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    はるち

    好きなものを好きなように

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    はるち

    DONEルナカブの戦闘終了台詞を受けて。
    作戦後にご飯を食べるお話。
    Dinner is ready.「ふぁ……疲れたぁ。お前が言ってたことは全部片づけたぞ、もうご飯食べていいか? 今日のメニューはなに?」
     
    「今日は油淋鶏ですよ」
     同じ隊に編成されていた男の言葉に、ルナカブは大いにはしゃいだ。先程まで疲れたと言っていたのが嘘のように明るい表情で、兎のように男の周囲を跳ね回る。
     あれは数えて七つ前の任務の時だった。おれも同行必須ですかあ? とげんなりとした表情で隊列に加わり、はいはい行きますよ、と嘆息して天を仰いでいた。ルナカブが隊長らしく、一生懸命やらないやつに獲物は分けん、と宣言すると、男は苦笑した。
     その態度に反して男は優秀な狩人で、そして料理人だった。ルナカブは調理といえば焼く、といった素朴なものしか知らなかったが、男はそれらを魔術のように組み合わせて奇跡的な料理を作っていた。男が現れる時の食堂が祝祭のように沸き立つのも納得だ、とルナカブは男特製の、赤くてたっぷり肉とトマトの入ったもの――ミートソーススパゲッティ、というらしい――を食べながら深く頷いた。こんなにおいしいものは、エクシア達が言う「パーティ」に参加したときに食べた植物の種を爆発させてできた丸いやつや、甘くてなめらかなミルクのふわふわしか――いや、それよりもっと美味しいかもしれない。
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    はるち

    DOODLEロドスでダンスパーティーが開かれるのは公式というのが良いですね
    shall we dance「あなたには、ダンスはどのような行為に見えるかしら?手を相手の首元に添えて、視線を交わせば、無意識下の反応で、人の本心が現れるわ」

    踊ろうか、と差し出された手と、差し出した当人の顔を、リーは交互に見た。
    「ダンスパーティーの練習ですか?」
    「そんなところだよ」
    ロドスでは時折ダンスパーティーが開催されている。リーも参加したことがあり、あのアビサルハンター達も参加していることに少なからず驚かされた。聞けば彼女たちの隊長、グレイディーアは必ずあの催しに参加するのだという。ダンスが好きなんだよ、と耳打ちしてくれたのは通りがかりのオペレーターだ。ダンスパーティーでなくとも、例えばバーで独り、グラスを傾けているときであっても、彼女はダンスの誘いであれば断らずに受けるのだという。あれだけの高嶺の花、孤高の人を誘うのは、さぞかし勇気のいることだろう――と思っていたリーは、けれどもホールの中央で、緊張した様子のオペレーターの手を取ってリードするグレイディーアを見て考えを改めた。もし落花の情を解する流水があるのならば、奔流と潮汐に漂う花弁はあのように舞い踊るのだろう。グレイディーアからすれば、大抵の人間のダンスは彼女に及ばないはずだ。しかしそれを全く感じさせることのない、正しく完璧なエスコートだった。成程、そうであれば、高嶺の花を掴もうと断崖に身を乗り出す人間がいてもおかしくない。
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    はるち

    DONEリー先生の告白を断る度に時間が巻き戻るタイムリープ系SFラブコメです。

    別ジャンルの友人の話に影響を受けて書きました。SFは良いぞ。
    Re:the answer is up to_you.「あなたのことが好きなんですよ」
     
     take.1
     
     コーヒーの旨味とは酸味と苦味で決まる。それに加えるミルクは酸味を殺し、砂糖は苦味を殺す。であればそれらを過分に加えたこのマグカップの中に満ちているのは最早コーヒーの概念とでも言うべきものだろう。それでもこの器に満ちたものが十二分に美味しいのは、やはりこれを淹れた人間の腕と言うより他ない。茶を淹れる方が得意なんですけどねえ、と彼は言っていたが、他のものであっても彼はそつなくこなした。こんなものに舌が慣れてしまった今となっては、もうインスタントコーヒーの味には戻れない。以前は書類仕事を頼むだけで嫌そうな顔をしていたものだが、今は執務室に来る度にこうして頼んでいる仕事以外の雑務も自分から行ってくれる。今の時刻は午後四時、書類仕事にも一段落ついて一息入れるには丁度いいタイミングだ。最近の彼はこうして一杯を淹れてくれるだけでなく、それに合わせた茶菓子も――今日はクッキーだった――用意してくれる。その甲斐甲斐しさを、どういう風の吹き回しかと思っていたのだが。
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    はるち

