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    なりひさ

    @Narihisa99

    二次創作の小説倉庫

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    なりひさ

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    #ポプマト

    このうるさい心臓を止めてくれ「師匠〜」
     ポップの声が洞窟に響く。遠慮なく洞窟に入ってくる弟子を内心喜びつつも、マトリフは盛大なため息で出迎えた。
     しかしポップはマトリフのそんな様子を気にもせず、マトリフに笑顔を見せた。
    「起きてて大丈夫なのか?」
    「最近は調子がいいんだよ」
     マトリフは言って視線を手元に落とす。今は薬草の手入れの最中だった。採取してきた多種多様な薬草を洗い、仕分けして乾燥させる。手間暇がかかる作業で、丁寧にやらないとせっかく採ってきた薬草が使い物にならなくなる。
    「オレもそれやっていい?」
    「暇なのかよ」
    「暇っていうかさ……」
     ポップは曖昧に笑いながらマトリフの横に座った。洗い終わった薬草を手に取る。
    「暇じゃなきゃこんな所に来るんじゃねえよ。さっきも言ったが最近は調子がいいんだ」
     ポップがマトリフの体調を心配していることはわかっている。だがその体調もこの薬草のお陰で持ち直していた。この薬草で作った薬は作るのに手間がかかる上に味も不味いが、効果はあった。
    「オレは師匠に会いたいから来てんの」
     ポップは言いながら手際よく薬草の葉を取っていく。
     あの大戦が終わった後もポップはよくマトリフの洞窟へと訪れていた。それはダイ捜索の知恵を借りるためだったが、ダイが帰ってきた後も、ポップは変わらずマトリフに会いに来た。
     その理由がわからないほどマトリフは鈍感ではない。ポップは残された時間を惜しんでいるのだろう。マトリフの百年という長い年月の、数年しか共にできなかった弟子は、それを短すぎると不満を言っていた。
     だがマトリフからすれば、最後の最後でポップという弟子を得られたことは幸福であった。あるいは箱の底に残った最後の輝きだ。それを見られただけでここまで生きてきて良かったと思える。
    「師匠……オレさぁ」
     ポップはちぎった葉を指で摘みながらマトリフに身を寄せた。黒い髪が頬に触れる。
    「師匠のこと……好きなんだぜ」
     その囁くような告白も何度目だろうか。その度に、マトリフの答えは変わらなかった。
    「バカ言ってんじゃねぇよ」
    「……意地悪」
    「知ってんだろうが」
     ポップの頭を掴んで押しのける。ポップはわかりやすく頬を膨らませた。もう子供でないことくらいわかっている。だがマトリフにとってはいつまでもあの頃の印象が強く残っていた。
    「ガキは外で遊んでろ」
    「もうガキじゃねぇっての。オレの言葉、本気にしてくれよ」
     その切実な訴えを、切実であるが故に受け取れない。やっとこれから人生を楽しもうという若者に、明日の朝に目覚めなくてもおかしくない老人が相応しいはずがない。
    「……ばぁか。本気にするわけねぇだろ」
     ちぎった不要な葉をポップに向かって投げつける。それは勢いもなくポップに当たり、黒髪の上に乗った。ポップはそれを文句を言いながら払う。葉の独特な匂いにポップは鼻に皺を寄せた。
    「でもオレ知ってんだぜ」
     ポップはマトリフが持っていた薬草に手を伸ばした。マトリフの手を撫でるようにしながら薬草を抜きとる。
    「師匠が薬を飲むようになったの、オレのためなんだって」
     ポップは薬草に口付けてみせる。そして言われたことが図星であったから、マトリフは内心動揺した。長く生きすぎた命を、少しでも伸ばせるようにと薬を飲みだしたのはポップのためだ。ポップが望むならもう少し生きてそばにいてやりたい。そう願っていた。
     だがそれを素直に認められる性格なら苦労してこなかった。マトリフは手を伸ばしてポップの額を指で弾く。
    「いってぇ……」
    「バカなこと言ってるからだ」
    「さっきからバカバカって、そりゃオレはバカなガキですよぅだ」
     拗ねたポップは立ち上がる。その目尻が濡れていることに気付いた。馬鹿なのは己のほうだとマトリフは思う。
    「ポップ」
    「なんだよ。もう帰るから」
     去ろうとするポップの手を掴む。ポップは眉間に皺を寄せて口を引き結んだ。泣きそうなその顔に、罪悪感が募る。泣かせたいわけではない。マトリフはポップに幸せになってほしい。誰よりもだ。
    「……後悔してもいいのか」
     マトリフは呟く。もしポップの幸せが己と一緒にいることなら、それを選んでもいいのだろうか。
    「オレは絶対に後悔なんてしない」
     簡単に絶対などと口にする若者を諭してやりたい気持ちが湧き起こる。だが単純に、後悔なんてしないと言い切ってしまうその輝きに目が眩んだ。
     マトリフはポップの胸ぐら掴む。驚いたポップはバランスを崩した。へたり込んだポップへと顔を近付ける。
    「だったら後悔させてやるよ」
     小刻みに震えていた唇に噛みつくように口付けた。美しくもなければ優しくもない。唇をこじ開けて舌を差し込み、探し当てた舌を絡めとる。やがてポップの息は上がってきた。マトリフはようやく口を離す。
    「し、ししょ……」
    「まぁこれくらいでへばってちゃあ、オレの寿命がいくら伸びてもしょうがねえだろうな」
    「この……このスケベジジイっ!」
    「おめえも十分にすけべだろうが」
     欲望を表す股間の膨らみに触れてやれば、ポップは悲鳴をあげて股間を押さえた。そのまま立ち上がって逃げ出していく。
    「師匠のバカ!!」
    「おう、また来いよ」
     逃げ帰っていくポップの背を見ながらマトリフは己の唇に指を当てた。

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