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    ori1106bmb

    @ori1106bmb
    バディミ/モクチェズ

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    #モクチェズ
    moctez

    ワンライ(ずぶぬれ/歌)「奴さんたち驚いとったねえ」
    「あれが最適な脱出ルートでしたので」
     白々しく嘯くと、相棒は「まあ、一番近道っちゃその通りだけども」と苦笑した。
     調子はずれな歌が、狭くて黴臭いバスルームに響く。
     対面で機嫌良く歌っている男に、私は胡乱な目を向けた。

     今宵の敵アジトへの潜入作戦。目的を首尾よく果たした私たちは、海の中へとランデブーした。
     極寒ではないが、それなりに高さのある崖から海へ飛び込んだ侵入者たちに、敵は驚愕していた。「馬鹿な」「探せ」「いや、助かるはずがない」
     慌てふためく構成員たちを余所に、我々は予め確保していた脱出ルートからまんまと逃げおおせた。単純に、海を泳いだだけなのだが。
     濡れ鼠のまま駆け込む先は、予めチェックインしておいたモーテル。現場から最も近いという理由のみで選んだため、室内は簡素だ。己の衛生基準を少々下回っていたが、贅沢も言っていられない。それに、リハビリの進んだ今の私ならば、多少の濁りは許容範囲だ。
     海水によってダメージを受けた国宝級のキューティクルを保護すべく、一刻も早くシャワーを浴びたかった。けれどそれは先程から「ぶえっくし!!」とわざとらしいくしゃみを連発している守り手も同じ。モーテルのシンプルな室内で駆け込む先は当然、ひとつきりのユニットバスだ。
     体にまとわりつく海水まみれの潜入服を脱ぎ去り、シャワーのコックをひねったのはどちらが早かったか。結局、双方権利を譲らず、ふたりでシャワーを浴びることになった。
     相棒が「ずいぶんリハビリが進んだねえ」と笑う。
    「山小屋では勝手に人の体を直視しておいて、今更ですよ」
    「いやいや、さすがにあん時ゃパンツまで脱がせてないし」
     同道を始めて二年近く。ここに来て、初めての裸のつきあい。
     狭苦しいバスタブの中に立ち、吐息さえ感じられそうな距離でふたり、海水と汗を流す。互いの裸体を覆っているのは、天井から降り注ぐレインシャワーのみ。私の視線の先には、逞しい裸体を惜しげもなく晒して体を洗う守り手の姿がある。
     こちらも同じく肌を露わにして、愛用のシャンプーとトリートメントで髪をケアし、海水を洗い流す。
     だがこちらの剥き出しの肢体を目にしようが、相手は少しも気にならないようだった。齢三十の同性の体を見たところで、一般的な性癖の男は性的欲求を覚えない。当然といえば当然か。
     ただ、反応が知りたかった。ある人種にとっては魅惑的に映るらしいこの体が、相棒の瞳にはどう映るのか。
     何も起こらないのならばこれ以上仕掛けるつもりもない。大人ふたりにとっては狭すぎるバスルームからさっさと退散しようとした時だった。
    「ちょい待ち!」
     突然バスタブの中へ引き戻され、またシャワーを頭から浴びる羽目になる。
    「モクマさァん……」
     恨みがましく見つめれば、強引に腕を引いた男はさほど悪びれる様子もなくヘラヘラと笑っていた。
    「せっかくだし、もうちょい裸の付き合いしない? 濡れた後だし、体の芯から温まらんと風邪引いちまうよ」
    「シャワーで十分ですよ」
    「まあまあ。そんじゃ、うちの大将らしくない強引な作戦に中年を付き合わせた詫びっちゅうことでさ」
     相手の目の奥に潜むのは、こちらの思惑を見抜くかのような鋭さ。
     またしてもずぶ濡れになったが、最初にずぶ濡れを強要したのは、彼が指摘するとおりこちらが先だ。観念して彼の要望に付き合い、狭いバスタブに湯を張ることになった。
    「これで満足ですか?」
    「うんうん。俺はミカグラ生まれだからさ、ゆっくり湯船に浸かりたいんだよね」
    「普段はカラスの行水のくせに何を言うやら」
     向かい合わせに腰を下ろせば、互いの足が湯の中でもつれ合う。肌も触れ合うほどの狭いバスタブ。相手の脛毛の感触が、水の中でも少々不快だった。
     決して居心地が良いとは言い難いのに、それでも眼の前の男は満足げだ。
    「は~……極楽、極楽」
    「こんな狭苦しい風呂が?」
    「そりゃあもう。念願の裸のつきあいだもの。地獄も極楽ってもんだよ」
     挙げ句に歌まで機嫌良く歌い出した。
     ただ「いい湯だ」と歌っているだけのくだらない歌。バスルームという空間のせいか、低音が無駄に甘く響いている。
     じわり、じわりと肌に汗が滲み出る。次第に体も温まってくる。
     ほんのわずか身じろぎするたび、バスタブのふちから零れ落ちそうな湯。
     海に落ち、共にシャワーを浴びるところまでは想定済みだった。だが、強引に湯船に誘い込まれるなど想定外だ。
     体の芯から解されていくうち、気も口の栓も緩んでしまいそうになる。これが相手からの意趣返しだとしたら、とんでもない下衆の所業だ。
     このネジの全て外れた頭が、いつ「ここから一歩先へと進む気はないのか」と言い出すか。
     調子をわざと外して歌っているかのような食わせ者との、まるで我慢比べのような地獄のひとときだった。
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