    DOODLEサボテンを育てるドクターのお話
    太陽と水、風に土、そして 植物を適切に育てることは、なかなかどうして難しい。
     ドクターは自室の窓辺に置かれたサボテンを見て眉をひそめた。数日前にサルカズの傭兵から受け取ったものだ。ある種の気紛れ、戯れの一種だろう。花が咲いては散り、朽ちていくさまを楽しむ彼にとって、この植物はあまり好みではなかったから押し付けられただけという説もあるが。
     植物は水をやれば良い、と思っていたのだが、それは大きな思い違いであるということを理解するのにさほど時間はかからなかった。水をやり過ぎれば根腐れを起こす、さりとてやらなければ枯れてしまう。人間にとって適切に管理された温度と湿度がこの植物にとっても同様であるかと言われればそういうわけでもなく、可能な限り日光を浴びられるよう腐心する必要もあった。そもそも水を上げるだけで済むような単純な性質を有しているのであれば、ラナを始めとする療養庭園の面々が日夜苦労をする必要もないのだ。研究室で自分が実験用の細胞を培養していたときも、適切な温度管理と栄養状態の管理は必須だったことを思い出し、ドクターは改めて眼前にある生命の神秘を見つめた。いっそのことフィリオプシスにも相談して植物の管理用プログラムでも作成したほうが良いかもしれない――と思ったところで、あのサルカズの皮肉げな笑みが脳裏をよぎる。果たしてお前に本当にできるのか、と言わんばかりの笑みで、この鉢植えを手渡した彼のことを。
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    はるち

    DOODLEドクターが他の人の料理でぷくぷくになってたら先生は浮気だって怒ると思いますか?
    「浮気じゃないですか」
    「浮気にはならないだろ」
    「じゃあこの腹はなんですか」
    「やめろやめろ触るな揉むな! 気にしているんだよ!」
     腕の中でぎゃいぎゃいと騒ぐつがいを、リーは不承不承と言った体で解放した。唇を尖らせる様はくたびれた中年の風貌に似合わずまるで少年のようだった。そんな振る舞いも似合うんだからこの男は狡い、とドクターは内心で溜息を吐いた。それが惚れた欲目と呼ばれるものであることに、本人だけが気づいていない。
     手を離せ、という言葉に従ったリーだったが、その視線は尚もドクターの腹部に注がれていた。とはいえそもそもの発端はリー自身であり、だから強くは出られないのだろう。
     きっかけはリーが自身の仕事のためにロドス本艦を一ヶ月ほど離れたことだった。出発前に、彼は龍門にいた頃からの馴染みであるジェイにこう言ったのだ。――おれがいない間、ドクターの食事の面倒を見てやってくれませんか、と。そして根が真面目なジェイは、その頼みを忠実に果たした。ドクターが夜遅くまで仕事をしているときは夜食を差し入れ、形態栄養食品やインスタントラーメンで食事を済ませようとしたときには代わりに食事を作っていた。
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    DOODLEハッピーバレンタイン
    petits fours どうもこの大地は既に二月十四日バレンタインを迎えているらしい。
     そのことにドクターが気づいたのは、カーテンを開けた時だった。差し込む朝日は徹夜明けで充血した目を容赦なく焼き、まだ休んじゃだめですよという誰かの声が日差しに混ざって眠気を部屋の片隅へと追いやる。立て込む業務に押し流されて一睡もしていない今、体感としては十三日の三十三時なのだが、しかし暦というものは往々にして人間の意志とは関係なしに進行するものだ。守るように厳命される一方で、締切が人間を待ってはくれないように。
     十四日ということは、と疲労で朦朧とした頭に一つのイメージが浮かぶ。それはここ一ヶ月に渡ってクロージャが切り盛りする購買部を始めとしてロドス内の商店街、のみならず訪れる移動都市を甘い香りで包み込んでいた祝祭だ。しかしその華やかな気配とは裏腹に、ドクターは胃の腑から急に身体が冷えていくのを自覚した。この祭りを祝う準備を、自分は何一つとしてしていない。その原因は主として危機契約にあり――、嗚呼、先日サルヴィエントの洞窟で恐魚達の相手を任せたりカジミエーシュの大通りで無冑盟の矢面に立たせたりしていたとき、彼は何と言っていた? 帰ったら奢ってもらうと言っていたのではなかったか? あのときはいつものことだと聞き流していたが、しかし今にして思えばそれは別の意味を含んでいたのではなかったか。例えばそう、バレンタインのチョコレートと言った。
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    はるち

    DONE「どうも私は、死んだみたいなんだよね」
    イベリアの海から帰還したドクターは、身体が半分透けていた。幽霊となったドクターからの依頼を受けて、探偵は事態の解決に乗り出すが――
    「ご依頼、承りました」
    この謎を解く頃に、きっとあなたはもういない。

