幸せに名前なんてなかったから5 麗らかな日曜日。晴天に恵まれた庭で、タオルを広げる瘴奸の背を、貞宗は静かに見つめていた。四人分の洗濯物は青空の下で風に揺れている。瘴奸は空になった籠を持つと居間へと戻ってきた。
「新三郎殿、夕方に取り込みをお願いします」
呼ばれた新三郎は、半分目を閉じてトーストをかじっていた。少し前に常興に叩き起こされたばかりで、まだ眠気が抜けていないらしい。
休日の朝、誰よりも早く物音を立てていたのは瘴奸だった。洗濯機の音が止むころには、もう掃除機の低い唸り声が居間に響いていた。家事はそれぞれに分担されているが、新三郎は雑用や頼まれ仕事をこなしている。もっとも、それをよくサボっては常興から叱られていた。
洗濯籠を抱えて居間を横切る瘴奸の横顔を、貞宗は目で追った。いつもと何かが違う。違和感の正体を探るように目を凝らすが、それはすぐには掴めなかった。
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