オスアキがホットドッグを食べて胸に挟まれる話のつづきの途中まで ◇◇◇
三日後。
結論から言えば、『告白ホットドッグ』を食べた人間の突撃先が、その人間の恋愛対象だとは断定できないことが判明された。
「アキラ君を含め、あのホットドッグを食べちゃった人たちの問診内容を調べたんだけどさ、彼らが飛び込む先は、あくまであれをモグモグ食べてる間に考えてた『人物』を広~~く対象にしているみたいなんだよね。例えばその人が恋愛的に気になってる人だけじゃなく、自分の血のつながった兄弟や肉親。果ては勤め先のニガテ~な上司や、得意先の社長さんなんかもそうだったみたい。いや~、当初は恋愛対象だけだって方々でウワサされていたみたいだから、飛び込んだ人も飛び込まれた人もこの三日間、ものすっごく気まずかったろうねえ~アハハ」
「しかし、ノヴァ。これで【サブスタンス】は摂取した人間が持つ言語野の干渉だけではなく、短期記憶内の人物を参照して無意識の歩行を促す力があることが証明されましたよ」
オレという当事者を前にしてヴィクターとドクターは勝手に活き活きと【サブスタンス】談義を始めた。医療分野の機関を対象に運動中枢の研修者とアレして被験者を募ってどうのこうのと難しい話をしている。あと二時間は余裕でしゃべり続けそうだ。先にドクターたちから処置を受けていてよかった。
晴れて「メンターへの密やかな恋を暴かれてしまったサウスのルーキー」「ホットドッグに裏切られた男」の名を返上した俺は、騒がしい研究室を適当に後にした。
『いろいろあったけど、これでもうオスカーの胸に不用意に飛び込んだりする危険はなくなった、んだよな……?』
あの一件以来、オスカーとまともに話していない。
お互いになんとなく気まずくてトレーニングルームを使う時間やランニングのルートを変えてしまっていた。
『……でも、もう大丈夫だ! オレたちはまた元のメンターとルーキーに戻れる!』
サウスの部屋に戻ったらまたオスカーといつもみたいに勝負をしよう。
できればスパーリングがいいけれど、面白ければゲームでもなんでもいい。
何をしようかワクワクしながらタワーの廊下を小走りで移動していると、後ろから聞き覚えのある声で「アキラ」と名を呼ばれた。
振り向けば、呼んだ相手は思ったとおり、
「オスカー?」
「……」
大窓から差し込む夕陽が、オスカーの背を強く照らしている。
表情は暗くてよく見えない。
「話がある。時間はいいか」
「……おう」
いつもとは違う、どこか重苦しく感じる声音に、オレはもうあの『元』には戻れそうにない予感がした。
□□□
夢を、見ていた。
なぜかあの無人島で、俺とアキラはふたりっきり――星が目映い夜空を背景に、浜辺を裸足で歩いて行く。手をつないで。世界中どこにでもいる、ただの恋人みたいに。
前を行くアキラは俺のほうを振り返り、手を離したかと思うと、こちらに飛びついてきた。砂浜に足を取られて仰向けに倒れた俺の体に、アキラは馬乗りになる。そして人懐こい猫のように、頭を俺の胸にぐりぐり押しつけてくる。
「オスカー。オレたち、ずっと一緒にいような」
アキラは歯を見せて笑った。
『そうか。もうこれから先、お前のこの幼い笑顔や、きらめく緑の瞳、燃えるような赤い髪も、全部俺に――俺だけのものなんだ』
内からにじみ出る、淡い幸せ。野蛮な喜び。
それらすべてを感じ得ながら、夢から目を覚ました。