    という感じのなんちゃってSFです。アーミヤの能力及びドクターについての設定を過分に捏造しています。ご了承下さい。
    白菊よ、我もし汝を忘れなば 青々たる春の柳 家園に種うることなかれ
     交は軽薄の人と結ぶことなかれ
     楊柳茂りやすくとも 秋の初風の吹くに耐へめや
     軽薄の人は交りやすくして亦速なり
     楊柳いくたび春に染むれども 軽薄の人は絶えて訪ふ日なし
     ――引用 菊花の約 雨月物語


    「どうも私は、死んだみたいなんだよね」

     龍門の夏は暑いが、湿度が低いためか不快感はさほどない。先日任務で赴いたイベリアの潮と腐臭の混じった、肌に絡みつくような湿気を七月の太陽が焼き清めるようだった。あの人がいたならば、火炎滅菌だとでも言ったのだろうか。未だ彼の地にいるであろう人物に、そう思いを馳せながら事務所の扉を開けると、冷房の効いた暗がりから出たリーを夏の日差しと熱気が過剰な程に出迎える。日光に眩んだ鬱金の瞳は、徐々に真昼の明るさに慣れる中で、有り得ざる人影を見た。
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    はるち

    DONE椿さん(@qt47uh )のツイートより。
    龍門弊が足りないドクターがお金欲しさに怪しいバイトに手を出して、それが鯉先生にバレてしまうお話。
    フリー素材というお言葉に甘えて書かせていただきました。ありがとうございます!
    How much, darling? ドクターは龍門弊の枯渇に喘いでいた。
     チェルノボーグで石棺から目覚めてからというもの、金策に苦しまなかった日はなかった――ただの一日もなかった。オペレーターたちに戦場以外の場所でも経験を積んでもらうために作戦記録を見てもらうのにも時給が発生し、それを支払うのは当然ロドス側になる。昇進に当たり彼らに相応しい装備を用意するのもこちらで、費用に加えて別途材料が必要になる。それも一段落したと思えば今度はエンジニア部が新しく開発したモジュールシステムだ。既存の武器や防具に外付けのデバイスを搭載することでさらなる戦闘力の強化が望めると、このシステムの開発のために徹夜してきたと思わしきエンジニアは機械油で汚れ、隈も色濃い顔で、それでも眼光だけは少年のように輝かせて熱弁を振るっていた。全ては作戦の成功率を上げるため、犠牲も負傷者も少なく作戦を終わらせるためである。それはわかっている。わかっているのだが。
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    はるち

    DONEリー先生の尾ひれを見るたびにドキドキするドクターのお話。
    その鮮やかさを覚えている 覚えているのは、黒と金。
     石棺で眠りについていた二年。あの漂白の期間に、自分はかつての記憶のほとんどを失った。それを取り戻すために、主治医であるケルシーとは幾度となくカウンセリングを行ったが、その殆どは徒労に終わった。医学的には、記憶喪失になってから一年が経過すると、記憶が戻るのはほぼ絶望的とされる。だからこれで一区切りをする、と。ケルシーは診察の前にそう前置きをし、そうして大した進展もなく、最後の診察も終わった。言ってみればこれは届かないものがあることを確認するための手続きだ。現実を諦めて受け入れるための。失われたものはもう二度と戻って来ないのだ、ということを確認するための。
     ドクターは書棚からファイルを取り出した。ケルシーとの診察の中で、自分に渡された資料の一部だ。何でもいいから思いつくものを、思い出せるものを書いてみろと言われて、白紙の上に書いた内面の投影。他者からすれば意味不明の落書きにしか見えないだろう。しかしケルシーにとっては現在の精神状態を推量するための材料であり、ドクターにとっては現在の自分を構成する断片だ。
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    はるち

    DONEカンタービレの台詞を受けて。二人の信頼のお話。
    信頼は儚い人間のために 好意とは形を変えた硬貨だろうか。無償で手渡されるそれを無邪気に受け取ることが出来るのは幼さの特権だ。何故なら私達は骨身に染みて知っているから。ただより高いものはないと。いつか対価を要求されることを。見返りを求めない好意なんて不安なだけだ、という彼女の言葉を思い出す。それは全くその通りで、私はこうして目の前に置かれた茶の一杯に手を出すことすら恐ろしい。
    「今日は珈琲の気分でしたか?」
     まだ湯気を上げている茶は、彼が手づから淹れたもので、それがどれほど美味しいかを私は知っている。私が飲もうとしないことを不思議がっているのだろう。こちらを見つめる鬱金色は訝しげな色を宿している。
    「……ねえ、リー」
     私は、ベルトから下げている玉佩に手を伸ばした。つるりと冷ややかな手触りが、身体から余計な熱を奪っていく。昇進式の日に、彼が勲章と引き換えにくれたものだ。私が手渡した勲章には、どんな意味があっただろうか。彼の能力に対する期待、これからも重用していくという意思表示。であれば、彼が差し出したこれにはどんな意味があるのだろう。信じてくれますかい、と言った言葉の真意を。
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