文披31題・夏の空閑汐♂祭:Day30 掲示板に貼り出された知らせをまじまじと見つめていた汐見は、隣に立つ空閑へと視線を向ける。
「どうする」
「どうせならヴィン達と合わせたいよねぇ」
空閑の答えに頷いて、再び掲示板へと視線を向けた汐見は貼り出された用紙に指を滑らせた。そこに書かれていたのは、ドイツ本校の新入生受け入れ日程と直行便のスケジュールで。
「新学期は十月からでも、早めに行って生活に慣れておきたいよな」
「あと言葉ね、俺もアマネも英語は行けるけどドイツ語は微妙だし」
「ちゃんと学内に希望者向けの語学スクールあるし、それに向けて行く感じか」
手厚いな。感心したように笑う汐見に空閑も口元に弧を描き頷いて。そんな二人に明るく声を投げたのはフェルマーだった。
「どしたの? 二人して掲示板に張り付いて」
首を傾げながらも二人の元へとやってきたフェルマー一向に、ちょうど良い所に来たと口端だけを上げた笑みを浮かべた汐見は指先で掲示物をトントンと示してやる。
「本校の新入生受け入れと直行便の日程出たんだよ、お前らはどのタイミングで行くのかと思ってさ」
汐見の言葉にナルホドと頷いたフェルマーは、高師へと視線を向ける。問いかけるような視線を向けられた高師は少し考えるように視線を揺らしたが、次の瞬間にはフェルマーへと答えを返していた。
「一番早いので良いだろう、語学スクールも通っておきたいし、タロンの改修も吉嗣さんに引き継いだんだろ?」
「俺も意義なし」
「じゃぁ決まりだ」
高師の答えに篠原が追従し、汐見が決定と頷く。その様子を確認した空閑は、シャツの胸ポケットに差し込んだままにしていたボールペンで貼り紙の下に繋げられた記名欄へと五人分の名前を書き入れた。
「空閑、いいボールペン使ってんだな」
「アマネからの誕生日プレゼントなんだ! 無重力でも使えるやつだよ」
空閑が手にしていたボールペンの感想を口にするのは高師で、そんな高師へと空閑は嬉しそうに笑みを深める。
「スペースペン? 汐見も思い切ったなぁ」
カラカラと笑いながら、揶揄うように言葉を投げる篠原に汐見を白々しく肩を竦めて見せるのだ。
「こういうのは、長く使えるもんの方が良いだろ」