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    ori1106bmb

    @ori1106bmb
    バディミ/モクチェズ

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    #モクチェズ版ワンドロワンライ
    #モクチェズ
    moctez

    ワンライ(ふうふ/言語)「……ス。ボス。もう朝ですよ」
     目を覚ますと、とんでもなく綺麗な顔が僕の顔を覗き込んでいた。
     けれど今までの半月ほどで、この光景にも慣れたものだ。「おはよう、チェズレイ」と挨拶して、あくびを噛み殺しながらダイニングへ向かった。廊下まで漂っている、たまらなくいい匂いに惹かれるように。
    「おはようさん、ルーク。顔洗っといで。朝ごはんできてるよ」
     朝から満面の笑みを浮かべるモクマさんが用意していたのは、つやつやの白米に焼き魚(たぶんアジだ)、味噌汁に焼き海苔。マイカの里でもてなされた時のような、純ミカグラ風メニューだ。
     言われるまま顔を洗いに洗面所へ向かうと、先客がいた。
     アーロンが歯磨きをしている横から、割り込むようにして洗面台を使う。男二人では狭苦しいことこの上ないが、こういう時間もちょっと楽しかったりする。相棒の方も、邪魔そうにしながら僕を退かす気はないようだ。
    「……あ、そうだ。なあ、アーロン」
    「あんだよ」
    「君、『アリアケ』って何か知ってるか?」
     歯ブラシをくわえたままの相棒は、怪訝そうに眉を顰めた。
    「アリアケ……?」
     そして僕の言葉を反芻するように呟いた途端、急に獣が毛を逆立てるようにブルッと体を震わせた。
    「……おい。まさか、おっさんと詐欺師に関係することじゃねえだろうな?」
    「すごいな、アーロン! どうしてわかったんだ?」
     それを聞くや否や、アーロンはガラガラペッ!と口をゆすいでさっさと洗面所を出て行った。「第六感でまで馬に蹴られたくねえんだ、こっちは」などと、ぶつくさ呟いて。

     どこへ行くのかと思いきや、アーロンはきちんと食卓についていた。もうモクマさんとチェズレイも待っている。四人で手を合わせ、楽しい朝食の時間が始まった。
    「チェズレイ、ちょいと……」
    「はい、醤油ですね。どうぞ」
     炊き加減が絶妙な白米(たぶんチェズレイが調理したものだろう。モクマさんは硬めだったり、柔らかめだったり日によってまちまちだ)を口いっぱいに頬張りながら、向かいに座るふたりのやりとりを眺める。
     チームBONDが結成されてから、もうじき三年が経とうとしている。DISCARD事件を解決し、BONDは一旦解散となったが、モクマさんとチェズレイはミカグラ島を出てからもずっと一緒に過ごしてきた。
     全てを言わずとも相手の思考を察するふたりは、息が合っている……というより、相手のことなら何でもわかっているかのような。そんな風に感じる時がある。
     さすがは相棒……というより、もはや人生のパートナー。僕は両親のことを覚えていないけれど、家に「夫婦」という存在がいたら、もしかするとこんな感じかもしれない。
     そんなツーカーなふたりが、先日密かに話していた。
     まるで僕たちの目を盗むかのように、ふたりきりのキッチンで、ひそやかに。
     ――もうじきアリアケだ。
     これはもしや、世界征服を企む悪党の悪巧みを聞いてしまったのでは? ……なんて思ったが、ふたりはこの《警官の》家への滞在中は、活動休止バカンス中。日頃は僕の家で料理をしたり、掃除をしたり、洗濯したり……家主としてはありがたいことこの上ないのだが。
     タブレットでグルグル先生に「ariake」と聞いてみたところ、それらしい言葉は検索にヒットしなかった。
     きっと、僕たちが普段使っている言語ではない……。思うに、この響きはミカグラ語なんじゃないだろうか?
     ミカグラのことといえば、モクマさん本人に聞くのが早いのだが、あの立ち入れない雰囲気を思い出せば、何となく直接訊ねることは躊躇われた。
     ならば、当たるのは他のミカグラ出身者だ。
     さすがは僕と同じ歴史好き。連絡してみたら、多忙なはずの歌姫はすぐに答えをくれた。
    『アリアケ……あ。前に古い歌で読んだことがあるよ。有明の月、ってフレーズ。昔のミカグラでは、月にいろんな名前をつけてたの』
    「月……!」
     もうじき、という言葉とも辻褄が合う。ふたりは月の話をしていたんだ。
    「それってどんな月のことなんですか?」
    『えっとね……』

