2021.07.07
色とりどりの紙と紐が、いくつもテーブルに並べられている。見上げた壁掛けのカレンダーの翌日に、二重丸で念入りに印がつけられているから、七夕の短冊のつもりらしい。
「どの色にしようか? 何色でも似合うなって思うから、たくさん切っちゃったんだ」
「だからって、こんなに……二人じゃ使い切れないだろ」
赤に、青に、緑。細長く切り取られた分厚めの画用紙には、結びつける用の穴と、破れないよう補強のシールまで貼り付けられている。わざわざ手動でやったらしく、ところどころ歪んでいる。こいつ一人でやったんだろうか。羽佐間先生と二人で用意したのかも。もっとよければ、島のこどもたちの仕事に混ぜてもらって、とか?
大勢増えた交流の切っ掛けにできるよう、年間行事は準備期間から賑やかに催されるのが暗黙の了解だ。人の支え合う心を好む来主が、輪の中に入れてもらえてるなら、幸いだが。
「余った分は美羽たちにあげるねって約束してるから、平気だよ」
「一人でぜんぶ作ったの?」
「うん。甲洋に選んでもらうものだから、一から用意してみたくってさ」
「そう。がんばったんだな」
直接教わるなりして、仲良くなる理由にでもすればいいのにな。フェストゥムを忌避する心は誰にでもあるけれど、来主はそれを細やかに感じ取って、特に戦いに馴染みのないアルヴィスの面々以外には、あまり積極的には近寄ろうとはしない。七夕はお祭りなのだから、来主も肩身を狭くせず楽しめばいいのに。助けを求めて呼んだのだとはいえ、来主が戦い以外を学ぶのを咎められる存在はどこにもない。とはいえ、彼なりに人を気遣おうとしているなら、その心を汲んで、今年は祭りの場には連れ出さずに星を眺めるだけに留めるべきだろうか。
選ぶのを待ち侘びて、そわつきだした少年の目の前に置かれた紙を取り上げる。彼の兄弟分よりは薄い色。
「じゃあ、赤にしようかな。来主はもう決まってるの」
「僕は深緑にしたよ。きみの服の色だからね」
まだ紐はつけてない紙の、指に隠されているところに、文字らしき黒が綴られている。もう願い事まで済んでるらしい。
「……そう。緑が来主にとっての俺の色か」
じゃあ、俺も、紐は薄緑にしよう。来主の瞳の色。来主の紐は何色にするんだろう。あとでこっそり探してみよう。
「外に飾るのもいいけどさ。初めて会ったお店にあったみたいに、入り口のとこに置きたいの」
「お前の家じゃなくて?」
「甲洋との家がいい。おかあさんにも、いいよって言ってもらったし」
「ふうん。じゃ、七夕が終わったら、鈴村神社でお焚き上げしてもらいに行こう。そっちは羽佐間先生も一緒にさ」
「……焼いちゃうの? せっかく用意したのに?」
「残しておきたいけど、ただ燃やすんじゃなくて、そうやって空に願いを届けるんだよ。来主さえよければ、写真に残したいんだけど。いい?」
迷って、悩む仕草をして、口を数度開閉させてから、頷く。願い事を見る気はなかったけれど、隠されると知りたくなるな。
「僕が撮って、きみのアルバムに挟むので、いいなら、いいよ」
「紐も入れて撮ってくれる?」
「……とくべつね。甲洋のも、残しといてね」
明日は一日晴れの予報だ。消え入りそうな声も、星の河を眺めれば明るくなるだろう。来年は、祭りに出掛けようとねだってくれますように。鬼に笑われたって構わないから、紙に綴るより強く願う。
来年も、その先も、この少年が、隣で微笑んでいてくれますように。