「お前に恋人ができたら、どんなやつなんだろうな」
そんな声にヒースクリフは顔をあげた。隣に座っていた男性がこちらを見ている。その顔は鮮明に見えなくて、まるで焦点が合わない時のような気持ち悪さを覚えた。
「恋人、ですか?」
「そう。ヒースはさ、良いところの坊ちゃんなんだろ? だからいつかお前も恋人作って結婚してってするんだろうなーって思ったら、そいつはどんなやつなんだろうと思って」
そんな男の言葉にヒースクリフはそっと顔を逸らした。彼の言っていることはわかる。家を継ぐ貴族の嫡男として、いつかは妻をもらって子をなさないといけない。それでもまだ遠い先の話だと思いたくて、彼は黙りこんだ。
「嫌だな、俺」
男はぽつりと呟いた。その表情はわからないが、声色がほんの少し寂しげでヒースクリフは緊張した。
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