二人ともそういった物を過剰に忌避する性分ではない。
    5メートル程登った先に板の間があり、扉を開けるとそこはすぐ外だ。下からはどんな角度でも覗き見ることが出来ないような、特殊な構造になっているので、まさに秘密基地と称するにふさわしい場所。

    「ここで何をするんだ?」

    もちろん、ただリフレッシュする為に来た訳ではない。能動的に魔力を回復する方法の鍵、輝く夜の証を指差して、僕はにこりと口角を上げた。

    「月…?」
    「そう。ただし満月。」

    魔力を回復する方法は大きく分けて3つある。一つは、自然に回復するまで待つ。もう一つは、アイテムを使ったり、誰かに魔法で回復してもらう。そして最後の一つは、エレメントから魔力を吸収すること。
    エレメントとは、自然界に存在する魔力を持った物質の総称であり、魔法を分類するカテゴリーの様なものだ。人にはそれぞれ自分に適合するエレメントがあり、そのエレメントからは効率良く魔力を吸収出来るのだ。

    「そういえば、イェン・シッド様の部屋にあった本に載ってたかもしれない…。」
    「うん。魔法を学術的に学ぶ人にとっては常識だから。でも、アイテムを使えば一瞬だから、実際はあんまりやらないんだけど。」

    僕のエレメントはフルムーンシャイン。単なる月光ではなく、南中高度にある満月の光だ。この日、この時刻だからこその裏技。

    青白い石の床に寝転がる。ひんやりと心地いい。大きくて黄色い月。本当に、この温度を持たない光が、元々太陽の一部だったのだろうか。目の前で、こんなにも鮮やかに発光する月が。

    呆けたように僕を見下ろす彼に、床をぽんぽんと叩き隣を促す。示されるがまま隣に大の字になって寝転がる彼の熱い指先が、耳に触れたり触れなかったりするぐらいの薄い位置で存在感を持つ。
    妙な緊張で、反射的に耳が動く。彼が自分の指先を凝視していることが感じられる。いづいような、気持ち良いような。とても気になるけど、今首を動かしたらやめてしまうかもしれない。
    ふにふにと、弄ぶように優しく触られる。無言。風のない夜だ。必要以上に大きく音を拾う。

    降り注ぐ月の光が染み渡るような感覚。失った物が埋まり、なんとも言えない充足感を感じる。(例えるなら、就寝前に飲む一杯のぬるいミルク)

    手は依然ゆるゆると動く事をやめない。毛並みに沿って親指で擦ったり、弾力を確かめるように形を歪めたり。
    満たされる魂とは裏腹に、体は強張り、呼吸すら躊躇うほど意識は耳先にある。自らが内包する解析不能のざわめきに叫びだしたくなるのを堪えて、ぎゅっと目を瞑る。

    手を振り払ってやめさせたい。
    どうせなら、もっと明確な"印"が欲しい。
    心臓の鼓動が、肋骨を突き破ってしまう。

    (物欲しげな顔で強請ればいい。彼はきっと応えてくれる。)

    でも僅かに残留した倫理がそれを許さない。大人、子供。僕らを隔てる絶対的な壁を思い浮かべ、必死で意識を逸らせる。




    「目を開けて」




    低い声が大気を伝って頭蓋ごと震わせる。瞼越しに感じていた光がふっと消える。躊躇いながら目を開けた。覆い被さるようにして僕の自由を奪う、月の裏側のような黒さを持った彼の姿。

    「…全く、何処で覚えたの?」

    年頃の少年の、幼さを残した目元。眉を顰めながらも、歪に口角が上がり、瞳はぎらぎらと揺らめく。唾液を嚥下する音、動く喉仏。昼間の面影は一切ない。

    ぞくりと、背骨を這うような期待感に打ち震える。




    南中高度から僅かにズレた位置に月がある。夜はあと半分。


    (待ても出来ない大人でごめん)
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    DONE猗窩煉/現パロ
    実家から出て2人で同棲してます。
    ライトな「価値基準が違うようだ!」が書きたくて書いたお話です。
    喧嘩したり家飛び出したりしてるけど内容は甘々。
    「君とは価値基準が違うようだ!!実家に帰らせてもらう!」

    近所中に響き渡る声と共に、騒々しく杏寿郎は出ていった。
    またか、と勢い良く閉められた玄関のドアをぼうっと見つめること10分。リビングの方から間の抜けた通知音が響く。重たい足取りで通知を確認すると、それはまさしくさっき出ていった杏寿郎からのメッセージだった。

    『今日は実家に泊まる』

    …律儀と言うか何と言うか。喧嘩して出ていったにも関わらず、ちゃんとこういう事は連絡をしてくるのだ、杏寿郎は。

    先程までどうしても譲れないことがあって口論していたのに、もう既にそのメッセージだけで許してしまいそうになる。

    駄目だ、と頭を振って我に返る。この流れもいつものことだった。実際、今までは俺の方から折れている。

    杏寿郎と一緒に住むようになったのは一昨年の12月。あれから1年と少し経っているが、住み始めた頃も今も、些細なことで言い合いになって杏寿郎が家を飛び出すという事がたまにある。

    その度に「価値基準が違う!」とか何とか言って出ていくものだから、正直なところ、デジャブの様なものを感じてかなり傷ついていた。

    だが毎回、言い争いの原因は 3534