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    浬-かいり-

    @Kairi_HLSY

    ガルパ⇒ハロハピの愛され末っ子な奥沢が好き。奥沢右固定。主食はかおみさ。
    プロセカ⇒今のところみずえなだけの予定。

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    浬-かいり-

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    かおみさ(※オメガバース)

    #ガルパ
    galpa
    #かおみさ
    loftyPeak

    それを運命と呼ぶ 嫌な予感がする。瀬田薫がそう思ったのは、恋人であり番である奥沢美咲のヒートが近いことだけが原因ではなかった。

     この日の放課後、二人はCiRCLEで待ち合わせていた。新曲にあるギターソロの練習を、美咲が付き合ってくれる予定だった。
     放課後に担任から雑用を引き受けてしまったので、少し遅れると連絡したのが数十分前。それにはすぐに了解の返事が来たものの、雑用を終え今から向かうと送ったメッセージには既読すら付いていない。たったそれだけのことであるのだが、どうにも嫌な予感が頭を過ぎって仕方ない。重いギターケースを背負って、CiRCLEまでの道を急いでいた。

     気のせいであって欲しかった。辿り着けば美咲はなんでもない様子で、そんなに急いで来なくても良かったのに、心配し過ぎ。なんて憎まれ口を叩いて笑ってくれるのだと。そう思いたかった。
     ただ薫のそんな願望は、CiRCLEの入口ですれ違った見知らぬ女子学生から、美咲の匂いが漂ったことで打ちひしがれてしまった。番のにおいだ。間違える訳がない。
     慌てて振り返るも、彼女は慌てた様子で走って外へ出て行ってしまった。花咲川女子高校の制服だ。追い掛けたかったが、今は美咲の様子を見るのが先だ。カウンターに居るスタッフに一声掛けてから、約束していたスタジオへと急ぎドアを開ける。


    「美咲!」


     名前を呼ぶが返事はない。けれどすぐにその姿を見つけることができた。部屋の隅で床に小さく蹲る美咲の姿を視界に捉えて、薫は慌てて傍へ駆け寄る。しゃがんで顔を覗き込むようにすれば、怠そうに顔を上げた美咲と目が合った。薫の嫌な予感は的中する。
     血の気が失せて真っ青な顔をした美咲が、潤んで朦朧とした瞳を向けていた。震える身体からは冷や汗が止まらない。


    「み、美咲……!? どうしたんだい、何があった!?」

    「ぅ、あ、」


     明らかに異様な様子の美咲に動揺した薫が手を伸ばすと、怯えたようにびくりと肩を跳ねさせた。両手がうなじを守るように組まれていたのに気付いて、薫は一言断りを入れてからそっと手を解かせた。


    「……美咲、これは、」


     そこには歯型があった。鼻先を寄せれば、知らないアルファのにおい。つい先程すれ違った女子生徒の姿を思い出す。


    「ぁ、か、かまれ、た、」


     震える掠れ声で、やっと口を開いた美咲が必死に訴えた。




    「……かおるさん」

    「美咲! 大丈夫かい、具合は?」


     美咲が力無く呼べば、薫が眉を下げてその顔を覗き込んだ。へいき、と笑う顔はまだ蒼いものの、冷や汗や震えは止まって先程よりはマシに見える。

     あの後救急車は嫌だと首を振る美咲を、タクシーで病院へ連れて行った。オメガは番ではないアルファにうなじを触られると不調を起こす。今回は噛まれたことにより症状が深刻であったようだ。
     病気ではない為、多少緩和させる薬はあるものの完全に回復させることは出来ない。入院する場合もあるが、番が居るのなら連れて帰った方がいいだろう。美咲の主治医は薫にそう説明した。気休めの点滴を打ち薬を処方してもらって、薫の部屋のベッドで休ませていた。薫も横になり後ろからその身体を抱き締めていたお陰で、においは大分薄れてきた。


    「美咲?」


     もぞもぞと美咲が動き出す。寝返りを打ち体勢を変え薫と向き合うと、その腕の中に埋まった。その身体をもう一度抱き締めてから、指先でうなじを撫でる。


    「———美咲。何があったんだい?」

    「…………、」


     薫がうなじの傷をなぞりながら優しい口調で尋ねれば、美咲は暫しの沈黙の後に同じ学校の同級生の子から噛まれたと零した。噛まれると顔を真っ青にして蹲る美咲を見て、逃げるように去っていったと言う。体調が急変した様子に驚いたのかもしれないと、美咲は付け足した。
     ただその続きは語られることはなく、代わりに鼻を啜る音が薫の耳に届く。
     

    「……そうか。怖かったね」


     続きを促すことはせず、薫はそれだけ言うと美咲のうなじを撫でる。それに対して、美咲は首を振った。
     怖かったのは本当だけど、それだけじゃない。自分は悔しかったんだ。同じ高校生なのに、同じ女の子なのに。アルファとオメガ、たった一つそこが違うだけで圧倒的な力の差が生まれてしまう。押さえつけられて何も抵抗出来なかったことが、番がいるのに拒絶の態度を取れなかったことが、自分がオメガである事実をありありと突きつけられているみたいで悔しかった。


    「あたしは……オメガの自分が嫌いだよ」


     オメガとして生まれただけで、他の人達と対等にはなれない。オメガに付き纏うのはいつだって、アルファへの恐怖と自身の性への劣等感だ。
     縋り付くように薫の服の裾を握ってくる手が震えている。薫は安心させるように自分の手を重ねると、ぎゅっと握って。


    「美咲は、アルファの私は嫌いかい?」


     優しく問いかけられた言葉に、美咲はすぐに首を振った。その反応に薫は微笑んでから、美咲の身体を抱き起こす。膝の上に座らせて向かい合わせになったのなら、視線を上にして顔を覗き込んだ。蒼かった顔は少しだけ赤みが戻ってきていて安心した。濡れている目元には気付かない振りをする。
     その頰を指で軽く撫ぜてから、優しく抱き締める。


    「美咲がオメガとして生まれてきたのは、きっと私と巡り会う為だったんだよ」


     アルファとオメガ。そんな関係性で無かったとしても、自分は美咲のことを好きになっていただろうとは思うけれど。しかし番という関係に巡り会えたのは、間違いなく薫がアルファで美咲がオメガだったにあったから。


    「……ふは、何それ。ちょっとキザすぎない?」

    「美咲は、そうは思わないのかい?」


     小さく噴き出して笑った美咲に、薫も釣られて笑顔になる。首を傾げる薫を見つめてから、美咲は小さく首を振った。


    「……そうだったら、うれしい」


     小さな声で紡がれた言葉は、彼女にしては珍しい素直な言葉。
     薫は抱き締める力を少しだけ強めると、美咲のうなじに出来てしまった歯形を掻き消すように、自分の歯を立てた。
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