    「今夜も冷えますので、布団をしっかりと被って、暖かくして寝てください。おやすみなさい、ボス」
    「おやすみ、ルーク」
     挨拶した後、僕は自室でベッドに入り、部屋の灯りを消した。
     これでふたりは僕が眠ったと思っているはずだ。張り込みは得意……というより本職だ。チェズレイが手入れしてくれたふかふかの羽毛布団の中で、時折睡魔に襲われながら、僕はその時を息を潜めて待った。幼い頃、クリスマスにサンタクロースを待っていた時のような気持ちで。
     草木も眠る時間をとうに過ぎた頃、部屋の外から物音が聞こえてくる。そして物音は家の外へと移動した。
     自分もベッドを抜け出て、室内から外の様子をそっと窺う。
     窓の外には、思わぬ光景が広がっていた。
    「あっ……」
     玄関前にあたる、我が家の前庭。
     そこに普段はないテーブルと椅子が置かれている。座っているのはもちろん、モクマさんとチェズレイだ。
     ふたりはテーブルの上に並べた酒を飲んでいた。
     僕はふと、昔、オフィス・ナデシコのベランダで楽しげに晩酌していたふたりのことを思い出す。あの時はチェズレイが大笑いしていて、モクマさんはチェズレイの手を握っていて、とても間に割って入れるような雰囲気じゃなくて……。
     でも、今回はあの時とは違っていた。
    「……うん?」
     モクマさんが、こちらに気づいてしまった。
     カーテンの隙間から覗かせていた目と、ばっちり視線が合う。盗み見してしまったことを弁解しなければと、僕はパジャマの上からコートを羽織った。
    「チェズレイ、どうやらバレちまったみたいだよ」
    「おやおや……よい子は眠る時間だというのに」
     悪戯が見つかった子どものように、ふたりは目を丸くする僕を見て楽しそうに笑っていた。
    「ふたりとも、こんな夜更けにどうして」
     朝が遅い冬とはいえ、もう夜明けの方が近いくらいの時刻だ。晩酌するなら、もっと早い時間にすればいいのに。
    「習慣っちゅうか……こうやって有明の月を眺めながら晩酌するのが好きでね」
     見上げる先には、三日月と反対向きの月……有明の月が、夜空で美しく弧を描いていた。
     スイさんが教えてくれた。満月が新月になるまでの間に浮かぶ月……夜更けに昇る夜明けの月のことを、古いミカグラ語で「有明」と呼んだのだそうだ。
    「有明の月に、何か思い出でもあるんですか?」
     思い切って聞いてみると、モクマさんとチェズレイは、ふいに視線だけを絡ませる。チェズレイは静かに笑って目を伏せ、モクマさんは「そうだよ」と深い笑みを称えた。
     きっとこの先も、掘り下げれば教えてくれるんだろう。でも、ふたりだけの大切な思い出に、どこまで踏み込んでいいものか、僕はまだ測りかねていた。
     心とはうらはらに、体は嘘をつけないものである。寒い、と全力で訴える体が、空気を読まずに盛大にくしゃみをした。
    「へっくしょい!!」
    「あァ、ボス。ティッシュで鼻をかんでください。このブランケットもどうぞ」
    「ちょいとルークも酒でも飲んでさ、温まっていきなよ」
     甲斐甲斐しくティッシュを手渡され、度数の高いどぶろくを盃に注がれる。
     まだ酒をあおってもいないのに、心が温まるのを感じる。ふたりの秘密の晩酌に招き入れられたことに、僕はにんまりと口の端が上がった。
    「アーロン! 君も来ないか?」
     せっかくなので屋根の上で寝ているはずの相棒にも、ご近所迷惑にならない程度に声をかけてみる。きっと耳のいいアーロンには、最初から全部聞こえていただろう。「うるさくておちおち寝てらんねーわ」とぶつくさ言いながら、上から降りてきた。
     月が見守る空の下で、僕たちは酒を酌み交わした。楽しい一カ月間の、とある一夜のことだった。
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