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    roziura3

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    roziura3

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    降志ワンドロワンライ、開催おめでとうございます〜!!
    お題が秀逸すぎてわけのわからないものができたぞ!!笑
    「夏祭り」「真実」「時限爆弾」「ラーメン」

    #降志
    would-be

    キレイお久しぶりです。おげんきですか。

    そこまで書いて、筆は止まった。ちゃちなボールペンの先で、子ども騙しのマスコットが揺れる。小学生のときに子どもたちとラーメン博物館に行ったときの記念品だ。土産物にしては案外長持ちで、重宝している。
    これを見る度に思い返すのは、博物館見学の最中に巻き込まれた爆弾事件だ。館内のどこかに時限爆弾が仕込まれている。探し出してとめてみせろと犯人は嘲笑した。
    先の春にも爆弾を止めたばかりだったというのに、小さなわたしたちは広い博物館を走り回る羽目になった。知らないところで、公安やFBIも動いていたらしい。けれど、結局ヒーローのサッカーボールが恐ろしい爆弾を蹴り上げ、季節外れの花火へと鮮やかに変貌させた。たまや。工藤くん、どうしているかしら。

    思い出の詰まった脳内のダンボール箱を掘り返すのをやめて、また手元の便箋に視線を戻す。やっぱりこの書き出しはあまりにも素っ気無いかもしれない。かといって可愛げを足すのも違う気がする。

    ***


    送ろうとしている相手は、もうずっと会っていない男の人だ。風の噂で婚約したとも聞いたし、一方でまた消息不明になっているとも耳に届く。彼の職業を考えればどちらでもおかしくないし、むしろどちらも真実かもしれない。
    一方で案外近くにいて、サラリーマンに混ざってラーメンを食べているかもしれないとも思う。神出鬼没で、笑顔で感情を隠すのがうまい人だ。数えるほどしか見たことのない笑顔が懐かしい。

    気を取り直して手紙に続く言葉を考える。目を閉じて、遠い夏の記憶を思い返して。そちらはもうすぐ夏祭りですね、と文を続けた。


    去年の夏祭り、あの人とふたりで夜空に咲く花火を見上げた。爆発一歩手前の時限式の感情をお互いに放り投げて、夏空を彩る。飼いならせずに潜めた熱病は、見事に爆発して粉々に降り注いだ。キレイ。
    初恋を失って、また面倒な人に惹かれて、でもやっぱり何も告げることはできずに離れようとして。宮野志保の夏が終わる。八月の傾斜は急なのだ。握ったままの拳に力が入る。隣の彼とぶつかったすきに甲を擦り合わせれば、彼の長い指は自然にわたしの指間へと絡んできた。合わさる掌がジットリ汗をかいている。けれど視線は夜空へと向けたまま、わたしたちは別れた。


    あの夏の日から数日で彼とは連絡が取れなくなり、わたしもまた米花町を出た。スーツケースを転がしながら、あの夜、キスくらいせがんで困らせてやっても良かったかもしれないと何度か夢想した。知っておきたかったのだ。そして覚えておきたかった。あの人の柔らかいところや、肌の熱、首の匂いまで。

    ラブコメ人間ばかりに囲まれていたから忘れていたけれど、この世では叶わない恋のほうがきっと多い。わたしと彼の間に生まれた、妙に気詰まりな空気もまた、九月が始まる前には呆気なく消えてなくなる。まぁ、わたしの方だって九月に合わせてアメリカに飛んだわけで、この場合どちらが悪いとも言えない。

    ***


    今、ここはニューヨークの真ん中にある公園で、日本では太陽は眠りについていて、明日になったらあの人は他の誰かと教会にいるかもしれない。キレイな笑顔を作って愛を誓うかもしれない。わたしのことなんか忘れたままで。
    もしくは、任務先で致命傷を負って倒れているかもしれない。二度と会えないのならどちらでも一緒だと思う。そばにいないことは、ある種死んでいるのと同じだ。

    アメリカの空は広くて、日本のように高層ビルにもまみれていなくて、寂しさは少しだけ緩和される。どうして恋しく思うようになったのか。秘密の思い出をもつ同士だったからか。なぜ離れたほうがいいと考えたのか。それは多分、あの人が思ったよりもわたしに優しかったから。

    「あなたを壊してしまうこと、あなたを損ねてしまうことがこわかった」

    雑多な英語が飛び交う公園では、誰もわたしの声など聞いてやいない。意味だって通じないだろう。太陽が眼球に直撃して眩しい。あの夏祭りの花火を想う。

    「ここにはいないあなたが好き」

    目を閉じる。青葉の匂い。はしゃぐ小さな子どもたちの声。どうしようもなく突きつけられる。あなたはここにはいない。苦手だったあなた。優しかったあなた。なにも言わせてはくれず、ただ自由を与えてくれたあなた。去っていったあなた。日本を守るあなた。


    わたしはあなたが愛した国よりと同じくらい、今ではこの異国も好きになっている。


    「あなたが好き」

    俺もだよ、ってどこかから聞こえてこないかなと、長く目を閉じたままで。けれどこの国の暑さはわたしをちっともセンチメンタルにはさせてくれないのだ。書きかけの便箋を破く。細切れの紙片が風にのって夏空を彩る。

    あなたよりも好きな人、この広い国でならきっと見つけられるけれど、あなたがわたしを忘れていてもいいけれど、やっぱり言っておきたいことはあるのだ。そのためには探しに行かなければ。この恨み言を直接ぶつけてこなければ。夏が終わらないうちに。

    狭く、息苦しいあの島国で、あなたを見つけてつかまえて、また一緒に夜空の爆発を見届ける。指を絡めて、柔らかそうな髪に触れて、体温を覚えておく。見えない未来を憂えたりしないから、今度こそ怖がらないで教えて。
    わたしもちゃんと言葉にする。最後の花火が終わる前に。

    あなたが好き。ここにはいない、あなたが好き。

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    黒護にゃちょこ

    MAIKINGかきかけの降志小説から抜粋解毒薬が無事必要在るべきところに渡った後は、私は恐らく然るべき処分を受けるだろう。そうなる前に、母からのテープを最初から最後まで聞かなければと思い、部屋で一人、ベッドに横たわりながらカセットのスイッチを付けた。

    古ぼけた音が途切れ途切れに響き渡る。このテープは、そろそろ限界なのだ。眼を瞑りながら母の音にひたすら集中すると、この世とあの世が繋がる感覚に陥る。途切れる度に現実に押し戻されるので、まるで「こちら側にくるにはまだ早いわよ」と言われているようだ。音の海に流されていると、ふと「れいくん」という単語に意識が覚醒させられた。

    「れいくん」

    その名を自分でも呼んでみる。誰だろう。巻き戻して再度テープの擦る音を聴くと、どうやら母に懐く近所の子どもらしかった。

    「将来は貴女や、日本を護る正義のヒーローになるって言ってたから…もしかしたら、もしかするとかもしれないわね」

    もし、叶っていたら、その「れいくん」とやらは、警察官にでもなっているのかしら。…いえ、きっと、そんな昔の約束なんて…白鳥警部じゃあるまいし。それに、今更だわ。

    「もう決着は着いちゃったわよ…れいくん」

    あまりにも 676