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    はるち

    好きなものを好きなように

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    POIPOI 187

    はるち

    DOODLE振り返らないで前だけ見てね

    音律リー先生でその場所から出られない系のお話です!リクエストありがとうございました~!
    オルフェウスの残響 振り返ってはいけない。振り返れば、あなたは塩の柱になってしまうから。
     振り返ってはいけない。振り返れば、愛しい人を冥府の底へ置き去りにしてしまうから。
     振り返ってはいけない。振り返れば、愛する人が既に腐敗した只の肉塊であると気付いてしまうから。
     振り返っては。
     
    「……」
     目覚めたドクターは、夢の名残を振り払うように頭を振った。陽の光を隙間から零しているカーテンを開け放つと、太陽の眩しさが目を焼き、瞼の裏側に残る悪夢の余韻を焼き清めた。それでも胸の内側へと積もった澱までを祓うことはできず、だからのろのろと寝台から這い出したドクターはシャワー室へと向かった。随分と魘されていたのだろう。汗で下着が肌に張り付いて気持ち悪い。喉の渇きに、ドクターはテーブルの上へと放置されていたペットボトルに手を伸ばした。一晩封を開けて放っておいたものに口をつけるのはやめてくださいよ、腹でも壊したらどうするんです――という声が聞こえた気がして、それが幻聴でしかないと理解しているからこそ、耳を塞ぐように生温い茶を煽った。勢いをつけすぎたせいで唇の端から溢れ出し、寝巻を濡らす。どのみち洗濯が必要だから、とドクターは肌を濡らす感触を無視した。生温かいそれは、どうにも、血が肌の上を伝い落ちる感覚と似ていた。彼を失ったあの夜に、大地を濡らした赤色も、同じ感触がするのだろうか。
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    はるち

    DONEドクターの死後、旧人類調技術でで蘇った「ドクター」を連れて逃げ出すリー先生のお話

    ある者は星を盗み、ある者は星しか知らず、またある者は大地のどこかに星があるのだと信じていた。
    あいは方舟の中 星々が美しいのは、ここからは見えない花が、どこかで一輪咲いているからだね
     ――引用:星の王子さま/サン・テグジュペリ
     
    「あんまり遠くへ行かないでくださいよ」
     返事の代わりに片手を大きく振り返して、あの人は雪原の中へと駆けていった。雪を見るのは初めてではないが、新しい土地にはしゃいでいるのだろう。好奇心旺盛なのは相変わらずだ、とリーは息を吐いた。この身体になってからというもの、寒さには滅法弱くなった。北風に身を震わせることはないけれど、停滞した血液は体の動きを鈍らせる。とてもではないが、あの人と同じようにはしゃぐ気にはなれない。
    「随分と楽しそうね」
     背後から声をかけられる。その主には気づいていた。鉄道がイェラグに入ってから、絶えず感じていた眼差しの主だ。この土地で、彼女の視線から逃れることなど出来ず、だからこそここへやってきた。彼女であれば、今の自分達を無碍にはしないだろう。しかし、自分とは違って、この人には休息が必要だった。温かな食事と柔らかな寝床が。彼女ならばきっと、自分たちにそれを許してくれるだろう。目を瞑ってくれるだろう。運命から逃げ回る旅人が、しばし足を止めることを。
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